第5章 (親の学び・親育ち支援体制の整備)
第5章 (親の学び・親育ち支援体制の整備)
(民間の、親の学び・親育ち支援ネットワークの構築推進)
第20条
親としての学び、親になるための学びの推進には社会総がかりの取り組みが必要なため、民間の、親の学び・親育ち支援ネットワークの構築を支援し、推進する
すでに触れたが、「育児」に対する「社会総がかりの取り組み」ではない。「親としての学び、親になるための学びの推進」に対する「社会総がかりの取り組み」である。そして、この「学び」の内容が、結局は「乳幼児期の愛着形成」や「親心」や「親の保護能力」で「発達障害を予防、防止できる」という非科学的な内容である以上、社会にとって害悪しかもたらさない。
(民間有資格者の育成に対する支援)
第21条
親としての学び、親になるための学びを支援、指導する「親学アドバイザー」など、民間有資格者等の育成を支援する
「親学アドバイザー」というのは一般財団法人 親学推進協会による民間資格である。このサイト自体が「-親が変われば、子どもも変わる-」という言葉をキャッチフレーズにしており、この条例案のバックボーンとなっているようである。
お父さんの[そらまめ式]自閉症療育: 「親学」問題について、とりあえずのまとめ。では、この「親学」は「脳科学と称するものを主張の根拠にしており、その点において似非科学でもある」と分析し、「少なくとも発達障害ないし自閉症については、はるか30年以上前に息絶えたはずの古い誤った主張が、「脳科学」という現代的フレーバーで古さをカモフラージュしつつ、ある種の政治思想を伴って復古してきたものであり、思想的にはむしろ障害・障害者への差別・排除意識がある」という。
このようなエセ科学に基づく思想を普及する一「財団法人」の思想にのっとり、市がその民間資格をバックアップしようとしている。「ホメオパシーアドバイザーの資格取得を○○市が支援する」というのとまったく同レベルのことが、大阪市で維新の会議員によって提案されようとしているのである。
なお、親学アドバイザー資格を得るには、親学基礎講座をすべて修了(全4講座で13,000円(税込み、別途テキスト代1,680円))した上で、全6講座(25,000円(税込、認定審査料5,000円を含む。別途テキスト代1,680円))が必要となる。合計で4万円を超える。
エセ科学に基づく特定の財団法人の思想にのっとって条例案を出し、しかもその民間資格を支援する、と明記されたこの条例案を通そうとしているのである。もはや「維新」どころか「社会破壊活動」といわざるを得ない。
(「親守詩」実行委員会の設立による意識啓発)
第22条 親と子がともに育つ実践の場として、また、家族の絆を深める場として、親守詩実行委員会を設立して発表会等の催しの開催を支援し、意識啓発をおこなう
「親守詩」とは珍しい言葉である。わたしも初めて知った。ググってみれば、「こもりうた」に対する「おやもりうた」なのだそうだ。愛媛県松山市で生まれたもので、作った人は「明星大学の高橋史朗教授」だという。
高橋史朗教授は、一般財団法人・親学推進協会の理事長をつとめる人物である。元埼玉県教育委員長でもあり、かつて「新しい歴史教科書を考える会」の副会長をつとめたこともあった。親学推進協会を思想的に支えているのは高橋史朗教授ともいえる。過去の経歴はあえて問わない。わたしは「だれが言ったかではなく、何を言ったか」のみで批判するのがポリシーだからだ。そして、今、わたしはその主張そのものに反論している。
「親に対する気持ちを詩にしろ」と子供に強いるのは何とも気色悪い試みだが、これまでの実績としては、愛媛県松山市、香川県、奈良県、沖縄県八重山などで実施されてきているようである。いずれにしても、この条例案が高橋史朗教授ならびに親学推進協会と非常に深いつながりのもとで作られていることが、この条文から明らかとなる。
(家庭教育推進本部の設置と推進計画等の策定)
第23条
1項 首長直轄の部局として「家庭教育推進本部」を設置し、親としての学び、親になるための学び、発達障害の予防、防止に関する「家庭教育推進計画」を策定する 2項 「家庭教育推進計画」の実施、進捗状況については検証と公表をおこなう
最後に、これを市ではなく市長直轄の施策とせよ、という。つまり、橋下徹市長がこれらの事業を強力に推し進められる権限を与えよ、というわけだ。
検証するなら、まずはこの条例のバックボーンとなっている思想そのもののエセ科学性を検証するところから始めてほしいものである。
まとめ
今回の条例案ならびにそのバックボーンとなっている親学思想は、器質性の要因によって引き起こされる「発達障害」を親の責任とし、それを子供の問題の解決策としているもので、完全なエセ科学である。いくら親の愛が深くても、いくら親の育て方に問題がなくても、発達障害の子供は一定確率で生まれうる。その発達障害を負った子供の親に対して、「育て方が悪い」「親心が足りない」「親の保護能力が衰退している」などと言い放つのは、人の心を持たない者による暴力となる。親というものは(特に母親というものは)「これで足りているのだろうか、まだ足りないのだろうか」と不安になるものだが、そこへ「親心が足りないから発達障害になるのです」などと言い放つような政策が採用される暗黒社会にならないことを心から願うものである。
補足
この記事をアップした直後、橋下氏の以下のツイートを見た。
発達障がいの主因を親の愛情欠如と位置付け愛情さえ注げば発達障がいを防ぐことができるというのは科学的ではないと思うという僕の考えを市議団長に伝えました。これからこの条例案について市議団内での議論が始まります。是非大阪維新の会市議団に様々なご意見をお寄せ下さい。
— 橋下徹さん (@t_ishin) 5月 3, 2012