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「誰のせいにもしない」文化が、組織の多様化と問題解決を進めていく──熊谷晋一郎×青野慶久

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「見えやすい障害」と「見えにくい障害」があり、後者を研究する必要がある

個人の多様性を考えたときに、障害には「見えやすい障害」と「見えにくい障害」があります。

誰もが生きやすい社会にするには、「見えにくい障害」をいかに研究するかが大事なのではないかと思っています。

見えにくい障害、ですか。



たとえば私の場合は、車椅子に乗っているので「見えやすい」障害です。誰もが、規格外であることがわかる。

見えやすい障害のある人は、満員電車で舌打ちされたり、排除されやすかったり、大変さがある一方で、表現コストを節約できる。

社会のなかでどんな困りごとを抱えていて、どんな手立てが必要なのか、言葉で伝えなくても察してもらうことができるんです。

たしかに、お会いした瞬間に障害をお持ちであることがわかります。


一方、精神障害などの「見えにくい障害」は、一見していわゆる「普通」とどう違うのかがわからない。周りだけでなく、本人にも見えにくいんです。

かの人との「違い」に気づいても、理由がわからないから解決策が見つからず、苦しい状態に置かれ続けてしまいます。そして障害が見えないから、「努力が足りない」「意思が弱い」といったように人格を否定してやり過ごすしかない。

それは、大変な状態ですね。



混沌と混乱ですね。生きづらさを表現する言葉が世の中に流布していない、ゆえにどうすれば生きやすくなるのかもわからない。

だから、モノを投げたり、叫んだり、「問題行動」と言われるような何らかの症状を発することでしか、他者とコミュニケーションを取ることができない状況まで追い込まれたとしても不思議ではないんです。


なるほど。



「見えにくい障害」の当事者の人たちは、自分のニーズを主張する前に、自分が何者なのかを解明していく必要がありました。

そこで生まれたのが、自分自身を研究対象に、仲間たちと困りごとを解きほぐしていく「当事者研究」という取り組みです。

研究者として、問題と自身を切り分けて、観察する

見えにくい障害や、自分を知る「当事者研究」はどのような手法で行われるのですか?



たとえば、「放火する」という問題行動を頻繁に起こしてしまう人がいたとしましょう。このとき、自分を見つめ直す方法にはふたつのモードがあるんです。

ひとつは「反芻(はんすう)」モード。問題行動を起こした自分を、取り調べをするように責めていく方法です。「なんでやったんだ?」と追い込んでいく。

これは、つらそうですね。



反芻モードで自分を振り返ると、落ち込んで具合が悪くなります。自分自身を責める行為ですから。

それに比べて対照的なのが「省察(しょうさつ)」モードです。自分の起こした問題行動を、まるで自然現象を観察するように振り返ります。


雨が降ったときに、誰かを責めることはないですよね。同じように人間社会で起きる問題も、きわめて複雑な相互作用のなかで起こる「現象」だと考えるのです。

放火を起こしてしまったのはなぜなのか。どんな困りごとがあったのか。周囲の状況、自分の感情を、客観的に分析していきます。

なるほど。おもしろい!


このように、問題行動をひとつの属人化できない現象として捉えることを、「問題の外在化」と呼んでいます。

そうすると、問題行動に対する解釈が変わってくるんです。問題行動や症状は、取りのぞくべき無意味な邪魔者ではない。何かほかのところに困りごとがあると知らせてくれる、意味のあるシグナルだと受け止められます。

研究者として、その症状がどんな意味を持つのか、解き明かしていくわけですね。

他責でも自責でもなく「無責」で考えると、自分やチームのことがわかってくる

ビジネスの世界では、「他責ではなく、自責で考えよ」とも言われますが、僕は「無責」が好きなんです。

先ほど熊谷先生がおっしゃった「問題の外在化」は、無責にも近いのかな、と思いました。

ああ、はい。そうですね。


たとえば、顧客からのクレームが発生したとき、「開発のせいだ」「営業のせいだ」と自分や誰かのせいにするのは無意味だと思っています。複雑なさまざまな要因が絡み合っているから、犯人探しをしたらきりがありません。

起きるべくして起きたと「無責化」すれば、チームでおたがいを責め合わずにすみます。

そうですよね。犯人を追い詰めて罪を償わせることよりも、無責化して分析することの方が大事なのではないかと。

無責化して、複雑に絡み合う問題を解きほぐし、誰かと共有することで、はじめて一人ひとりに心からの反省が湧き出てくることも多い。本当の反省をするためには、いったん無責化することが前提条件になるのではないでしょうか。

自分の困りごとを知る「健常者の当事者研究」が必要な時代

先ほど「放火」を例に挙げていただきましたが、最近は政治家が問題発言をしたり、SNSで誹謗中傷を繰り返す人がいたりと、健常者にも「問題行動」があるような気がします。

最近では、まさに「健常者の当事者研究」が始まりつつあります。

これまでの当事者研究の主な対象は、見えにくい障害を持つ「障害者」でしたが、社会が急速に変化するなかで、健常者も言葉にし難い困りごとを抱えるようになっています。

自分の困難を表現する言葉を持たず、原因もわからないと、苦しいですよね。

ええ。



研究者は、中立的な立場で、事態をありのままに観察します。その研究者的な視点を自分の人生に当てはめて、「自分はいったい、何に困っているのか?」と、目を逸らしていた核心に迫っていくのが当事者研究です。


「当事者研究」で自分たちをより深く知ることが、自分の個性を発揮できる組織をつくる一歩なのかもしれませんね。

今後は企業にこの「当事者研究」を導入する試みも始めたいと思っていますので、またご相談させてください。

ぜひぜひ! 今日はありがとうございました。

執筆・徳瑠里香/撮影・橋本美花/編集・明石悠佳/企画・大槻幸夫、山口雄大

執筆
ライター
徳 瑠里香
出版社で書籍、WEBメディアの企画・編集・執筆を経て、ご縁のあった著者の会社でPR・店舗運営などを経験。その後、独立。
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撮影・イラスト
写真家
橋本 美花
主に人物写真を撮らせていただいているカメラマンです。お仕事以外では海外へ行ってスナップ写真を撮ることが大好きです。自転車に乗りながら歌うことも好きです。
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編集
編集部
明石 悠佳
2015年に新卒でサイボウズに入社し、 1年半製品プロモーションの経験を経たのちコーポレートブランディング部へ異動。 現在は「サイボウズ式」の企画編集や、 企業ブランディングのためのコンテンツ制作を担当している。 2018年1月から複業でフリーランスの編集者/ライターとしても活動を行っている。
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