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トヨタ社長の"終身雇用発言"で透けた本音

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経団連の中西宏明会長とトヨタ自動車の豊田章男社長が、それぞれ「終身雇用の見直し」について発言し、話題を集めている。だが2人の発言をよく読むと、そのニュアンスはまったく異なる。ジャーナリストの溝上憲文氏は「むしろ豊田社長は終身雇用を維持しようとしている」と語る――。

記者会見する日本自動車工業会の豊田章男会長=2019年5月13日、東京都港区(写真=時事通信フォト)

■話題沸騰「終身雇用見直し・廃止論」の発端

日本の伝統的な雇用慣行である「終身雇用」の見直しや廃止の議論が大きな話題になっている。議論の流れを見ていると、さも日本企業全体が終身雇用の廃止に向けて動き出しているような論調だが、額面通りに受け取ってはいけない。

きっかけは、経団連の中西宏明会長とトヨタ自動車の豊田章男社長の発言だ。メディアが経済界のキーマン2人の発言を紹介することで、終始雇用見直し・廃止が既定路線というようなムードが漂っているが、2人の発言内容は似て非なるものだ。前者は、見直し・廃止に積極的だが、後者は異なる。

見直し・廃止の議論の発端は、2018年の経団連の「就活ルール」の廃止だ。その延長で「新卒一括採用」の見直しが言われるようになり、そして今回「終身雇用の廃止」が飛び出した。

言うまでもなく、発信元は中西宏明経団連会長だ。でも、なぜ新卒一括採用の見直しが終身雇用の廃止につながるのか。

■日本の新卒一括採用と終身雇用の仕組み

新卒一括採用方式とは、職業経験のない新卒学生を対象に採用日程・入社時期を統一し、大量に採用する日本独自の習慣だ。そして入社後はスキルのない新人に研修や職場指導などの教育を施して一人前に育成していく。入社後5~10年を教育期間と位置づける企業が多いが、当然その期間は多少の能力差はあっても、給与は年功的にならざるをえない。

そして本格的な実力発揮が求められるのは30歳以降となる。業務の経験・知見を武器に成果を出し、会社に対する貢献度が高い社員は給与が上がり、昇進していく。いわゆる出世競争が始まり、40代まで続く。途中で脱落しても敗者復活の道も残され、最後は定年を迎える。これが終身雇用、正確には「長期雇用」の中身である。

学生にとっては一括採用によって路頭に迷うことなく就職できるというメリットがあり、企業にとっては中途より人件費が安く、“真っ白”な人材を一から教えることで社業に邁進してもらうことが期待された。

■経団連中西会長は終身雇用をやめようとしているのか

では、中西会長はなぜこの仕組みをやめようとしているのか。

一連の発言を追っていくと、その真意が見えてくる。中西会長は就活ルール廃止に際して新聞報道で「終身雇用制や一括採用を中心とした教育訓練などは、企業の採用と人材育成の方針からみて成り立たなくなってきた」と発言している。

また、今年4月22日、経団連の肝いりで開催された「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」の中間とりまとめに関して記者会見でこう発言している。

「新卒一括採用で入社した大量の社員は各社一斉にトレーニングするというのは、今の時代に合わない。この点でも考え方が一致した」(経団連記者会見発言要旨、4月22日)

中西会長は、ノースキルの学生を企業が一から育てるのでは間に合わない。企業が求めるスキルと能力を持つ人材を必要に応じてその都度採用することが理にかなっていると言っているのだ。

そうなると新卒一括採用・長期的育成と一対になっている終身雇用はどうなるのか。中西会長は5月7日の経団連の定例記者会見でこう述べている(経団連発表)。

「終身雇用を前提に企業運営、事業活動を考えることには限界がきている。外部環境の変化に伴い、就職した時点と同じ事業がずっと継続するとは考えにくい。働き手がこれまで従事していた仕事がなくなるという現実に直面している。そこで、経営層も従業員も、職種転換に取り組み、社内外での活躍の場を模索して就労の継続に努めている。利益が上がらない事業で無理に雇用維持することは、従業員にとっても不幸であり、早く踏ん切りをつけて、今とは違うビジネスに挑戦することが重要である」

要するに「事業の盛衰が激しい時代に、これ以上雇用を守りきれない」と言っているのだ。一経営者の発言ならまだしも、経済界を代表する経団連の会長がここまで言い切ることの影響は大きいだろう。

経団連会長としての見解を述べている中西氏(画像=経団連ウェブページより)

■大手企業の定年前の希望退職募集件数はすでに昨年一年分を上回る

これまで、日本企業は事業構造を揺り動かす転換期に何度も遭遇してきた。

オイルショック、バブル崩壊、平成不況、リーマンショック時に「希望退職」という名のリストラが繰り返され、「終身雇用」企業から離脱していった企業も多い。特にパナソニック、東芝、NECといった電機大手は軒並み大胆なリストラに走った。

実は中西会長の出身母体の日立製作所も例外ではない。09年3月期に過去最大の赤字を計上したが、グループ企業のリストラをはじめ本体でも転籍含みの退職勧奨や希望退職を実施してきた。中西会長の一連の発言は、そうしたリストラ実施企業を代弁するかのように自らのリストラを正当化する発言のように聞こえる。

すでに今年(2019年)5月13日までに定年前の希望退職募集を公表した上場企業は16社、募集者数は6697人。2018年1年間の12社、4126人を上回っている(東京商工リサーチ調査)。もちろん中にはギリギリのところでリストラを踏みとどまっている経営者もいる。

しかし、中西会長の発言が、他の企業に安易なリストラに免罪符を与えてしまい、しっかりした議論のないまま終身雇用見直し・廃止が定着しかねない危険性を秘めている。

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