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公明党が果たす役割の大きさ ――書評『自公政権とは何か』

唯一の安定的な枠組み

公明党が自民党と最初に連立を組んだのは、今から20年前の1999年10月。民主党政権の3年半を除いて、「自公」連立は16年以上続いている。

自公連立は現在の日本政治で唯一の安定的な政権の枠組みになっている。それはなぜなのか。本書はこの問いに答えようとするものである。(『自公政権とは何か』「はじめに」)

著者の中北浩爾氏は一橋大学大学院社会学研究科教授で、日本政治外交史、現代日本政治論を専攻している。おそらく「自公政権」についての初の本格的な分析となる本書を執筆した動機について、著者はいくつかのことがらを挙げている。1つは、自公の政策的な違いである。その政策的な相違がとくに際立った平和安全法制をめぐる議論でも、両党は法案の可決成立に至ることができた。国会をSEALDsなどのデモが囲んでも自公政権は微動だにしなかった。

そして、一度は政権まで担った旧民主党の勢力が、新代表を選出したばかりの2017年9月、小池都知事が「希望の党」を立ち上げた途端、あっけなく空中分解してしまったこと。さらに2016年の参議院選挙以降、自民党は単独で衆参に過半数の議席を持っている。いつでも単独政権が可能であるにもかかわらず、なぜ今も自民党は公明党との連立を解消しないのか。加えて、公明党の側は閣僚ポストを1つしか要求しない。これは議席数から見て明らかに少ない。これらのことは、従来の政治学で考えられてきた連立政権モデルでは説明がつかないと著者は言う。

スルーされてきた公明党の役割

その自公の連立が下野を挟んでなお16年以上も安定して継続している。今や、世界の主要国でポピュリズムが蔓延し、政治が極端に引きずられているなかで、日本はきわめて例外的な形で自公の合意形成がなされ、安定した政権運営が続いているのだ。90年代に小選挙区制が導入されて以来、メディアはまるで「二大政党制」が理想的な日本政治の未来であるかのような言説を繰り返してきた。その曖昧な気分が「風」を吹かせて誕生したのが2009年の民主党政権だったが、実際にはこれも社民党や国民新党との連立政権だった。しかも、政治家個々の信条や政策がバラバラなまま〝マニフェスト〟だけで束ねられた民主党は、いざ政権に就いた途端に政権運営能力の稚拙さを露呈し、内部で激しい対立を引き起こす。

気分だけで吹いていた「風」が止むと民主党は政権から滑り落ち、数年で崩壊した。2012年に再びの政権交代が起こって以来、安倍政権は6年目に入っている。するとメディアはしきりに「安倍一強」「自民党一強」というフレーズを使うようになった。だが、実際に安倍政権が内政・外交に安定した舵取りを可能にしているのは、公明党との〝連立〟があればこそである。その意味で、〝連立〟という存在――つまり政権における公明党の果たす役割が等閑視(スルー)され過ぎているのではないのか。これが、本書を貫く一つの問題意識だといえるだろう。

対等な発言権を持つ公明党

つまり、本書は連立政権における〝公明党という政党の果たしている役割〟について、多角的に分析した一書だともいえる。一般的には、連立を組む政党間の政策の距離が近いほうが安定感を増すと考えられがちだ。しかし実際には、民主党政権下で社民党が早々に離脱し、他方で自公政権は安定している。このことは、政策調整の仕組みがきちんと機能しているか否かのほうが、連立にはより重要であることを証明している。自公は、毎週2回、与党政策責任者会議(与責)を開いている。両党は議席数でかなりの差があるにもかかわらず、与責は基本的にほぼ同数。内閣提出法案などは、この与責で協議と調整が図られる。また国会の開会中は毎週水曜日に与党幹事長・国対委員長会談(二幹二国)で、かなり激しい協議を重ねる。こうした会議では両党の発言力は対等であり、全会一致で運用される。

実際に行使するかどうかは別として、公明党は拒否権を持っている。自民党が連立のマイナー・パートナーである公明党に対して大きな配慮をしているのは、間違いない。それが安定した与党間の協力を可能にしているのである。(第六章)

公明党は首相や内閣に対して抑制的に振る舞っているように見えるが、実際には与党間の了承なくしては政策決定ができないシステムが存在し、それが大きな意味を持っているのだ。

政策の距離をプラスに転換

本書の分析で注目すべきなのは、自公の政策の距離である。基本理念や支持層などで本来は距離がある自民党と公明党は、こうした成熟したシステムや、築き上げてきた政治家同士の信頼関係のおかげで、相互補完的な関係に到達している。今の野党はエキセントリックな政権批判は繰り返しても、国民の信頼も低く、実質的に健全なチェック機能を果たせていない。理念や政策に差異のある公明党が連立にいることが、自民党へのストッパーとなり、自民党にとっても中道寄りにウイングを広げる契機となっている。

もう一つの、より重要な公明党の役割は、社会的弱者の味方という立場であり、恵まれない人々の生活を向上させるための地道な福祉や景気対策である。(中略)児童手当の拡充、がん対策基本法の制定、出産一時金の増額、奨学金制度の拡充、バリアフリーや循環型社会の推進、無年金障害者の救済、女性専用車の拡大、女性専門外来の整備、臍帯血移植の推進など、極めて生活に密着した各種の政策である。こうした政策は、公明党が政権に入ってこそ実現できる。(第六章)

つまり、自公連立政権は「政策の距離の遠さ」を不安定要因にすることなく、むしろ幅の広い政策実現を可能にする基盤に転換しているのだ。自民党が単独政権さえ可能な圧倒的強さを持ちながら、それでも公明党と連立を組むことで、日本政治は世界的にも稀な中道政治を実現できている。野党やその支持者は安倍政権を〝戦前回帰〟〝極右〟などとレッテル貼りするが、現実には自公政権になって日本は米国とも中国ともロシアともかつてない良好な関係を築き上げている。不安や憎悪を煽るだけの野党の手法は、ポピュリズムの悪しき典型に映る。

「風」を追うだけの野党

むしろ、日本政治の問題は野党に多くあることに著者は警告を発している。1つは、自公に替わり得る政権の枠組みをいまだに示していないことだ。与党の議席数を減らしたいというネガティブな動機で野党統一候補を立てたところで、立憲民主党や国民民主党にとって、共産党は日米同盟や自衛隊をめぐって連立を組める相手ではない。しかも、一度は政権政党だった民進党がほとんど一夜にして、〝バブル政党〟の「希望の党」になだれ込んで弾け飛んだように、野党は今も「風」だけを頼りに合従連衡を繰り返している。

野党は安易に「風」を追い求めるのではなく、安定した政権運営を続けている自民・公明両党から学ばなければならないのではないか。そのためには、自公政権の強さを「連立」という視覚から冷静に解き明かす作業が不可欠ではないか。(あとがき)

本書のサブタイトルには「『連立』にみる強さの正体」とある。著者はこの言葉の真意を〝色眼鏡で見ない〟という意味だと綴っている。それはすなわち、もはや公明党という政党を正視眼で見なければ、日本政治の本当の姿は見えないということであろう。もちろん政治は常に、一寸先は闇でもある。野党が自公政権に替わり得る能力を持たない現状で、公明党が支持母体の外側にも支持層を広げ、政権内での存在感を安定させることは、内政においても外交においても一層重要なものになっていると感じた。

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