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アンチエイジングに勤しむ日本は息苦しい

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「若さ」を保つことは本当に必要なのか。化粧文化に詳しい駒沢女子大学の石田かおり教授は、「今は誰もが同じような外見を目指して、すぐに効果が出る『ファストビューティー』が求められている。だが、同じ外見の人はいない。人それぞれ・年それぞれの美しさを考えるべきではないか」と指摘する――。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/millann)

■本当に人生のピークは「高校生」なのか

通勤電車の中ですぐ後ろから「人生のピークが終わったなあ」という会話が聞こえてきたことがある。卒業式帰りの男子高校生だった。またアルバイト先で女子大生が女子高生にオバサン扱いされて傷ついた話を聞いたことがある。いずれも高校生ということに高い価値があり、高校生でなくなることで価値が下がるという考え方が見られる。

現代社会で強力な人間の価値の1つに「若さ」がある。若々しい状態でいることや若々しく見せることを実行するアンチエイジングは多種多様な情報と手段が次々と現れては消えながら大市場を形成し、景気の良し悪しに関わりなく市場は拡大の一途だ。この文章を読んでいるあなたも、何かしらアンチエイジングを気に掛けながら生きているのではないか。

中高年だけでなく、冒頭の例のように若年層にも「若い方がよい」という価値観が浸透している。近年SNSやインターネット動画を通じた個人発信が急激に日常化したことで外見の印象をよくする必要性を感じている人が増し、印象向上とアンチエイジングが一体化する傾向が見られる。

■『人は見た目が9割』が110万部も売れた平成

いつから日本人に外見重視やアンチエイジングが沁み込んでしまったのだろう。1995年の「ユーキャン 新語・流行語大賞」トップテンの中に「見た目で選んで何が悪いの!」というカメラのCMコピーがある。その年を象徴する流行語の中に選ばれたことからこの頃だと言えそうだ。その10年後の2005年には『人は見た目が9割』という新書がベストセラーになった。新書として異例の110万部も売れたとも言われている。題名に共感した人が多かったのではないか。2013年には続編『やっぱり見た目が9割』も出たことから平成を通じて見た目重視が定着したと考えられる。

最近授業の中で学生たちにこんな質問を投げかけてみた。「本音と建前を使い分けているか、あるいは使い分けを見たことがあるか」。反応が薄いので考えることを促しながら話をしてみると、そもそも「本音と建前」という表現自体をあまり聞かないので何も思い浮かばないことがわかった。かつて「人は見た目ではないよ、中身が大事だよ」と子供は大人から教えられ、「見た目と中身」を通じて世の中の「本音と建前」を学習してきたものだが、いまやそうした伝承も姿を消しつつあり、建前抜きの社会になってしまったらしい。

■「仕事ができる」だけでは足りなくなった

『人は見た目が9割』の初版が出た頃から、ビジネス界では「見える化」という語が流行した。仕事の上での「見える化」だけでなく、できるビジネスパーソンは外見も仕事の能力に見合っていることが求められるようになった。

外見が人の中身を表すとされる社会では、芸能人でもない一般の個々人にまでセルフプロデュース力が求められる。どんな言葉遣いをするか、どんな店が行きつけかなども好印象を作る自己演出要素になるが、もっとも効果的であるがゆえにもっとも重要になるのは服装・髪型・化粧・体型といった外見だ。

外見は黙って動かずにいても初対面の見ず知らずの人に一瞬で膨大な情報を与える。眉を整えたりスキンケアをしたりするのは、もはや女性だけではない。最近ではファンデ-ションやBBクリームなどで肌をプロデュースする男性も増加中で、ビジネス用メンズメイクの化粧品や講習会もある。

本音と建前の二本立てを「無駄」ととらえて建前が消える背景には、「時は金なり」の流れがますます加速化し、何事も最短時間で最大の成果を挙げるのがよい、すぐに答えや結果が出なければ問題だといった効率最優先意識、言い換えればコスパ意識の蔓延がある。

■「オールインワン化粧品」が普及したワケ

美容では毎日毎日の積み重ねを何年も続けて結果が出るお手入れより、塗ると翌朝には効果が実感できる化粧品の方が売れ、翌朝より1時間後、1時間より数分後に効果が出るものの方がさらに売れる。1品で複数の基礎化粧品の機能を持たせた「オールインワン化粧品」の普及も、数品を使った時間と手間と費用を合理化する発想だ。さらに、化粧品では効果が出るのに時間がかかると美容整形に人が集まるようにもなった。

また「見える化」はわかりやすさの追求でもあるため、美容で求める外見は誰にでもわかるような象徴的で共通性の高い画一的なものになる。誰もが同じような顔と体型を求めてすぐに効果の出る方法を実行する現在の美容は、お店に入ってカウンターで注文するとすぐに出て来る即効性と全国いや世界のどこでも同じ味・同じ商品の画一性、それらのために徹底した効率化・合理化を図るファストフードと同じ構造だ。そこで私は「ファストビューティー」と名付けた。

ファストビューティーで私たちが求める美しさは若さであり健康である。つまりファストビューティーの至上価値は「若さ」と「健康」と「美」の3要素が結びついたものと言うことができる。

■ファストビューティー大国の日本

いつまでも若くて健康で美しくありたいという不老不死は太古の昔から人類の望みだったが、長い間皇帝のような特権階級しか追究できなかった。しかし科学技術と社会の発展により1980年代頃から若さと健康の美は人々の手が届くものになり始め、21世紀を迎える頃から急激に市場を拡大している。折しも日本は急速な高齢化と経済大国になった後の成熟期を迎えていたこともあり、すぐにファストビューティー大国の1つに押し上げられた。

近年平均寿命と健康寿命の差が広く知られるようになり、生涯歩けるくらい元気でいるためのアンチエイジングの研究や情報の普及が盛んだ。こうした健康面でのアンチエイジングはQOLの向上に直結するのでたいへん結構なことだ。しかしアンチエイジングを美容で追究するファストビューティーは結構なことばかりとは言えない。

問題の1つは格差社会が外見と直結する点だ。資金力のある人は美容にお金がかけられるだけでなく高度な教育も受けており、必要な情報や有効な情報・最先端の情報を取捨選択するのに有利な立場ゆえいつまでも若く美しくいられる。しかしその反対の人はどうだろう。

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