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冷戦の終結が2度の政権交代を生んだ 谷垣禎一前自民党総裁が振り返る平成

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野党には「頑張れよ」という気持ちもある


角谷:一方で昨今は官僚の「忖度」という言葉が、当たり前のように使われたりします。それは内閣人事局のせいだという人もいます。誰が人事を決めるのか、省内で官房長が考えるのか、内閣人事局ができるからダメなのか、はっきりしたことは僕もわかりません。ただ、逆に言うと、政治が人事に関わることの良し悪しには少し議論が必要かと思いますが。

谷垣:これはなかなか難しい、一つのシステムだけでは判断できないところがあるわけです。政権交代可能な政治をしていく中で、自民党はいわば、ずっと政権を取ってきましたから。ある意味では官僚機構とも極めて距離が近い。友達みたいなもんですね。

ところが、政権を取ったことがない政党、かつての社会党を中心にした勢力にしてみたら、自分たちが政権を取った時に、官僚機構を動かせるかどうかっていうのは、ものすごく大きな問題であったと思うんです。それは、鳩山政権であろうと、細川政権であろうと、やっぱり同じような問題があった。そういうことを考えていた時に、政権交代可能なシステムを作るなら、最終的には行政の責任にも政治責任があるはずだっていう形で考えていくと、人事や何かを、官邸が掌握していく必要性も随分あったんじゃないかと。

これが一党だけで政権を取っていくというのであれば、むしろ前の制度が多分にそうであったように、人事院というのはやっぱり、独自の存在感を持たないといけない。内閣法制局も独自の存在感を持たないといけない。そういう形で権力を少し分散させていた。そしてある意味での技術性や中立性というものを尊重していたということがあると思いますね。

今だってもちろん、技術性や専門性っていうのは尊重しないとガタガタな政治になってしまいますけど、ある意味で省庁あってのまとまった行政機構っていうのはあるのかとか言われてました。そういうものに対する、政権交代可能な政治という流れがやっぱり一方にあって、一方的に良いとか悪いとかいう問題ではないと思うんです。

そうすると結局ですね、問題は政権交代可能な政治って、まぁ2度政権交代っていうのを選挙で経験したんだけど、こういっちゃ悪いですけどね、やっぱり野党が今どっちの方向に向かっていくんだ、どうなってんだっていう風になってきてる。やっぱり問題はここにあるんだと思います。

なにもね、自民党で対岸から「あいつら何やってるんだ」って、こういうのばっかりじゃないですよ。やっぱり、野党がどうやって存在感を出していくんだっていうのは、やっぱり自民党で育ってきた人間にとって「頑張れよ」って言うのも変ですけどね、そういう気持ちがあります。だけど、こっちも油断してると足をすくわれちゃうわけで。

やっぱり2年前ですか。東京都知事選で、小池さんが新党を作った時は、そりゃ安倍官邸だって、相当ヒヤッとしたと思うんですよ。どう野党としての意思を出してくるのか。まぁ、いまもいろいろ、苦労されてると思うんですけどね。

改憲は「読んで字の如く」にする必要がある


角谷:国民から見ると、それは模索なのか堂々巡りなのか。安定感のある政権与党の自民党と、それから袋小路の中でもがいている野党の差、っていうのはちょっと大きく見えるような気がしますけどね。

谷垣:まぁ、そうですね。だから私はね、例えば憲法改正をするのがいいのかどうかっていうのは、国民の間で色々な意見があるとは思います。でも自民党は党是ですからどっかでやらなきゃいけない。ただ自民党の考え方って、人によってずいぶん違いがあります。

角谷:幅がありますね。

谷垣:幅があります。憲法があり、9条があり、そして東西冷戦の中につっこんでいって、憲法の解釈も変遷してきた。私は、平和安全法制の時は自民党の幹事長だったですし、責任ももちろんあるわけですけど、国際情勢の変化の中で、間違いのない選択をしてきたと思っているわけです。

ただ一つ、残るとするとですね、読んで字の如しと言えるかなというとなかなか簡単でないところはありますね。憲法9条二項というものを読んで、F35戦闘機は、戦力なのか、戦力じゃないかっていうのは、なかなか難しいことがあるだろうと思います。

これはもう70年くらいこういう体制で来ているわけですから、どっかでもう一回、読んで字の如しのようにしていく必要があるなと思うんですよね。

角谷:なるほど、なるほど。

谷垣:そこのところが結局、民主党系の鳩山政権を作った野党の人たちもですね、一人一人話してみると、我々と憲法論でものすごい距離があるかというと、それは昭和30年頃とはえらい違いますよね。与野党の関係としてかなり共通点が出来てきてる。

しかしそういうものが議論になると、結局違憲かどうかという話になってしまって、じゃあ現在の時点で、日本の安全保障をどう組み立てていくのか。そしてそれが周辺国とも平和的なあれを元に、どう育てていくのかっていう議論にはなかなかならない。だから自民党からするとですね、憲法論っていうのはさっき言ったように、どこかで読んで字の如くにしていかないと。そんな間違った解釈や、運用はして来なかったつもりだけど、やっぱり70年経ってみると、読んで字の如くにしていく必要に迫られて来ていると思います。

今、野党の出身の方々も、やっぱりそこの議論を地に足をつけてやったら、彼らも次のフェーズに行けるんじゃないかなぁと。野党の人たちから見ると、「なに自民党が勝手なことを言ってるんだ」ということかもしれません。そうなのかもしれないけど、私からするとそういう風に見える。

角谷:自民党の憲法改正推進本部の人たちは泣いていると思いますよ、いまの話で(笑)。


谷垣:泣いているかどうかはわかりませんけど(笑)。やっぱりそこは、野党もそこを乗り越えていけば、与野党の争点をどう作っていくか。自民党の今やっている政策に対して、どういう球を投げ返していくのかっていうのは、もう少し整理が出来て来るんじゃないかなって。

角谷:仰る通りですね。ただ問題は、憲法改正したいという勢いだけが前に出るよりも、今のように70年間の点検を、それぞれでやっていこうじゃないか。もちろん今、ストレートに不自由じゃないからいいっていうものもある。このままの方がいいと、逆にちょっとてにをはを変えて、もっと強い言葉に変えた方がいいものもあるかもしれない。てにをはを変えて、一項、二項と増やした方がいいものがあるかもしれない。こういう議論の点検は、実は憲法調査会でも、ほぼ30年やってきてますが、なかなかうまくいかない。

谷垣:憲法調査会の関係者もね、大変、努力されていてですね。この間亡くなった保岡興治さん(元法務大臣)もあの場で苦労されてきたわけですよ。やっぱりね、多数派がこうだからっていうんじゃなく、少数勢力の話もよく聞きながら、ここは運営していかなきゃいかんと。かなりそういうところをしっかりもってやってこられたんです。だけど、ある意味で、日本の戦後体制がもっているアキレス腱というわけじゃないですけど、やっぱりなかなか越えがたいというか、解きがたい。ロープが結ばれていてほどきにくくなっているところがあるんですね。

アメリカ、中国とどういう距離感を作るのか

角谷:その時にこの70年間の複雑な国際情勢と経緯が、その時々での最善の策だったけれども、70年を俯瞰で見ると、またちょっと違ってきているという議論にすり替わってしまうと。

本来の議論とズレてしまって、あの時こうだった、ああだったっていうのは、今思えばそういうような読み方ができるかもしれない。けれども、当時の政権を持っていた人たちにとっては、またちょっと違う思いがある。やっぱりこれもまた点検が必要じゃないか。つまり、歴史の点検も必要じゃないかと。

谷垣:そうですね。冷戦が終結したのは、ちょうど平成元年。まさに平成以降の日本政治が基本的な構造を変えたんだと思うんですね。これは令和の時代にどうなっていくか、よくわかりませんけれども。おそらく令和の時代もかなり変化が予想できるわけですね。アメリカもトランプ政権が、これからどういう選択をして、どういう方向をとっていくかわかりませんけど、やはり今までのアメリカ大統領、我々の頭の中にあるアメリカ大統領のイメージとは若干違ったところがある。

大きな面でいえば、アメリカはいつもああいう、アメリカファーストみたいなことがあることはあるんですけど、それとはちょっと違う。それからやっぱり、ヨーロッパの政治もですね、やっぱり2度の世界大戦があって、独仏が争ったらヨーロッパが戦場になっちゃう。それをなんとか乗り越えようというのが、やっぱりEUの原点なんだと思うんですけど。それでそこにどうやってイギリスが噛んでいくかっていうのがヨーロッパの政治の基本的なアレですよね。

それが、あそこまでやっていたんだけど、それが今度は、ブレグジッドみたいなことになって、どう決着がつくのか。まださっぱりわからない。それから日本の周辺もだいぶ変わってきている。

結局、日本は太平洋にありますから。大国である中国と、アメリカと、どういう距離感を持っていくのか、どういう近さを作っていくのかっていうのは、一番基本だと思うのですけど。今やっぱりそれも、一種の試練の時です。だから、この令和の時代も、日本の立ち位置をよく考えていかなきゃならないだろうと思うんですよね。

角谷:私達にとってはこれから令和ですけれども、世界情勢にとってそれがどうなるのか。ひとつの踊り場から次のフェーズに移るところに来てるかなという感じはしますね。

谷垣:そんな感じがしますね。

角谷:今日は昭和後期から、平成、そして令和にむけて、ことに司法の問題と、国際情勢について大変詳しく伺いました。どうもありがとうございました。

谷垣:ありがとうございました。

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