記事
  • S-MAX

秋吉 健のArcaic Singularity:通信業界を襲ったファーウェイショック。米国の中国企業排斥の動きと周辺各社の動向から降りかかる危険性について考察する【コラム】

2/2

■強硬な政策が引き起こす通信業界の世界分断


ファーウェイ以前にも、ZTEが輸出規制からの業界締め出しの憂き目に遭っていますが、こうした中国企業排斥の動きは世界の通信業界にとってどのような結果をもたらすのでしょうか。

ファーウェイは広域無線通信インフラの売上高シェアにおいて、2017年には世界第1位、2018年には世界第2位となっています(英IHSマークイット調べ)。2018年にシェアを落としているのは、米国による制裁の懸念と各国へ使用中止を求める圧力によって採用を控える動きによるものと考えられます。

それでも2018年時点で26%にものぼる売上高シェアを確保していた同社の影響力が、今回の問題ですべて白紙に戻るとは到底考えられません。それは発展途上国や米国経済圏の外側とのつながりや影響力の大きさがあるからです。

as-077-009
ファーウェイの市場シェアを支えるのは米国をはじめとした先進国だけではない

ファーウェイが開発・生産しているのはスマホやタブレットのような端末機器ばかりではありません。最新の通信技術である5Gも含めた各種通信基地局設備もまたファーウェイの主戦力であり、中央アジアから東欧圏、さらに東南アジア、中東、インド、アフリカに強固な経済圏を構築するために中国が推し進める「一帯一路」政策とともに、そのインフラ事業の範囲を拡大してきました。

ファーウェイ製基地局設備は軽量かつ小型でコストパフォーマンスや設置性に優れているのが特徴でもあり、大きな鉄塔が建てられない市街地や機器の搬送が難しい山岳地帯などでも設置が容易です。こういった製品特性から各国が通信設備をすぐに他社製品へリプレースすることは難しく、ファーウェイの通信機器に頼らざるを得ない国は非常に多く存在するのです。

仮にスマホなどの端末事業で米国経済圏からの締め出しに成功したとしても、この問題で同社が態度を硬化させ、敵対的な関係のまま中央アジアや中東、アフリカ圏などで勢力拡大を図った場合、通信技術の分断や社会構造的な対立を生み出すきっかけになりかねません。

事実、すでに同社では打倒米国に近い社内気運が高まり、以前より開発を続けていた独自OSの研究を加速させたとの情報もあり、輸出規制や貿易摩擦が世界を二分する通信戦争へと発展する可能性すら生まれ始めています。

as-077-011
ファーウェイの国際特許申請数は2年連続で1位だ。仮にこれらの特許が米国経済圏の通信技術に使えなくなった場合、技術発展の遅れや製品開発が行えなくなる恐れすらある

■単独行動主義への批判



そもそも、米国によるファーウェイ排斥の根拠は、「国際緊急経済権限法(IEEPA)の違反やイランへの禁止された金融サービスの提供によるIEEPAへの違反の疑い、それに関連した調査妨害、さらに法務省によるファーウェイへの訴訟の申し立てが含まれる」(こちらの記事より引用)というものですが、仮にそれが事実だったとしても、今回の措置は厳しすぎる上に一方的であるように感じます。

現在IEEPAの適用国となっている国には、イラン、シリア、ベラルーシ、北朝鮮、ジンバブエなどがありますが、ロシアですら適用国なのです。それらの国の企業や政府と取引があるというだけで制裁の対象となり、その制裁対象の企業と取引がある企業もまた制裁対象となる可能性があるとしたら、多くのグローバル企業が米国の思うがままではないでしょうか。

米国の行動に不信感を持つ理由には、諸外国と協調していこうという姿勢や取り組みが感じられない点も挙げられます。仮にIEEPA違反が事実だったとして、なぜ今回の排斥措置を豪州と日本の二国しか支持していないのでしょうか(そもそも米国にファーウェイ排斥を訴え始めたのは豪州だという報道もある)。

紛いなりにも友好関係にあるEU諸国は一国も賛同していません。ドイツに至っては今回の措置へ反対すら表明しています。これが米国国内のみで完結する排斥であれば国家主権と安全保障の観点から他国が口を出せる立場ではありませんが、全世界に多大な影響と経済的損失を与える問題であるにも関わらず、友好国の賛同すらも得ないまま強硬な措置に出たことは少々理解に苦しみます。

今回の問題が単なる国際平和に関連したものではなく、米中貿易摩擦とも関連し米国の自国利益を重視した政策の一環であることは誰の目にも明らかです。そういった一国主義や単独行動主義からの制裁行動には強く異を唱えるとともに、それが引き起こす世界の経済的分断と企業活動の萎縮は看過できないところです。

as-077-012
米国が黒と言えば黒になってしまう世界で良いのか

ファーウェイの基地局設備や端末機器には日本製の部品も多く採用されています。ディスプレイ関連ではAGCやジャパンディスプレイ、半導体関連では京セラや東芝メモリ、ソニーセミコンダクタソリューションズなどがあり、ほかにもパナソニックや日本電産、富士通、三菱電機など、大手メーカーがずらりと名を連ねています。

これらの企業の業績に影響が出ることは必至であり、MNOやMVNOだけではなく、日本経済全体にも大きなダメージを与える可能性があります。米中貿易摩擦とともに、もはや対岸の火事ではなくその火中(渦中)に投げ出されているのです。

米国とも中国とも良好な関係を維持し発展してきた日本にとって、ファーウェイの問題は一時的なものではなく、今後に禍根を残しかねない非常に憂慮すべき事態です。そしてそれは世界でも同様であり、もはや状況の打開には政治的交渉以外残されていないように思われます。

米国の思惑の通り、これでファーウェイが凋落していくのか、それとも奮起驀進して世界を再び席巻してしまうのか……。企業が貿易摩擦や政治判断による障害を乗り越え、世界を席巻する技術とシェアを手に入れた例など枚挙に暇がありません。

ファーウェイの現状に、かつてピンチをくぐり抜けてきた数々の企業の姿が重なって見えるのは筆者だけでしょうか。

as-077-013
発表会が終わる頃には雨は上がっていた。ファーウェイを襲った暴風雨はいつ止むだろうか

記事執筆:秋吉 健

あわせて読みたい

「HUAWEI(ファーウェイ)」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    内村光良のNHKコントは笑えない

    メディアゴン

  2. 2

    ANAホテル 首相答弁と反する回答

    辻元清美

  3. 3

    辻元氏 ANAホテルは事実を答えた

    辻元清美

  4. 4

    韓国「パラサイト」で反日強化か

    WEDGE Infinity

  5. 5

    落ち込んだGDP どうなる日本経済

    ヒロ

  6. 6

    桜問題で逃げ回る安倍首相に苦言

    畠山和也

  7. 7

    いま選挙語る山本太郎氏は場違い

    早川忠孝

  8. 8

    医療者守れぬ政府対応に医師苦言

    中村ゆきつぐ

  9. 9

    死者1万人 米インフルはコロナか

    PRESIDENT Online

  10. 10

    大企業だから? 楽天叩きに違和感

    企業法務戦士(id:FJneo1994)

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。