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魂と日常~殺傷事件

■傷と殺

大事件には毎回「名」がつけられる。今回の川崎の事件は、「川崎殺傷事件」という事件名に落ち着いているようだ。出来事自体やその背景の割にはあまりに一般化すぎる名称ではあるが、そのことが逆に僕に深く迫ってくる。

ここでの「傷」は、物理的な傷だけではなく、ありきたりではあるが「こころの傷」も含まれる。そして「殺」は死と直結し、殺というかたちで逝ってしまった人たちの現在のありよう(残された人たちへの記憶というかたちでの刻印)に思いが行く。

身体だけではなく心が傷つき、それが直視できない記憶となって(トラウマとなって)心のどこかに沈殿する。また、残された人々は、通常であれば理解しがたい唐突な殺というかたちでまさか逝ってしまったその人・子と、目をつむってコミュニケーションする。

ニュースやワイドショーの内容だけでは、また解説者やコメンテイターのことばだけではとても理解することはできない、深い深い葛藤や逡巡が残された人々の間に沈殿していると僕は想像する。

■映像と音と匂い

そうした「殺傷事件」では、よく子ども集団が狙われる。事件後、子どもであるその人の脳裏に、自分が傷つけられた映像がよく浮かんでくるだろう。その映像や音には、こちらの身体にぶつかってきた瞬間や怒鳴り声が含まれる。何らかの匂いも含まれるかもしれない。

その意味が、被害者が子どもであればあるほど、解釈できない。眼の前で起こった出来事の意味を、たとえば「通り魔事件」と子どもには解釈できないため、目や耳や鼻に入った映像・音・匂いが意味づけられることなく強烈な体験として残る。

その感覚をあまりリアルに描写することは僕は控える。ただ、被害を受ける、トラウマがその結果刻印され、その記憶が無意識下に綴じ込まれる前後の瞬間とはどういうものか、その衝撃を推察することは必要だとは思う。眼の前で何が起こっているかわからないまま、映像と音と匂いが猛スピードでやってくる。その衝撃そのものが、「トラウマ」ということでもある。

■「お守り」

唐突な死は、残された者にとっては死ではない。その死んだとされる人・子は、残された人の中に何十年も生きる。多くは、残された人が高齢になって死ぬまで生きていることだろう。そして残された人は、死者と呼ばれる人と日々語り合っている。

通夜・葬式・49日、○周忌等ごとに記憶は薄くなっていく。だが、残された人の脳裏にはある日唐突にその死んだ人は現れ、再開する。当然だが、死んだ人はずっと死んだ時のままの姿をしている。

この記憶の再来はフラッシュバックの1つではあろうが、それは徐々にではあるが否定的な意味(これが残された人にとってのトラウマ、傷)ばかりをもたなくなるのかもしれない。その亡くなった人がいろいろな局面で、残された人に対して「励ます人」として現れるのかもしれない。

傷は傷のままで現れ続けるのかもしれないが、長い長い時間の中で自分にとって「お守り」のような存在に変化していく可能性もある。

■魂のあり方と連続する日常

衝撃の感覚にはやがて言葉が与えられ(PTSD)、そこに心理的治療がなされるのかもしれない。

また残された人が高齢になり亡くなる瞬間、だいぶ前に事件で逝ってしまった人がお守りとなって迎えに来てくれるかもしれない。

今回の事件だけではもちろんないものの、50代も半ばになってくると、こうした大事件に僕はコメント不能状態になってきている。それは藤田孝典氏らにお任せすることにし、亡くなった方の魂のあり方と、残された人の連続する日常に僕なりに(僕ができることは「哲学的」なことばをつむぐこと程度)思いを馳せ、黙祷することしかできない。ご冥福をお祈りします。

※Yahoo!ニュースからの転載

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