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ディオバン事件から学ぶもの

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マネーデーターベース「製薬会社と医師」出典:ワセダクロニクル

上昌広医療ガバナンス研究所 理事長)

【まとめ】

・ディオバン事件を機に臨床研究法が成立、医療界・製薬業界に変化。

・薬品会社から50人の医師に多額の金が流れていた。

・今、製薬会社と医師に求められているのは「透明なプロセス」。

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て見ることができません。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=45955でお読み下さい。】

「この研究をするのは、当初、気が進みませんでした。無用な敵を作るからです。ただ、研究不正は患者さんの健康に直接関わります。また、ディオバン事件は母校の千葉大学が関与していました。事件の後、どうなったのか、はっきりさせたいと考え、決心しました」

こう語るのは澤野豊明医師である。南相馬市立総合病院に勤務する外科医だ。5月17日、アメリカ医師会が発行する“JAMA Network Open”誌に製薬マネー研究の論文を発表した。

この研究は、2012年に発覚した降圧剤の臨床研究不正であるディオバン事件に関わった医師が、その後、製薬企業とどのように付き合っているかを調べたものだ。

[画像をブログで見る]

ディオバン事件の舞台は、京都府立医大、慈恵医科大、滋賀医科大、千葉大、名古屋大だ。ノバルティスファーマ社(ノ社)が販売する降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)の臨床研究で、その効果を高めるようにデータが改竄され、その結果が英文医学誌や学術集会で発表されていた。一連の臨床研究ではノ社の社員が統計解析を担当し、論文ではそのことを隠していた。

ノ社は研究成果を販促に使い、最盛期には国内で年間に1400億円超を売り上げた。ノ社からは臨床研究を遂行した教授や彼らが主宰する講座に巨額の資金が渡っていたことが分かっている。

2014年6月、元社員は薬事法の誇大広告違反容疑で逮捕され、7月にはノ社とともに起訴された。現在、係争中である。

5つの大学が発表した一連の論文は撤回され、慈恵医科大、滋賀医科大、京都府立医大の関係者は引責辞任した。

さらに、2017年4月には臨床研究法が成立し、翌年4月から施行された。この結果、製薬企業の資金提供を受けて実施する医薬品の臨床研究は「特定臨床研究」と位置付けられ、モニタリング・監査などが義務付けられた。

製薬業界も動いた。日本製薬工業協会(製薬協)に加入する製薬企業は、2013年度分から医師や医療機関に支払ったカネを公開するようになった。

ディオバン事件を反省し、医療界・製薬業界は変わった。特に製薬企業から医療界へのカネの流れが開示されたことは大きい。どの企業とどの医師が連んでいるか第三者が検証できるようになった。

私が主宰するNPO法人医療ガバナンス研究所ワセダクロニクルと共同で、2016年度支払分から製薬マネーをデータベース化して、無料で公開した。

澤野医師たちは、このデータベースを用いて、ディオバン事件に係わった50名の医師たちが、2016年度にどの程度製薬企業から個人的にカネを受け取っていたか調査した。この調査には大学などに支払われた寄付金や共同研究費は含まれない。

その結果は衝撃的だった。論文著者50名中、29名(58%)が製薬企業からカネを受け取っていた。その総額は6418万円で、内訳は講演料5418万円、コンサルタント料673万円、原稿料243万円だった。

受け取った金額の平均は128万円で、5名が500万円以上、3名が1000万円以上を受け取っていた。その3名とは、室原豊明・名古屋大学教授(1433万2156円)、前川聡・滋賀医科大学教授(1132万2051円)、小室一成・東京大学教授(1051万494円)だった。小室教授の前職は千葉大学教授で、ディオバンの臨床研究のトップだった。

問題を指摘された5つの臨床研究では、小室教授と室原教授を除く3名は引責辞任などの形で責任をとっている。教授職に留まったのは小室教授、室原教授だけだ。

ディオバン事件発覚後も、彼らは地位に固執しつづけた。例えば、小室教授の場合、2014年7月に千葉大学が公表した調査報告書では、虚偽の説明をし続け、調査を混乱させ、長期化させた」と糾弾されている。

千葉大学は、小室教授が在籍する東京大学に「しかるべき処分の検討を要請」した。私が知る限り、前代未聞の対応だ。ところが、小室教授はその地位に留まった。記者会見などを開き、自ら説明することもなかった。

東大や医学会にも当事者意識はなかった。千葉大から処分を求められた東大は、前職での問題で自らに処分権限はないとして動かなかった。医学会については、2016年6月、小室教授は日本循環器学会の代表理事選挙に選出された。

トップがこれでは組織は緩む。ツケは患者が払うことになる。その典型は医療事故だ。昨年11月、東大病院で医療事故隠蔽疑惑が指摘され、国会でも議論された(参考「選択」記事)。

舞台となったのは小室教授が率いる循環器内科だった。これについても、医療機器メーカーとの関係が指摘されている(参考「Forbes Japan」記事)。知人の東大病院の内科医は「ディオバン事件で小室教授が引責して、やり直していたら、このような事故は起こらなかったと思う」という。

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