- 2019年06月07日 09:15
キーエンスが年収2000万超を払える理由
2/2なぜ平均給与2000万円が可能なのか
次に、キーエンスの営業利益率54.1%の要因についても見てみよう。
営業利益は、粗利益から販売費及び一般管理費を差し引いて算出される利益だ。そのため、粗利率が高くても販管費が相当かかっていれば、営業利益率は低くなる。
粗利益が高い業種として有名なのが、資生堂などの化粧品メーカーである。資生堂の粗利益率は78.8%とかなり高いが、営業利益率は9.9%しかない(これでも一般的には十分高い)。
資生堂はブランド価値が高いため、製造原価に多額の利益を上乗せしても販売できる。その一方で、ブランド価値を維持するため、テレビCMなどの巨額のプロモーションコストや百貨店の一等地への出店費用など、販売費が多額にかかるビジネスだ。
医薬品メーカーも粗利益率が高い業種で、おおむね70~80%の企業が多い。しかし、医薬品メーカーは研究開発費に膨大なコストがかかっている。たとえば、武田薬品工業の売上高に対する開発費の割合は17.5%もある。研究開発費は販売費及び一般管理費に含まれるため、営業利益率は必然的に低くなる傾向にある。
その点、キーエンスはどうかというと、BtoBビジネスのため、資生堂のようにプロモーションや出店などの必要がない。膨大な研究開発が必要なビジネスモデルでもないので、売上高に対する開発費の割合はわずか2.2%。顧客ニーズに合致した商品の企画力や発想力が、キーエンスの付加価値の源泉といえる。
このように、キーエンスはもろもろのコストがかかっていない分、社員の給与を高額にする余力があるのである(図表4)。

超キャッシュリッチで安全性が高い
続いて、キーエンスの連結貸借対照表を見てみよう。
まず、資産規模が1兆6000億円と非常に大きいのが特徴的だ。売上高の3倍近くの資産を抱えていることになる。
資産の内訳を見ると現預金が約4600億円を占める。年間の売上合計にせまるぐらいの金額で、キャッシュは非常に潤沢といえる。
潤沢なキャッシュに加え、有価証券と投資有価証券だけで約9500億円もある。おそらく、ありあまるキャッシュを安全性の高い金融商品で運用しているのだろう。つまり、キャッシュや有価証券などの資産だけで1兆4000億円も保有している。これらで資産全体の8割以上を占めているので、事業そのものに使用している資産は本当にわずかしかない。キーエンスのビジネスモデルとしてはそれで十分ということだ。
特筆すべきは自己資本比率の高さだ。94.4%というとてつもなく高い数値を誇り、財務基盤は超盤石だ。その要因は、1兆5000億円もの巨額の利益剰余金にある。利益剰余金は過去からの利益の累積金額だ。1974年の創業から、毎年高い利益を稼ぎ続けてきた結果、これだけの多額の利益剰余金に積み上がったといえる(図表5)。

資金のたまる常識外れの回転期間
キーエンスは、取引先との決済条件である「回収サイト」と「支払サイト」にも特徴がある。
「回収サイト」とは、顧客に商品を販売してから代金が入金されるまでの期間をいう。これは、売上債権回転期間(売上債権÷一日当たり売上高)を計算すれば、おおむね算出できる。
一方、「支払サイト」は、外注先から委託品を納入してからその代金を支払うまでの期間をいう。回収サイトと同様に、仕入債務回転期間(仕入債務÷一日当たり売上原価)を計算すれば、おおむね算出できる。
実際に計算してみると、売上債権回転期間(≒回収サイト)は105.3日であるのに対し、仕入債務回転期間(≒支払サイト)は22.2日しかない。つまり、外注先へは1カ月弱で代金を支払わなければならないのに、顧客からの回収は3カ月以上もかかっているのだ(図表6)。

これでは、収支のタイミングのバランスに欠けるので、経営上は望ましい姿ではない、というのが一般的な見方だ。「回収は早く、支払いは遅く」がキャッシュフロー経営の鉄則である。アップルやアマゾンは、取引上の立場の強さから、外部業者への支払サイトを極端に長くしている。そうすることで、自社に資金をたまりやすくしている。
GAFAと逆張りの戦略
キーエンスの場合は、あえてアップルやアマゾンとは真逆の戦略をとっているのではないか、というのが筆者の見立てだ。
つまり、外注先に代金をすぐに支払ってあげることは、資金繰りがきびしい外注先にとっては非常にありがたい話だ。その代わり、キーエンスは価格面の交渉で優位に立てる。
また、顧客企業に対しては商品を先に納入し、代金の支払いは3カ月後でもいいという条件にすれば、資金繰りがきびしい顧客企業にとっては非常にありがたい話だ。その代わりに、キーエンスは価格面の交渉で優位に立てる。
この戦略により、売値をより高く、外注費をより安くすることができ、利益率をさらに引き上げることができているのではないだろうか。
ただし、この戦略は並の会社は絶対にマネしてはいけない。あっというまに、自社の資金がショートしてしまうからだ。このような戦略は、キャッシュが非常に潤沢にあるキーエンスだから成せるわざだ。
経営の観点から見ると、2015年に創業者の滝崎武光会長が設立40周年を機に第一線から退いた。
カリスマ創業者が退任したとたん、経営がおかしくなる会社は枚挙にいとまがない。キーエンスもどうなることかと世間は懸念していたが、退任から4年たっても経営上にまったく影響はなく、冒頭で説明したとおりに業績は右肩上がりだ。社員の平均給与も、退任当時は1600万円程度だったのが、いまや2000万円超えである(図表7)。

キーエンスに死角はまったく見当たらない。
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川口宏之(かわぐち・ひろゆき)公認会計士
監査法人での会計監査、ベンチャー企業での取締役兼CFOなどを歴任。現在、上場企業の社員研修や各種団体主催の公開セミナーなどで、「会計」をわかりやすく伝える人気講師として活躍中。著書に『決算書を読む技術』『決算書を使う技術』(共にかんき出版)、『いちばんやさしい会計の教本』(インプレス)がある。公式サイト
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(公認会計士 川口 宏之)
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