- 2019年06月07日 09:15
キーエンスが年収2000万超を払える理由
1/2平均年収2088万円と日本一の給与水準を誇るキーエンス。給与が高いだけでなく、業績も7期連続で最高益と絶好調だ。なぜそんな経営が可能なのか。公認会計士の川口宏之氏は「自己資本比率が94.4%と、超盤石な財務基盤をもつ。その結果、取引先への金払いがいいので、価格競争で優位に立てる。いわばGAFAと逆張りの戦略だ」と分析する――。
日本が誇る超優良企業の実力
日本が誇る超優良企業といえば、その筆頭に挙がるのはキーエンスだろう。
同社は工場の自動化に不可欠なセンサー機器や画像処理機器などの開発から販売までを手がける。一般消費者との接点がないBtoBビジネスのため、知名度はそれほど高くないが、順調に成長を遂げている。
決算書に目をやると、2019年3月期の純利益は2261億円と7期連続で最高益を達成。さらに社員の平均年収は2088万円(2018年3月期の有価証券報告書)で、会社四季報によると日本一給料が高い。2012年3月期には1321万円だったので、767万円も増加している。
人件費が多ければコストがかさむ分、利益が小さくなるのがふつうだ。しかし、2019年3月期の連結損益計算書を見ると、営業利益率は54.1%と突出している。キーエンスが属する電気機器業界において、平均の営業利益率は6%程度なので、約9倍の利益率である。
これまでの推移を見ても、売上高、営業利益ともにきれいな右肩上がりに伸びており(図表1)、営業利益率もずっと50%前後を維持している(図表2)。


日本の製造業が軒並み苦戦しているなかで、同じ製造業のキーエンスはなぜ超高収益体質を保つことができているのか。その秘密を数字から探っていきたい。
驚異的な収益力の源泉
キーエンスの営業利益の源泉を知るためには、粗利益をおさえる必要がある。なぜなら、粗利益から販売費及び一般管理費を差し引いて残った利益が営業利益なので、粗利益が大きくなければ、営業利益も大きくなりようがない。
キーエンスの2019年3月期の粗利益率を見てみると82.3%もある。製造業の粗利益率はせいぜい20~30%程度が相場なので、ふつう80%越えの数値はありえない。
たったの17.7%の原価率で、どうやって商品を製造しているのか。その内訳が書いてあるのがキーエンスの「製造原価明細書」だ。
キーエンス単体の製造原価明細書は、2018年3月期の有価証券報告書の中で開示されている。連結ベースの製造原価明細書は非開示だが、連結売上高の8割以上はキーエンス単体の売上高で占めているので、おおむね連結も単体も同水準と推測できる。
製造原価全体の74.7%が材料費で占められており、工場に勤務する社員の人件費を意味する労務費はわずか3%を占めるにすぎない。機械など固定資産の減価償却費はさらに小さい。その代わり、外注加工費が15.5%を占める(図表3)。

「商品の値決め」に秘密あり
このような構成比から、キーエンスが「ファブレス経営」を行っていることは容易に想像がつく。
ファブレス経営とは、自社で工場を持たずに、外部に製造を委託する方式のことをいう。日本ではユニクロを展開するファーストリテイリング、米国ではiPhoneのアップルが有名だ。しかし、両社の粗利益率を見てみると、ファーストリテイリングは約50%、アップルは約40%と、キーエンスの82.3%には遠く及ばない。
では、キーエンスは下請け企業に不当に低い報酬で商品を作らせているのだろうか。そう考えてみて、いくら金額をたたいたとしても、ここまで原価を圧縮することはできない。
つまり、「単にファブレス経営だから」という理由だけでは、キーエンスの高粗利益率の説明はつかない。
粗利益は、売上高から原価を差し引いたもの。したがって、もう一つの要素である売上高に理由があるはずだ。
原価に比べて高い売値で販売できる理由の1つ目は、商品の値決め方法にある。
ふつうは、商品を作るのに要する原価を積み上げ、そこに一定の利益を上乗せして売値を決めるが、キーエンスはちがう。顧客が支払ってもいいと考える金額を把握し、それに応じて売値を決める。
たとえば、製造過程で不良品が一定割合出て困っている工場があるとする。仮に、不良品1個で100万円の損失となり、毎年10個の不良品が発生するならば、5年で5000万円の損失となる。
そこに、キーエンスの検査装置を導入して不良品を未然に防げるならば、顧客が払っていいと思う金額は5000万円までとなる。検査装置の売値が4000万円であれば喜んで購入するだろう。たとえ、その商品の原価が500万円だとしても、である。
真骨頂は「コンサルティング営業」
2つ目は、徹底した顧客ニーズの収集がある。
同様の検査装置を他社でも作っていたら、結局はその会社との価格競争に巻き込まれることになる。だから、そうならないように、キーエンスは顧客ニーズを徹底的にヒアリングして顧客の真の困りごとを膨大に集め、データベース化して商品開発につなげている。その結果、いままでにないオンリーワンの商品が生まれる。類似商品が他にないので、顧客としては、高くてもキーエンス一択しかないのだ。

単に顧客から頼まれたものだけを作るのではなく、現場のことを理解した上で、顕在化していないニーズまでも捉えて顧客に提案する「コンサルティング営業」が、同社の真骨頂だ。
さらに、同じような困りごとを抱えている企業へ横展開して営業することで、収益力はますます増大する。横展開は国内企業にとどまらず、海外企業にも広げており、海外売上高比率は現在50%を超えている。
3つ目は、顧客への直接販売体制である。
ふつうは、販売チャネルを増やすために、代理店を使って自社商品を販売する。しかしキーエンスは、代理店を使わずに、最終顧客に直接販売している。そのため、代理店に中間マージンを取られることなく、利益を丸ごと自社のものにすることができる。しかも、顧客とダイレクトに接する機会が増えるため、顧客ニーズ収集に寄与するという二重のメリットもある。
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