記事

なぜサヨクとウヨクが同じ主張になってしまうのか

思い出してもらいたいのは、橋下市長、松井知事が誕生した大阪地方選挙で、自民党や民主党が労組だけでなく共産党とも反維新の会で手を結んだことです。確かに55年体制では、自民党と社会党が対立しているようで実は共存関係にありましたが、リベラルを立ち位置にする人たちとだけならまだしも、共産党や俗にいうサヨクと保守が露骨に手を組むということがかつてあったのでしょうか。しかし、そのことは、政治の対立軸が大きく変わってきたことを示す出来事だったと思います。

共産党が変化したのではなく、変化したのは「保守」のほうです。もはや「保守」ということでは括ることができないぐらい、日本が抱えた問題をどう解決するかでは、時代認識も価値観もが大きく異なりはじめ、分解が進んできています。しかし、それは当然のことだと思います。「保守」は基本的には、共産主義の脅威から日本を守る、資本主義と民主主義を守るという点で、さまざまな点で考え方の違いがあっても調整が可能でした。しかも日本が高度成長していた時代は、どのような政策であっても、成長が矛盾を希釈してくれ、みんなが富を分け合うことも可能だったことで調整機能が働きました。
しかし時代状況は変わってしまったのです。経済成長が止まり、また経済も社会も複雑化するにつれ、利害の調整がなかなか効かず、価値観や考え方の違いによる対立も起こってきます。しかも経験したことのない課題が山積みで、なにが正しいかが見えない状況では、よけいに価値観や考え方の違いで対立が激しくなってきます。


揺れる政治の世界ではTPPをめぐる対立があります。このTPPをめぐっても与党だけでなく、自民党のなかも割れています。反対という点では共産党と共通しています。また消費税引き上げの是非をめぐっても対立があります。日本の経済が痛んでいるなかでは、財政の緊縮ではなく、さらに財政を出動させるべきだ、公共事業だ、手当てだ、弱者保護だという声もあがってきています。これも共産党やリベラルな立場を取る人たちの主張と一致します。

もう保守・革新のどちらに立ち位置を置くか、また保守・革新による価値観や考えの違いでは、説明できない状況になってきているのです。今起こっている現実にどう立ち向かうかは、新たな価値観や視点を持ち込まないと政策が一致して来ません。おそらく不確実で、リスクが高まってきている現代では、それでも完全に一致することは困難だとすら思えます。とくに金融緩和政策をさらに進めるべきかどうかは、保守・革新の違いではなく、その影響をどう読むかで違ってきています。

社会党が崩壊し、いまでは共産党、あるいはリベラルな立場を取る人たちを昨今はサヨクと言っているようですが、なぜサヨクと、これまでウヨクと言われていた人たちの発想が非常に近いものになってきているのかは、ふたつの視点、ふたつの軸でそれぞれの立ち位置を見ると、非常に距離が近いからでしょう。

地図だと、南北の位置を確かめる緯度と、東西の位置を確かめる経度があります。つまり南北と、東西で、自らがどこに位置しているのかを確かめることができます。GPSでの位置確認もそれでできます。たとえばそれと同じように価値観の違いにで、どこに立ち位置を置いているのか、またどの人たちが近い距離にいるのかを見ると、なぜサヨクとウヨクが同じことを言うのかがわかります。

ひとつはグローバル主義か、保護主義かです。日本が今後成長発展していくためには、日本をさらに開かれた国家にしていかなければならないという価値観と、いや日本は経済も産業も痛んでおり、障壁を維持あるいは強化してグローバル経済の脅威から守らなければならないという価値観の対立です。

もうひとつは、中央集権型の統治を目指すのか、分散型の統治を目指すのかの違いです。サヨクと呼ばれる人たちは、基本的には弱者保護を行うために中央政府の規制や福祉政策強化を主張します。「保守」のなかにも、農業や中小企業などの弱い産業、地方の格差を是正し、地方を守るための財政や中央政府の調整機能が必要だとする人たちがいます。個人を対象とするのか、産業を対象とするのかで異なりますが、非常に近い考え方です。こちらは立ち位置からするとサヨクとほぼ同じです。

官僚で今は京大准教授の中野剛志氏が橋下市長を批判し、また橋下市長がツイッターで中野剛志氏をずいぶん口撃するというハプニングがありました。中野剛志氏は「保守」の立ち位置を取っていますが、主張の中味は共産党とさほどかわりません。自民党のなかの構造改革を主張する人たちよりは、はるかにサヨクに近い、保護主義と中央集権強化の考え方です。だから新自由主義に対しても構造改革を主張する人に対してもすさまじい批判を繰り広げます。

小林よしのりも中野剛志も、お前らが考えているほど現実の行政を切りまわすのは楽じゃねえ - 2012年04月27日(金)のツイート(橋下徹) - BLOGOS(ブロゴス) :

付加価値を生まずに既得権益化してカネをもらっているところは見直す。これをやり続けることが新自由主義か? - 2012年4月30日(月)のツイート(橋下徹) - BLOGOS(ブロゴス):

中野剛志氏は政治をバカにしちゃいけない - 2012年05月01日(火)のツイート(橋下徹) - BLOGOS(ブロゴス) :
その対局にあるのは、同じ「保守」政党のなかにいても、新自由主義と言われる人たちです。できるだけ「官から民」へ統治を移し、規制を排除し、小さな政府のもとに、自由な経済活動を促すべきだと主張します。

現実のなかではどのあたりに立ち位置を置くかで政策の中味も違ってきますが、典型的なサヨクと言われる人たちは、反グローバル主義で保護主義に位置し、大きな政府で規制を強化する中央集権志向です。

このふたつの軸だけでも、保守のなかにも新たな対立が生まれてきています。保護主義でTPPには反対で弱い産業や地方を救済する大きな財政を求める人たちと、グローバル主義に活路を見出し、小さな政府を目指し「官から民へ」の構造改革を求める人たちの対立です。

リンク先を見る

安全保障をどう考えるかでは、サヨクといわれる人たちと「保守」といわれる人たちでは大きく異なるのですが、その対立軸をはずすとサヨクもウヨクも、立ち位置が近くまた考え方も近い人たちがいることがわかります。

ツイッターでの、橋下市長の小林よしのり氏や中野剛志氏への口撃に反発するフォロワーの人たちの激しい反応でのタイムラインを見ていると不思議な光景がありました。サヨク、ウヨクと感じる人たちが入り乱れて、橋下市長を攻撃していたことです。それがさらに高揚感を生み出していたように感じますが、そういった混乱もやはり安全保障問題や国家観をはずしてしまうと、同じになってしまうという現象だったと思います。

現在の政治が混迷し、また大義を失った権力闘争や政局に走っているように映るのも、政党が結局は価値観や考え方の異なる人たちの「ごった煮の集団」でしかなくなってしまい、明確な価値観を示すことも大きな構想を描くこともできなくなってしまっているからだと感じます。

民主党と自民党のどちらに所属しているかよりは、所属する党は違っても、先にグローバル主義か保護主義か、中央集権による統治か分散型の統治かといった点で見ても、価値観や考え方が近い議員の人たちがいます。それで政党を選べというのは、国民が選挙で政策を選ぶ権利を奪っているに等しいのです。

あわせて読みたい

「政局」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    渋谷で「一揆」補償巡りデモ行進

    田中龍作

  2. 2

    米で広がる分断 アジア人も下層

    WEDGE Infinity

  3. 3

    コロナ後の日本は失業者増えるか

    ヒロ

  4. 4

    コロナでトランプ惨敗説が急浮上

    WEDGE Infinity

  5. 5

    給付金寄付の強制は「責任転嫁」

    非国民通信

  6. 6

    米の中国批判に途上国はだんまり

    六辻彰二/MUTSUJI Shoji

  7. 7

    テラハ演者 陰湿さ増す悪魔構造

    女性自身

  8. 8

    マイナンバー遅れで残る利権構造

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  9. 9

    コロナが炙り出す質低い大人たち

    毒蝮三太夫

  10. 10

    電通らが甘い汁を吸う給付金事業

    青山まさゆき

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。