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幕内優勝の朝乃山は〝トランプフィーバー〟の被害者 - 新田日明 (スポーツライター)

令和最初の本場所を迎えた角界が〝トランプフィーバー〟で右往左往した。25日に東京・両国国技館で行われた大相撲夏場所の千秋楽にドナルド・トランプ米大統領が安倍晋三首相とともに来場。正面最前列の升席にソファのようなイスが設けられ、そこに両首脳夫妻らが腰掛けて観戦し、約1時間滞在した。

天皇陛下ですら2階の貴賓席に座るのが通例にもかかわらず、わざわざ升席をイスに〝改造〟して座ったVIPは過去に1人もいない。その周りをSPが取り囲む様子も物々しい雰囲気で何となく異様な光景だった。とにかく何から何まで異例ずくめであった。

午後5時前、取組が行われている最中にトランプ大統領が国技館に姿を見せると、それに合わせて進行も一時中断し、館内にいた観客の多くは総立ちになった。升席周辺にはスマホを手に撮影するお客さんが数多く見られたが、その流れに反発して「座れよ、立つんじゃない!」「トランプじゃなくて相撲を見に来たんだろ!」などと怒声を浴びせながら戒める人たちもいた。

こうした館内の騒然とした空気に水を差されてしまったのか。今場所優勝力士の前頭8枚目・朝乃山は小結・御嶽海とトランプ大統領の登場直後に行われた初顔合わせで寄り切られて完敗。VIP登場のざわめきが沈静化しない中で再開された取組に勝った御嶽海も「朝乃山がかわいそう」と思わず同情するほどだった。

それでも幕内最高優勝の表彰式で朝乃山がトランプ大統領から新設の米国大統領杯を直接受け取ると館内が割れんばかりの拍手と大歓声で盛り上がったように、世の多くの人たちもワーワーと騒いで完全に〝トランプフィーバー〟の流れに飲み込まれてしまった感は否めない。

個人的に言わせてもらえば、トランプ大統領の大相撲観戦はまったく悪いことではないと思う。むしろ日本の誇る大相撲が世界中にニュースとして打電され、広まることは大いに素晴らしい流れであるはずだ。ただ、いくら超VIPのトランプ大統領が観戦するとはいえ、日本相撲協会側はもう少し冷静になって「平常運転」を貫き通すことが出来なかったのだろうかと考えさせられた。そういう意味でも、御嶽海の言葉ではないが「朝乃山がかわいそう」だと感じずにはいられない。

日本の政府側から千秋楽で安倍首相とトランプ大統領が揃って升席で観戦し、両者がそれぞれ内角総理大臣杯と米国大統領杯を手渡すプランを持ちかけられれば断る理由などない。ましてや公益財団法人の資格を有している以上、なかなか政府に注文や条件も付けづらいだろう。

だが、どうしてもトランプ大統領の来場に世の中の視線が釘付けになり過ぎるが余り、肝心の25歳の若手力士・朝乃山の優勝はどこか隅のほうへ追いやられる格好となってしまった。

平幕の優勝は昨年初場所の栃ノ心以来。三役経験のない力士に限ると1961年夏場所優勝の佐田の山以来58年ぶりの快挙である。しかも朝乃山は新入幕から11場所目の幕内優勝で、年6場所制になった58年以降では貴花田(後の貴乃花)、そして曙ら後の名横綱にも並ぶ8位のスピード記録となった。しかも令和最初の本場所での優勝力士なのだ。

こうした快挙が大々的に取り上げられないのは何だか寂しいし、協会側は「トランプファースト」ではなく「力士ファースト」になれるような段取りを組めなかったのかなと感じてしまう。

NHKで放送された千秋楽の大相撲中継も前日の14日目の時点で朝乃山が優勝を決めていたこともあるが、当日の放送は終盤の大部分が〝トランプフィーバー〟に席巻されていた。誰が考えてもトランプ大統領に話題をかっさらわれることはあらかじめ分かっていたわけだし、もっとうまく優勝力士がクローズアップされるような段取りを前もって各メディアに仕込んでおく工夫は出来なかったのだろうか。

とはいえ、やっぱりいつものように協会側はメディアに〝上から目線〟の態度を決め込んでいるから、朝乃山の快挙がいまひとつ盛り上がりにかけてしまう結果を招いているような気がしてならない。

今場所は無双横綱の白鵬が休場し、そして人気者の新大関・貴景勝も右ひざ負傷で途中休場(再出場したものの再び休場)。優勝候補の注目力士が相次いで不在となり、協会側が慌てていた背景ももしかしてあったのだろうか――。そういう疑念を抱かれても仕方がない微妙な判定も朝乃山の取組にはあった。

13日目の関脇・栃ノ心戦。一方的に攻めながら土俵際で栃ノ心の引き技に行司軍配が上がったが、物言いがついた。審判の協議の結果、栃ノ心のかかとが俵を踏み越していたとして差し違えとなり、朝乃山の白星となった。だが、割と鮮明に映されていたNHKのテレビ中継の映像では、栃ノ心のかかとは俵を踏みこしていないようにも見えた。審判団によれば、なぜかビデオ映像も正確にとらえられていたわけでないといい、約6分も土俵上で協議した末に最後は審判長を務めた阿武松審判部長が「目の前で見えた人の意見で判断した」という理由で断を下してまとめた。ネット上でも批判めいたコメントで大炎上したが、当たり前だ。

納得いっていない

もちろん朝乃山に何一つ非はない。この一番について「納得いっていない」と振り返っているように本人にとっても不本意な勝ち名乗りであったことは明らかである。

この不可解な判定を巡っては「今場所で『トランプ大統領からの記念すべきトロフィーをどの力士が受け取るか』は協会にとって重要事項。勝ち星でトップに立ち、日本人力士である朝乃山に一刻も早く平幕優勝を決めてほしいと考えたからではないか。そして何より千秋楽での優勝決定戦にもつれるような展開となれば、トランプ大統領の滞在時間が延びてしまい、VIPをイラつかせる流れになってしまうと協会側が〝忖度〟したのでは…。

しかも今場所は1人横綱、2人大関なのに取組編成で朝乃山が結局、最後まで横綱・鶴竜、大関・高安との対戦が組まれなかったのは千秋楽のトランプ大統領の絡みもあって、どうしてもすんなり優勝してもらいたいという配慮が働いたとしか思えない」とうがった見方をする声まで出る始末だ。

いずれにしても朝乃山にはせっかく達成した素晴らしい快挙が、今回の〝トランプフィーバー〟の添え物にされてしまった感も漂う。非常に気の毒な気がするが、今場所の優勝が「フロック」と言われないためにも来場所以降は上位との対戦を経て結果を出すことが求められる。まだ若いだけに角界の次代を担う本物の強者に成長を遂げてほしい。 

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