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「あらゆるところで株式会社化が進んだために、現代人は長期的な視野を持てなくなっている」 - 「賢人論。」第90回内田樹氏(前編)

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視野が短期的になるのは、工業化社会の宿命でもあった

みんなの介護 「朝三暮四」は春秋時代の話でしたが、人類はどのように時間意識を獲得していったのでしょうか

内田 人類は長い時間をかけて少しずつ時間意識を拡大してきたんだと思います。大きな転機となったのは農業の開始でしょう。

農業の前は狩猟と採取で暮らしていましたけれど、これには計画性がない。獲物にはすぐに出会えるかもしれないし、まったく出会えないかもしれない。この生業はすべては天任せで、長い時間意識を要求しないのです。

しかし、農作物を得るためには、種子を蒔き、肥料をやり、日に当て、風水害や虫害から植物を守り、収穫期になってようやくその果実を得ることができます。種子を蒔く時点で、何ヵ月か後に収穫を得ている「未来の自分」の喜びをありありと先取りできなければ、「今の自分」の苦役に耐えることはむずかしい。今日のことしか考えられないサル的な短絡的思考では、農作物を育てるということはできません。

みんなの介護 確かに、農作物を育てている動物は見たことがありませんね。

内田 第一次産業で一番長い時間意識を要求するのは林業でしょう。今植えた木を伐り取って利用できるのは、50年とか100年後なんですから。収穫物を享受できるのは自分でさえない、自分の子孫たちです。自分の子孫たちに自己同一性を感じる能力がなければ、そんな仕事はできません。

そうやって、じわじわと延ばし続けてきた人類の時間意識が、20世紀に入ってから逆に短縮化してきている。農業に代わって、工業が支配的な産業形態になったことが一因だと思います。

工場でものを作る場合に、コンベアに乗せた原料が完成品になるまで半年も1年もかかる、ということはありません。場合によっては数分で、完成品が出て来る。

種子は蒔いたが日照りだった、虫に襲われた、凶作だった、というような予測不能な事態は、工場内では基本的に起きません。だから、工程を管理し、規格を整備し、バグが出たら弾き出せばいい。工場でものを作っている限り、長い時間意識を持つことは制度的に要求されないのです。

みんなの介護 資本主義経済においては、より速く、より正確に、より均一に、という方向に技術が進歩しますしね。

内田 はい。それに、工業商品の適否はすぐに決まります。市場で選好されない商品は四半期さえ待たずにラインから外される。株式取引では、アルゴリズムが1,000分の1秒単位で株を売り買いしている時代です。ビジネスにおいて、5年以上先のことを想像しろというようなことはどこでも、誰からも求められない。それでは時間意識が短縮して、人々が「サル化」するのは当然ですよね。

今、メディアで、5年後10年後のことを真剣に語っている人なんかいませんでしょう。五輪だ万博だと騒いでいる人たちは、前に一度美味しい思いをしたので、「兎が木の根に当たるのを待っている」農夫とほとんど同じ顔つきになっているけれど、そのことに気づいてさえいない。日本人は着実にサル化している。僕はそう思います。哀しい話ですけど。

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