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灘中学・高校では「道徳」や「公共」をどう教えているか~灘中学校・高等学校 公民科教諭 片田孫朝日先生に聞く~

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小学校では2018年度から、中学校では2019年度から「道徳の時間」が「特別の教科 道徳」(道徳科)へと教科化されます。また、高校の公民科に新設される必履修科目が「公共」となり、これからは道徳・公共の授業でも生徒たちが「読む」こと中心から、「考え、議論する」ことも求められます。一方で、教科化されることによって、何をどのように学べる授業にするのか、評価はどうするのか等の学校現場での模索も続いています。

そのようななか、日本有数の進学校である灘中学・高校では、どのような道徳・公共の授業を行っているのでしょうか。公民科教諭の片田孫朝日先生にお話をお伺いしました。


このまま大人になると「出会わなさそうな人」と出会う機会をつくる


編集部:灘中生に道徳で学んでほしいと思っていることは何でしょうか?

片田:小学校の頃から優秀な成績を修めて灘中学・高校に入る生徒たちは裕福な家庭の子どもが多く、6年間の中高一貫教育を経て東大や京大あるいは医学部に進学する進路選択が大半です。そのため、彼らは階層的な社会の外側に知らない世界が多くなりがちです。その世界を勉強・体験することは彼らの人生にとっても、意味があることで、それには教育がとても大切だと思っています。

ただし、それを伝えるのに座学だけでは、心に残りません。学校教育として意味があるものにするには、「知的なアプローチ」と「心が動くもの」の両方が必要だと考えています。

「知的なアプローチ」は現状の数字、構造、全体の中の位置づけなど


編集部:では、まず知的アプローチについて教えてください。

片田:「知的なアプローチ」としては、たとえば貧困問題を扱うなら、社会全体でどのくらいの人が該当し、その問題は社会全体でどういう位置づけにあるのか、どれくらいの税金が使われているのか、他国と比較するとどうなのかなどを、自分の見方を相対化しながら俯瞰して捉えられるように説明します。

その時に重要なのはエビデンスで、たとえば「小学5年生の学力テストの点数とその親の年収の相関グラフ」を見せてみると、クラスメイト達は決して「多様な人の集まり」ではないことにハッと気づきます。さらに、それは社会の構造の問題なのか、遺伝的な要素はまったくないのか、何が影響するのかなど、知的好奇心を広げていくことができます。そのうえで自分の生活の問題とのつながりを考えるきっかけをつくります。

片田孫朝日先生

そしてなぜ貧困に陥るのか、その解決には税金を使うことも必要だということ、当事者に必要な社会的資源とは何か、ということを知る必要もあります。誰だって困ることはある、その時にどのような社会がよいのかということを伝えます。

さらに考えるヒントとして、北欧の税金の使い方として、医療費、学費がタダと言う話をすることもあります。「助ける・助けられる」という貧困とは別に、社会が医療・介護で必要なことは必要なこととして助けるべきものという文化の存在を伝える。税金で支えることに「自己責任」ということはなく、社会はみんなで支えなければならないという現実において、「共感」という基盤が必要だからです。

伝えたいことはたくさんになりがちですが、「心に残りやすい」工夫はしています。そこで初めて生徒たちが深い学びを経験できるようになります。心に何を残すのか、それをどうまとめるのか、どこをポイントにするのかは意図的に見せ方を考えています。

「心が動くもの」:動画、当事者の話、現場での体験をもとに議論


編集部:次に、「心が動く」授業づくりの工夫を教えてください。

片田:「心が動くもの」としては、動画の活用、当事者を招いての講演、現場に行っての体験学習などを行うことがあります。

たとえば動画ですと、高校3年生を対象に最近行った授業では、7分程度の「外国人が不動産契約を断られる」という動画を見せて、「大家さん」「外国人」にわかれてロールプレイで議論させ、それぞれの言い分を話したうえでどうするのがいいのかを議論させてみる。「偏見」「差別」「ステレオタイプ」から起こる面倒なことは、どうすれば解決できるのか、その事例を実際に考え、悩ませたうえで紹介すると、心に残るかなと思います。

外部講師を招く授業としては、例えば「赤ちゃん先生」という、小さな子どものいるお母さんに子育てについて語ってもらう授業や、ホームレスの人が路上で販売する雑誌「ビッグイシュー日本版」のスタッフや販売者の方にお話してもらう授業をすることもあります。

「ビッグイシュー日本」のスタッフ・販売者による講義

外部講師を招いた授業を企画する際は、「生徒たちが大人になった後も“実は身近に居る”人たち」だとベターだと思います。その点、赤ちゃんのいるお母さんはどこにでもいますし、学校卒業後、都市部の大学に行ったり就職したりするのであればビッグイシューの販売者には路上で出会うことができます。

外部講師を招くときにお願いしていることは、中学生や高校生対象なので、なるべく生徒たちと年の近い人に自分がチャレンジしていることを話してもらうことです。これにより生徒たちが当事者性やリアリティを持って受け止められ、質疑応答が活発になると感じています。

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