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破天荒すぎるノンフィクション作家が語る「自分らしさの作り方」〜『間違う力』著者・高野秀行インタビュー〜

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BLOGOS編集部

雪男、野人、怪魚…と未確認動物の噂を耳にすれば現地へと駆け付け、アヘン栽培に興味を持てば東南アジアのゴールデントライアングルに潜入する、そんな「面白ければ何でもアリ」な破天荒なノンフィクション作家として、多くのファンを持つ高野秀行氏。

大学時代にアフリカに怪獣を探しに行ったことがきっかけで、作家としてのキャリアをスタートさせた高野氏。2018年には自身の人生観や生きる指針をまとめた『間違う力』が新書化されている。

この本の目次を見ると「長期スパンで物事を考えない」「怪しい人にはついていく」「奇襲に頼る」など、ビジネス書らしからぬ項目が続くが、コスパや効果が重視される時代にあっては逆に新鮮な内容にも感じられる。今回、新刊インタビューとしてはややタイミングが間違っているものの、高野氏を取材し仕事観や生き方についてじっくりとお聞きした。【取材:島村優、清水駿貴】

「面白い」と「楽しい」は両立しない

—今日はよろしくお願いします。最近の肩書きは「ノンフィクション作家」なんですね。

前までは辺境ライターって書いていたんですけど、その説明に疲れちゃった。みんな「それなんですか」って聞くから。あと、ラジオなんかに出演すると、10分しか出演時間がないのに肩書きの説明で5分くらいかかっちゃう。出演時間の半分で辺境ライターの説明することも多くて、労力の無駄だなって(笑)。

—詳しく語るとインタビュー時間の半分くらいかかってしまいそうですが、これまでのキャリアで一番大変だった仕事はどんなものでしょうか?

僕の仕事は現地で色々なことをするのが半分で、実際に書くことがもう半分。取材の部分だけを取るんだったら『西南シルクロードは密林に消える』(※1)という本を書いた時の旅が一番過酷でしたね。

※1:中国の成都からインドのカルカッタまで「幻の西南シルクロード」と呼ばれる道を、密入国を繰り返しながら陸路で辿った旅行記。ミャンマーの反政府ゲリラの支配地域を横断しインドに入国し、日本に強制送還された。

—読んでいても過酷な旅ですが、それが充実した内容につながっていますね。

旅や取材が過酷だと、ハプニングやアクシデントがてんこ盛りで書くのは楽なことが多いです。何もなくスムーズに旅が進んで、心地よく取材をしてしまうと書く時にすごく困るんです。

「面白い」と「楽しい」って2つの言葉がありますけど、これは両立しないことの方が多いんです。楽しい時はその時は楽しいけど、面白いのかと言われたらそんなに面白くなくて、後で書くことがないケースも多い。

—面白いこととは、また別なんですね。

面白いってことは、楽しくないことが多い。大きな葛藤があったり、戦いやトラブルがあったり、あるいはすごく不安に駆られたりする、と色々なことが起こりますが、そういうことを全部含めて、終わってからトータルで考えると面白いんです。

—この本で紹介されているものでも、インドで身ぐるみ剥がされたり、コロンビアでニセ警官に全財産を持ち去られたり、と現地では様々なハプニングにも遭遇します。

人の行かないところに行って、誰もやらないことをやる、っていうことになると、前例がない。だから予測がつきづらくて、ハプニングやアクシデントは必然的に起こりやすくなりますよね。

ミャンマーのゲリラ支配地でケシ栽培する高野氏/高野秀行

うまくいかないことの「重要な意味」

—この『間違う力』のタイトルにもなっていますが、高野さんは旅の中でも色々なことを間違えるシーンがあります。美女に誘われるがままに付き合ってしまい、恐ろしい目に遭ってしまうことも…。

間違えたくて間違えているわけじゃないけど、間違えてしまう。僕がすごく間違えやすい体質で、全体を総合して見通しを持つってことがどうしてもできないんですよ。

その後、どうするかと言ったら、その間違いを生かすしかないわけです。後から考えると、間違ったおかげで道が開けたり、思いがけないことができたり、ということが多々あるんですよね。だから間違いが決して悪いことじゃないな、というのが実感としてはあります。

—旅行中は現地の人にすごく頼るというか、色々なことをゆだねているように見えます。取材を進める時も、あくまで現地のやり方を大切にしていますね。

身をゆだねてしまっているんだけど、それはその方が現地の人たちの本当の姿が見えるから。僕が「こうやりたい」って言って、現地の人たちを動かすこともできるけど、そうすると現地の人は僕に合わせてしまうので、彼らの本当の生活が見えなくなるんですよ。でも、あまり口を出さずに任せてしまうと、地元の人たちの考え方や行動パターンが見えてくるんです。それを見てみたい。

—例えば時間や約束を守らない、言っていることが違う…といったことで、現地で怒ることはありませんか?

それはありますよ。でも、自分もダメですからね。結局、その場所で見ると「こいつダメだな」とか思うけど、もっと広い視点で見ると大した問題じゃないことが多いですよね。

そこには文化的な違いがあったり、すごく大きい意味では、現地でうまくいかないことにこそ意味があったり。

—うまくいかない時の方が何か意味がある、ということですか?

うまくいってないってことは、本質的なことが多いんですよ。文化背景の違いだとか、何か大きな誤解をしているとか、あるいは自分が無理をしている、だとか。文章を書く時でも、うまく書けない時がありますが、そういうパートはだいたいストーリー上の肝なんです。

自分が理解・咀嚼できてないということは、自分の中に新しい価値観が入り込んでるっていうことだから、そのストーリーにおいてすごく重要なパートなんです。そうすると、じっくりと解きほぐして、ちょっと客観的に俯瞰で見るという作業が必要だから時間がかかると思っています。

自分だけの体験は絶対的な強み

—『間違う力』の中では、「長期スパンで物事を考えない」という高野さんの思考スタイルも紹介されています。そうやって考えると、大学卒業後の「就職」は選択肢から外れた、と。

長期的に考えるとキリがないんですよ。真面目な人が多いでしょう、長期的に考える人って。そう考えることで人生が辛くなるわけだから。

—こうした考え方は昔から変わらないんですか?

そうですね、大学時代からは変わってないと思います。当時、不安を持たずにそう考えられたのは、ひとつにはバブルで景気が良かったという理由があります。

僕がこういう人生に入っていったのには、後々から考えると2つの大きな根っこがあって。ひとつは、僕は中学校くらいまでは真面目な優等生で、協調性が非常に高い生徒だったことに関係があります。優等生だったんだけど、高校に入った頃くらいから、そういう路線がすごく嫌になってしまった。そこそこいい企業に就職して、そこそこ重宝されて、そこそこのコースを歩んで、定年退職しておしまいって、先が見えたんです。

—そういう人生は嫌だ、と。

そう、そういう未来を想像した時にものすごくゾッとして、そんなのは絶対に嫌だと。これ以上恐ろしいことはないような気がしました。それだったら自分が好きなことをやりたい、人と違うことをやりたいと思ったのが最初のきっかけです。

—そうだったんですね。もうひとつの理由とはどんなものだったんでしょうか。

もうひとつは、大学に入った時に、周りの人間がものすごく優秀に見えたことです。後から思うと、他の連中もみんな背伸びをして、ハッタリをかましたり、マウンティングしたりしていたのかなと思うけど、当時の僕は「こんな周りが優秀なところに来てしまってどうしよう」と思いました。

—同級生がそんな風に見えたんですね。

この人たちと互角に渡り合って、さらに上に行くなんて無理だと思ったんです。普通のことをやっていたら絶対かなわないから、それだったら違うところで頑張るしかない、と早々に自分の能力に見切りをつけたんですよ。

もともと人と違うことがやりたい、ということで大学入学と同時に探検部に入ったんですけど、最初の年にインドに行って、騙されて身ぐるみ剥がされて、次の学期が始まった後にやっと帰ってくることができたんです。いろんな想像もしないような経験をして、一文無しになって、知り合ったインド人の小学生の家に転がり込んで居候になる、みたいなありえない展開で。

—すごい旅(笑)。

そんな風に帰ってきて、自分が体験した話をするとみんなすごく驚くわけですよ。「すごいね」「たくましくなったね」って同級生の僕に対する見方も変わったんです。自分としては間抜けな詐欺に引っかかった被害者に過ぎないとわかっているけど、やっぱり現場に行って人の体験してないことを体験するっていうのは絶対的な強みなわけですよ。

いくら周りの同級生が優秀だって言っても、大学1年生なんて何も経験してないですよ。そうすると経験している方が圧倒的に強い。だから、自分はとにかく人のやらないことをやって、生き残っていくしかないんだな、と思うようになったんですね。これがもうひとつの根っこです。

「オンリーワン」は人に伝わらない

—そうやって、探検部時代に他人のやらないことは無意味でもやる、という考えが確立されていったんですね。

人のやらないことをやるっていうのは、早稲田大学探検部の思想なんですよね。うちの大学は探検部ができたのが1959年なんですけど、当時から「探検なんて時代遅れだ」って言われていたらしいです。

だから、僕がいた頃はものすごく時代遅れだったわけですよ。その中で「探検とは何か」「何をすべきか」っていうのを頻繁に討論していたけど、結局答えなんて出ないんです。サハラ砂漠をバイクで縦断したり、アマゾンを筏で下ったり、みんな勝手なことやってるけど、他人のやらないことをやって新しいことを見つけるっていうのが各々の活動の共通点です。だから僕は探検部の活動をそのまま継続して、今に至るまでやっているという感じですかね。

—文章を書く仕事は、大学時代に行ったコンゴ(※2)からつながったんですか?

それまでは物を書くってことは全く考えてなかったです。本は好きだったから読んでいたけど、文章は国語の授業で書く作文とか、部に提出する計画書くらいしか書いたことがなかった。だから物書きになるなんていう発想は全くありませんでした。

※2:大学探検部の活動で、アフリカ・コンゴに幻の怪獣とされるムベンベを探しに行った冒険旅行。『幻の怪獣ムベンベを追え』に詳しい。

—今、デビュー作の『幻の怪獣・ムベンベを追え』を読んでもすごく読みやすいと感じます。

逆に言うとあそこから何も変わっていないとも言えますね(笑)。よく言えばブレがない、早くから文体が完成されていた。

コンゴ奥地の村で怪獣ムベンベが住む湖に向かう出発の儀式/高野秀行

—売れなくて苦しんでいた時代が長かったというのは、昔から本を読んでいたのですごく意外な気がしました。

長い間、苦しんでましたね。40歳くらいまでは本当に鳴かず飛ばずでしたよ。読んでくれた人は面白いって言ってくれるんだけど、何しろ読んでくれる人が少ないわけですよ。僕の本っていうのは変わっているのものばかりで、一言で説明しにくい。ジャンルもないし、他に似た本を書いている人もいない。

それこそ『間違う力』のテーマでもありますけど、オンリーワンなんですよ。「オンリーワン」なんて言うと聞こえはいいですが、最大のデメリットですよね。人に伝わりにくいんですよ。

—他に似たものがないとカテゴライズできないですからね。

そうそう。でも、世の中はそういうダブルスタンダードで動いていて、ビジネスでも学問でも「新しいことやらないといけない」というのが基本的な考え方としてある。他と同じことをやったら仕事にならないから、常に新しいものを作らないといけない。

ただ、それにもかかわらず、本当に新しいことをやるとジャンルがない。前例がないからできない、っていうことが起こる。そういうダブルバインドの中で、みんな右往左往しているんです。

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