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  • S-MAX
  • 2019年06月02日 11:25

秋吉 健のArcaic Singularity:スマートホームでスマートライフを。MNOも注力するスマートホーム構想の現状や課題から「未来の住宅」と人々との関わり方について考える【コラム】

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漫然と口にしている日々の食事も、このようなアドバイスをもらえたなら誰でも気づきを得られるだろう

スマートホームによるデータの視覚化とアドバイスが人々に与えた気づきは、次に人々の「意識」を変えていきます。

NTTドコモの実証実験ではこれまでに20名の被験者がスマートホームで生活をしましたが、そのアンケート結果によれば、約75%の被験者に健康への意識向上が見られ、さらに「積極的に階段を使うようになった」などの行動変容まで至ったケースもありました。

運動不足や偏った食生活を視覚化されて、平然としていられる人は少ないでしょう。気づきを得れば行動に移しやすいのも人間です。ましてや改善についての簡単なアドバイスとともに提案されているなら尚更です。

スマートホームが巨大なAIアシスタントとして機能し、人々の生活をより健康的なものへと改善するサポートを行うのです。

洗面所のような毎日使う場所に表示することによる「気づきの喚起能力」は絶大だ

■解決すべき課題も多い

一方で、スマートホームが生み出す弊害や今後の課題もすでに予想されています。1つはデータの視覚化が生み出す「わずらわしさ」です。

NTTドコモの実証実験で被験者にインタビューした際、その便利さや健康への気づきを与えてくれることへの感謝とともに聞かれたのが、「奥さんの小言みたいだ」という苦笑いでした。

視覚化されたデータは洗面所などで常に表示され、スマホアプリでも確認することができるのはメリットであると同時に、その事実から目を逸らせなくなるという強迫性も併せ持つことになります。

健康に不安のない人であれば、より健康的な生活を目指すための良い指針になりますが、肥満や高血圧、そのほか何かしらの健康問題を抱えている人にとっては「見たくない情報」でもあります。その情報を常に「強制的に見せられる」ことは、精神衛生上あまりよろしくない状況にもなりかねません。

例えば単なる睡眠不足であっても、数値として毎日見せられたとしたらどうでしょうか。仕事が忙しく寝たくてもなかなか寝られない、睡眠が浅いことを常に指摘されることで余計不安になりさらに眠れなくなる、などといったことも十分に想定されることです。

誰もが前向きにデータを読み取れるとは限らないのです。

データの視覚化を「奥さんの小言」と比喩した被験者の方の感性が素晴らしい

長期的な視点では、各種IoT機器のリプレースも大きな問題点です。

家屋や家電品は十年単位での利用が想定されるものであり、家具などを設置した後では容易に交換や敷設ができるものではありません。またテクノロジー製品の常として、その製品寿命が非常に短い点も挙げられます。それは電化製品としての寿命だけではなく、サービスとして何年利用できるのかといったプラットフォーム寿命の問題でもあります。

NTTドコモなどは、はじめから家屋へスマートホーム機能を実装して建築することも想定していますが、その場合スマートホームサービスもまた20年や30年といった単位で運用することが前提となります。

30年前(1989年)のテクノロジーレベルを思い出せば、現在の技術が30年後に残っているのか、もしくはまだ利用できる状況にあるのかを想定することが如何に難しいことであるのか、よく分かるのではないでしょうか。

30年前と言えば、ようやく世の中に携帯電話と呼ばれるものが登場し始めた頃だ

このほか、各種機器の導入コストやランニングコストも地味ながら最もストレートに人々の生活へ影響する問題です。

au HOMEデバイスの場合、モーションセンサーやマルチセンサーがセットになった「センサーでみまもりセット」の一括購入価格が12,250円、ネットワークカメラや赤外線リモコンなどがセットになった「みまもり&家電コントロールセット」の一括購入価格が24,010円となっており、これに月額490円がランニングコストとして計上されます。

健康への気づきや安全のための支出として、それを安いと見るか高いと見るかの問題ですが、通信料金の値下げが大きな問題として取り上げられるような時代にあって、人々に新たな提案としてのスマートホームが理解されるかどうかは非常に不透明です。

センサー内蔵IoTマットレスに至っては、価格が16万8000円+月額790円となる。決して安い金額ではない

■それでもスマートホームは前進する

様々な課題はあるものの、MNO各社はスマートホーム構想をやめようとはしません。むしろこれからの時代を推し進める重要な技術として位置付けています。なぜならスマートホームこそがこれからの日本社会を支える重要な技術だからです。

日本は深刻な少子高齢化社会を迎え、労働者人口は今後30年以上にわたり毎年50万~60万人規模で減り続けると試算されています。核家族化や高齢者の1人暮らしはさらに深刻になることは間違いなく、不足する労働力の補完と男女平等な社会の実現を目指して共働き世帯は増え、子どもの留守番の見守りや忙しい時代ゆえの健康意識への希薄化などが問題として指摘されることでしょう。

近い将来に起こり得る、暮らしに関する様々な問題がスマートホームの実現を求めているのです。どこにいても子どもや高齢者の見守りが行え、家に帰ればホームオートメーションによって生活がしやすく、日々の食習慣や運動へのアドバイスも的確に行ってくれる。「不安を感じる前の気づき」の一手として、大きな期待が持たれているのです。

筆者も数年前、いつの間にか飛び出し始めた自分のおなかを見て衝撃を受け筋トレを習慣化しましたが、そういった気づきから行動に起こすのはとても大変で気の重いことです。また傍目にも分かるほどおなかが飛び出してしまってからでは元に戻すのが非常に大変であることも、その後身を持って知りました。

人が自覚するよりも前に気づきを与え、積極的に健康維持をサポートしてくれる家があるとしたら、皆さんは利用したいと思うでしょうか。筆者なら喜んで利用したいところです。

奥さんの小言と思う前に、自分のためだと前向きに捉えたい

記事執筆:秋吉 健

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