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安冨歩『生きる技法』7 <自己嫌悪の正しい理解によってそこから抜け出す>

安冨さんのこの本で最も共感し役に立ったのが「自己嫌悪」に関するものだった。僕は自己嫌悪をそれほど悪いものだとは思っていなかった。仕方のないものだと思っていた。若くて理想に燃えている人間なら、誰でもその理想像に比べれば劣っているのだから、そのような自己を悪く思っても仕方がないと思っていたのだ。むしろ、自己嫌悪に陥らず、自分に根拠のない自信を持つことを戒めようと思っていた。

だが「嫌悪」という感情はそのような合理的なものではなかったのだ。それは何か抑圧された無意識からわき起こってくるような、抗いがたい感情だったのだ。理想から離れている自分に対しては、叱咤激励する気持ちは生まれてくるが、嫌悪の感情は良く考えてみるとなかった。嫌悪の感情が生まれてくるのは、やはりどうしようもなく自分がダメだと感じたときだった。

自分がダメだと感じているのに、どうしてもダメだという評価に引っかかるとき「自己嫌悪」という感情が顔を覗かせる。ダメだと思わされている自分に気づくことで「自己嫌悪」を脱することが出来るというこの本の指摘は、まさに「生きる技法」だと思った。

僕は同じ感覚を持つと言うことが苦手な人間だった。周りが楽しくしているときに、なぜかあまり楽しく感じなかったり、逆に周りが怒りに燃えているときに、その怒りが自分の中にわき起こってこないのを感じていた。どうして自分はへそ曲がりで、他人と違う感情を持つのだろうか、ということがある種の「自己嫌悪」になっていた。

だがよくよく考えてみると、周りが楽しそうにしているのに、僕はその中でかなり孤独感を感じていた。話の輪の中には入れなかったりして、そうであれば楽しさを感じない方が自分の感覚には素直だったのだ。そのようなことに気づいて、周りをよく観察してみると、楽しい雰囲気なのに、実際には心から楽しんでいるかどうか疑問を感じるようなことも多々あった。僕のように、輪の中に入れなくてひとりぼっちのようになっている人を何回も見かけたからだ。また楽しそうに振る舞っている人も、そのような姿を期待されて、その役を演じているような、心から楽しんでいるのではなさそうに感じることもあった。

自分の感覚に素直になっていないときには「自己嫌悪」というものが顔を出す。自分がそう思いたい感情と、自分の本当の感覚が違うところに「自己嫌悪」が生じる。この指摘は、これまでの自分の行動を理解するのに、まさにその通りと思えるものだった。

自己嫌悪とともに語られる「憧れ」の説明も面白い。自己嫌悪は自分に何かがないことを感じている状態だ。安冨さんは「態度」だと語っている。何かが不足しているから、その不足を埋めようとして、それを持っているような人や物に「憧れる」。カリスマ的な人間に引きつけられるのは、この感情が大きいのではないだろうか。カルト的に何かに引きつけられる人間の感情の底には「自己嫌悪」があるのではないか。

自己嫌悪は、自分がダメだというイメージであるから、成功し幸せになっている自分というものを正しい自分には思えなくなる。だから、自己嫌悪から抜け出さない限り、成功も幸せもない。実に明快な形式論理で、前提さえ同意すれば、この結論には自動的に同意できる。問題は、イメージとして定着しているダメな自分からどう脱却するかだ。

安冨さんが提出する方法は、自分本来の感覚を取り戻すと言うことだが、これは自分では難しい。だから友だちが大切だと安冨さんは指摘する。簡単に取り戻せる自分の感覚なら、そもそも自己嫌悪になど陥らないだろう。今日は「パッチ・アダムス」というロビン・ウィリアムス主演の映画を見ていたのだが、ここに、自己嫌悪から抜け出す具体的な道筋を見たように感じた。

アダムスは、自殺未遂で病院へ入ったような人間だった。彼はおそらく自己嫌悪の強い人間だっただろう。彼がそこから抜け出したのは、同室の患者との心の交流だった。精神を病んでいたその患者は、おそらく誰にも理解されない存在だった。医者でさえも、彼は治療の対象だが、人間として理解する対象にはなっていなかった。その彼を、アダムスは理解しようと努めた。そして、彼がアダムスの行為を心から受け入れたとき、アダムスはその瞬間に救われたと感じた。自己嫌悪から抜け出したのだ。

この同室の患者を「友だち」と呼べば呼べないことはない。だが、安冨さんが語る「友だち」は、たぶん象徴的な存在で、必ずしも普通の意味での「友だち」でなくてもかまわないと思う。僕にとって救いとなってくれたのは、養護学校や夜間中学校での生徒だったからだ。

卒業後には、本当に「友だち」となった人もいたが、大事なのは心から受け入れられたという思いを、お互いが抱けるかと言うことだと感じる。一方的な関係ではなく、双方向的な、お互いを感じることが大事だ。相手を、何か肩書きや立場で理解するのではなく、そこに存在する個人として理解したときに、そのような感情が生まれてきたのを感じた。

その人の前では自分自身でいられる。そのような感情をお互いに抱ける人が、たぶん「友だち」というものだ。僕も相手をそのように、生のままで受け入れることが出来たとき、僕も受け入れられたと感じられるのだと思う。これは、そのような関係が出来れば、親子や兄弟であっても「友だち」になるだろう。しかし、嫌な面もすべて知っている近い存在ほど、すべてをそのまま受け入れるのは難しいかもしれない。また、親は子供をコントロールできてしまうだけに、生の子供自身を見ることが難しいかもしれない。

自己嫌悪は態度であるという指摘も共感するものだ。自己嫌悪は、何か客観的な事実があって、それを根拠に自分がダメだと思っているのではなく、最初から自分はダメだという思いがあって、何をしてもダメという「態度」を取るのが自己嫌悪になる。ここから抜け出るのに、根拠のない自信を持っても、それは隠蔽された自己嫌悪になるだけだ。そうではなく、ダメだと思わされていた自分自身を素直に見つめて、ありのままに受け入れるという「態度」さえあればいいのだ。人間は完全ではないのだから誰にでも欠点はある。そういう全体として受け入れるのだ。それは、そういう自分を受け入れてくれる「友だち」と出会うことによって「態度」が変わる。

利他主義者に対する批判も共感する。僕は利他主義者が嫌いなのだが、その理由をこれほど見事に説明してくれた言葉はない。大きな共感を覚えた。安冨さんは次のように書いている。

「利他主義者はかなり厄介者で、どう付き合ったらよいかよく分かりません。彼らは「自分の利益のためにやっているのではない」と言って、あまり意味のないことに奔走し、周囲の者に犠牲を強要する圧力をかけてくるのです。そこから生じる世間の評判や栄誉は、利他主義者の独り占めです。」

ここで語っている利他主義者については、その具体像がありありと浮かんでくるくらい、僕は利他主義者と出会ってきた。その圧力を感じて、自己嫌悪を強められたこともあった。だがもうさよならだ。利他主義者も、自らの自己嫌悪を他人に押しつけて、自分の自己嫌悪を少しでも軽くしたいと思っている利己主義者に過ぎないと思えるからだ。自分はそういう人間は嫌いだから、彼らとは別の道を歩む。本当の意味で自己嫌悪から脱するのだと宣言したい。

最後の「うぬぼれ屋」への言及は、安冨さんがどうしてエリート主義にならないか、その理由がよく分かる文章だ。引用して終わりにしよう。

「うぬぼれ屋は最悪で、こういう連中を私は何度も間違って能力のある人だと思い込んで、煮え湯を飲まされました。なんだかんだと他人の悪口を上手に言って、あたかも、自分はそういうことなどやらないかのように見せかけます。その実、自分こそが、そういう行為をこっそりやっているのです。そして放っておくと、なんだかんだと逆恨みして、世話になっている人の悪口を言って回ったりして、人を裏切るのです。エリートというものは、大変なうぬぼれ屋が多いため、エリート世界は誠に生きにくい場になってしまいます。」

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