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川崎20人殺傷事件 国内でも先駆的な地域包括支援モデルを構築していた川崎市〜事件を繰り返さないためには

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マリー選手も小学校で無差別殺人に遭遇

[ロンドン発]川崎市多摩区でスクールバスを待っていた私立カリタス小学校の児童ら20人が殺傷された事件から4日で1週間が過ぎました。お亡くなりになられた同小6年の栗林華子ちゃん(11)と、保護者の1人で外務省職員、小山智史さん(39)のご冥福をお祈りします。

テニスの全英、全米で計3回優勝、ロンドン五輪とリオデジャネイロ五輪のシングルスを連覇した英国のアンディ・マリー選手(32)。8歳の時、スコットランド・ダンブレーンの小学校で無職の男(43)が銃を乱射し、児童16人と教師1人を殺害した後に自殺する事件に遭遇します。

Getty Images

マリー選手は校長室の机の下に隠れて助かりましたが、犠牲者の1人になっていてもおかしくありませんでした。大人になってからも事件について口を閉ざしましたが、事件から17年後、TVのドキュメンタリー番組で初めて事件について語りました。

マリー選手は感情を抑え切れず、涙を浮かべて自分の気持ちを素直に語りました。「子供の頃は事件の体験がいかに過酷か分かりません。しかし大きくなるにつれ、分かってくるようになります。ダンブレーンも町の人々も回復し、今は良くなりました」

マリー選手のような強靭な肉体と精神の持ち主でも事件のトラウマ(心的外傷)を乗り越えるのには非常な困難を伴いました。生まれ故郷を覆う悪夢を振り払うためにテニスコートで戦ってきました。マリー選手は「ダンブレーン」のことを語る時、自然と涙ぐみます。

川崎市の事件で今、最優先にしなければならないのは心的外傷を負った犠牲者の遺族と子供たちへのケアです。しかしメディアやネットの関心は別の方向に向けられます。

中高年の「ひきこもり」に一気に注目が集まる

筆者は産経新聞の記者として1984年から16年間、大阪や神戸で事件報道に関わりました。このうち最後の3年間は大阪府警担当のキャップでした。殺しと言えば、まだ「怨恨・痴情・カネ」と言われた時代で、少年事件もひったくりが主流でした。

その一方で、次第に88~89年の東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件や97年の神戸連続児童殺傷事件のような猟奇的な事件が目立つようになり、2000年に西鉄バスジャック事件、01年に大阪教育大学附属池田小事件が起きます。

川崎市の事件では直後に自殺した容疑者(51)が長期間、仕事に就かず、同居していた叔父と叔母が「ひきこもり傾向にあった」と川崎市に相談していたことからひきこもりと無差別殺人の関係がクローズアップされました。

しかし、叔父と叔母が「ひきこもり傾向にあった」と相談しただけで、容疑者が実際に「ひきこもり」だったのか、それとも、ひきこもりに近い心理的な特性を持つ「ひきこもり傾向」にあったのか、容疑者が死んだ今となっては判定のしようもありません。

事件翌日の5月29日、NHKが「川崎19人(当時)殺傷事件容疑者の親族が市に14回相談“ひきこもり傾向”」と報道し、民放各社も「ひきこもり傾向」と報じます。

31日にはNHKが「19人殺傷・容疑者“引きこもり”専門家『対孤立家庭へ部署超えた連携必要』」と指摘。6月3日には産経新聞が「中高年ひきこもり、なぜ?川崎殺傷事件で改めて注目」と取り上げます。

元農林水産事務次官(76)が自宅で長男(44)を殺害し、川崎市の事件に触れ「長男が子供たちに危害を加えてはいけないと思った」「長男は引きこもりがちで、私と妻に暴力を振るうこともあった」と供述したことから、中高年の「ひきこもり」に一気に注目が集まります。

「病気の疑いや社会への怒りを秘めている兆候はなかった」

川崎市精神保健福祉センターは容疑者の伯父や伯母らから17年11月から今年1月にかけ面談で8回、電話で6回相談を受けていたそうです。記者会見や報道によると、川崎市の説明は次の通りです。

【川崎市精神保健福祉センターの津田多佳子担当課長】
「(相談内容は)ご本人が長期間就労していない、ひきこもり傾向にあって、家の中に閉じこもっているような生活環境で、ずっとこの間こられた。そこに外部の人が入るのは大丈夫かという心配ですね」
「今年1月に手紙を置いたということの報告が(伯父と伯母から)ありました。(容疑者は)『自分のことはちゃんとやっている。食事洗濯を自分でやっているのに引きこもりとはなんだ』というふうに」

【同センターの竹島正所長】
「(容疑者には)病気を疑わせるとか、社会への怒りを秘めている兆候はなかった。ただ、こうした事件が起きたので、早期に介入し、支援できる方法を構築していくことが課題」

【市健康福祉局の坂元昇医務監】
「全く一切話しもせずということではないが、(会話は)最小限、限りなく少なかったと思います」 「今回の事件は想定外という言い方は良くないが、非常に我々自身も驚いているのが正直なところです」

家族から「本人なりの考えがあるので、しばらく様子をみたい」との連絡があり、相談は打ち切られましたが、容疑者本人から話を聞くことはなかったそうです。

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