- 2019年06月03日 15:15
なぜマックではポテトを頼んでしまうのか
1/2マクドナルドのメニューは豊富だ。それなのにハンバーガーとポテト、飲み物を組み合わせた「バリューセット」を頼んでしまう人が多い。東京大学経済学部の阿部誠教授は「マクドナルドはメニューに仕掛けがある。それを読み解くカギは『ヒューリスティック』だ」という――。
※本稿は、阿部誠『東大教授が教えるヤバいマーケティング』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
なぜマックのメニューは見づらいか
マクドナルドでビッグマックのバリューセットを買ったときのことを思い出してください(買ったことがない人は、想像してみてください)。

そのときビッグマックのバリューセットを選んだのは、たんに食べたかったからでしょうか? 食べたくないものを買うわけはないので、もちろんそのとおりでしょう。でも、よくよく考えてみれば、別にバリューセットではなくても、よかったかもしれませんよ。「本当はポテトはいらないんだけど……」と思っていた方もいらっしゃるはずです。
にもかかわらず、なぜバリューセットを買ったのか――。
マクドナルドのレジカウンター後方に掲げられたディスプレーには、キャンペーン中の商品とセットメニューが画像付きで大きく掲示されています。そこには、単品や100円商品など、比較的安価な商品は普通、表示されていません。
それらの商品も掲載されているフルメニューはレジカウンターに置かれているため、もしディスプレーに掲載された商品とは別のものを選びたいなら、順番が回ってきてあわててメニューから自分が欲しい商品を探すことになります。
もし、そのとき自分の後ろに長い列ができていたら、「早く決めなければ」というプレッシャーを感じ、結局ディスプレーに掲載されたセット商品を選んでしまったという人も多いのではないでしょうか。
ベストではなくベターの選択をする消費者
意思決定の際に時間的圧力を感じると、人間は厳密な論理で熟考し正確な答えを得る代わりに、直観で素早く近似的な解に到達する「ヒューリスティック」という簡便な方略をとります。
つまり商品を買うことで得られる効用(今回の場合、味や値段、ボリュームなど)が最大になるように、ハンバーガーの種類、サイドディッシュの種類とサイズ、ドリンクの種類とサイズと、一つひとつ厳密に吟味するのではなく、列で待っているときに見ていたディスプレーの中から、効用がおよそ最大になるようなセットメニューを素早く選んでしまうのです。
もちろん企業にとっては、顧客に単品よりセットメニューをオーダーしてもらった方が、利益が上がりますよね。
人間の認知資源は限られているので、効率よく情報を処理するために単純化された意思決定プロセスであるヒューリスティックを使います。それは必ずしも最適な判断には至りませんが、通常は満足できるレベルの判断になることが予期されます。
しかし状況によっては、大きな間違い(バイアス)を引き起こすこともあります。
それではヒューリスティックにはどのような種類があり、それらはどのようなバイアスを生み出すのでしょうか?
認知心理学や行動経済学で研究されているヒューリスティックは、おもに「利用可能性」「代表性」「固着性」の三つに分類されます。一つひとつ見ていきましょう。
利用可能性ヒューリスティック
このヒューリスティックは、想起が容易な、つまり「利用可能」な事例は発生しやすい、頻度が高いと判断してしまう意思決定プロセスです。スタンフォード大学のトベルスキーと2002年にノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学のカーネマンが、1974年に行った実験を紹介しましょう。
被験者を二つのグループに分けて、同じ人数の名前が載っているリストを読ませました。1番目のグループが読んだリストには、男性の名前の方が多く含まれていましたが、女性の名前の方が知名度の点では高くなっています。
反対に2番目のグループが読んだリストには、女性の名前の方が多く含まれていましたが、男性の名前の方が知名度の点では高くなっています。
リストを読んだあとに、どちらの性別の名前の方がより多かったかを聞くと、どちらのグループの被験者も知名度の高い名前を含んでいた(しかし数としては少ない)性別と答えました。つまり馴染みがある名前が印象付けられて、数まで多いと判断してしまったのです。
「インパクトが強い」「最近知った」「頻繁に接する」「個人的に経験した」「具体性がある」。このような事例は、記憶に深く残って思い出しやすいため、想起が容易になります。
ブランドロゴやシンボル、ブランド名の連呼、CMのジングルや音楽、有名タレントの起用など、多くの広告は、利用可能性ヒューリスティックの効果を狙ったものです。
想起の容易性を高めることによって、広告がより頻繁に放映されている印象を与えたり、タレントの人気が商品の人気であると錯覚させ、実際以上に売れている印象を与えたりすることができます。
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