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米朝、対話路線の裏で再び暗闘、弾道ミサイル〝泣き寝入り〟だが… - 樫山幸夫 (産經新聞元論説委員長)

北朝鮮が5月9日、短距離弾道ミサイル発射実験を強行したが、米国は国連安全保障理事会での制裁検討を断念した。トランプ大統領は事態をことさら矮小化、韓国は人道支援に踏み切る方針すら打ち出している。米韓の〝弱腰〟につけ込んだ挑発行為は今後も繰り返されようが、米国は抑制した対応の一方で、迎え撃つ構えもみせている。北朝鮮の〝密輸船〟を差し押さえ、核、開発継続を示す証拠写真収集など監視、追跡を強化、米朝首脳会談再開をめぐる双方の〝暗闘〟がすでに激化している。 


(myella/gettyimages)

再び発射の場合は安保理付託

5月22日づけ東京新聞3面に、「米『再発射』看過せず」という見出しが躍った。

米政府は、朝鮮が短距離弾道ミサイル発射を再び強行すれば、安保理での対応を求めるものの、5月9日の発射については、安保理討議を見送るという意向を日本や常任理事国に伝えていた、という内容だった。

5月上旬の一連のミサイル発射については、すでに内外のメディアが詳細に報じている。

1回目は5月4日。複数の〝飛翔体〟が発射され、射程70キロ~240キロの通常の短距離ミサイルと断定された。

短距離弾道ミサイルは5月9 日、北朝鮮北西部から発射された。やはり複数、それぞれ東方向に410キロ、270キロ飛行、日本海に落下。米国はただちに弾道ミサイルと断定した。

北朝鮮の弾道ミサイル実験が確認されたのは2017年11月の「火星15」以来。北朝鮮は2006年7月のミサイル実験強行に伴う安保理制裁決議で、「弾道ミサイル技術によるいかなる発射」も禁止された。しかし、その後も、発射実験を繰り返し、その都度同様の決議が採択されてきた。

今回の発射も短距離とはいえ明確に決議に違反、過去同様、安保理で討議されるべきケースだった。

米大統領、不可解な態度豹変

トランプ大統領は9日の発射直後、「非常に重大な問題だ。うれしく思う人はいない」と強い不快感を示したものの、舌の根も乾かない翌日、「短距離(ミサイル)であり、信頼を裏切る行為とは思わない」と、にわかにトーンダウンさせた。不可解な態度豹変というべきだろう。

北朝鮮の金正恩朝鮮委員長との〝信頼〟関係がどの程度のものか判然としないが、国連の制裁決議無視にもかかわらず揺るがないほど強固ということなのか。米国に到達するICBM(大陸間弾道弾)ではなかったことが抑制的な対応につながった可能性がある。

9日の発射実験当日、訪米中だった菅官房長官がポンペオ国務長官、シャナハン国防長官代行と会談、これまでの国連決議の履行が必要との認識で一致したものの、安保理付託、あらたな制裁は話題にもならなかった。

韓国統一省は、弾道ミサイル発射から約1週間後の5月17日、世界食糧計画(WFP)などを通じて、北朝鮮に800万ドル(9億円)にものぼる人道支援を行うことを発表。あわせて、2016年2月の長距離弾道ミサイル発射をうけて操業を中断した開城工業団地(北朝鮮南部)への韓国側企業関係者の状況確認訪問を許可した。

日米韓各国はなぜこうも抑制的なのか。北朝鮮を刺激したくない理由をそれぞれ抱えているという簡単な理由からだ。

〝弱腰〟でも北の刺激を避ける

今年2月のベトナム・ハノイでの首脳の会談でトランプ大統領は金委員長に対し、核、ミサイル開発の全面放棄を制裁解除、緩和の条件としてつきつけた。核施設を漸次縮小、そのつど見返りを得る〝行動対行動〟方式を求める金正恩が反発。会談は物別れに終わった。

今回のミサイル発射は、それに対する不満の表明であり、米国に強硬方針を放擲させて首脳会談を早期に再開、寧辺(ヨンビョン)あたりの古い核施設廃棄など実害のない取引材料で制裁の緩和、解除を引き出すというのが狙いだ。

トランプ大統領にしてみれば、挑発、恫喝に屈した形で早期会談に応じることはできないにしても、対話路線が挫折してしまうことも絶対に避けなければならない。国内、政府部内の慎重論を押し切って自らの主導で対話路線を進めてきただけに、それが潰えることは、核、ミサイル実験の停止という成果を失うことにもなり、来年の再選戦略に計り知れない悪影響を与える。

北朝鮮への影響力を強めることが期待される中国とは〝貿易戦争〟がかつてないほど深刻さを増しているし、イラン情勢も〝一触即発〟であることを考えれば、東アジアであらた緊張状態を抱え込むことは得策ではない。弱腰に映っても、北朝鮮を刺激するのを避けるのがベターと考えているようだ。会談再開を「急ぐ必要はない」としながら「北朝鮮との関係は続く」としている大統領のコメントは、その苦しい胸の内を反映している。

仲介者の立場守りたい文大統領

今回、韓国は弾道ミサイルとは認めていない。文在寅大統領のコメントも「こうした行動が続けば、対話と交渉を危うくする」と米国同様、穏やかというより明らかに腰が引けている。

文大統領は米朝交渉にあわせて、開城工業団地など北朝鮮との経済交流再開に意欲を燃やす。そもそも、米朝関係の仲介役を自任、昨年6月の米朝首脳会談に先立つ4月に、韓国と北朝鮮を分断する板門店で会談したのをはじめ、これまで3回にわたって金正恩と会談、緊密な関係をアピールしている。

それだけに、米朝対話の崩壊は仲介役としての立場を失わせることにつながり、核問題を自らに有利に解決しようという思惑の挫折も生む。並外れて寛容な韓国の支援の背景には、こうした事情がある。

米情報機関、核開発は継続と分析

米国、韓国の足もとを見透かすように金正恩は今後も挑発を続けてくるだろう。

北朝鮮は、対話再開の〝最終期限〟をことし年末と勝手に設定し、それが実現しなければ「米国が望まない結果を招く」(崔善姫第一外務次官)などと恫喝。じっさい、朝鮮中央通信(KCNA)は、金正恩が5月10日、「防衛部隊の能力増強をめざし打撃訓練を指導した」と伝え、〝闘志満々〟のところをみせた。

懸念されるのは核実験再開だが、そうして事態になれば、現在のところ静観している中国やロシアを刺激、あらたな制裁に同調させることになるため、現時点では可能性は低いという見方が主流だ。

トランプ大統領は昨年のシンガポールでの第1回米朝首脳会談以来、「北朝鮮の核の脅威は除去された」と繰り返してきたが、米国の情報機関は衛星写真によって、北朝鮮は依然、核開発を継続していると結論づけている。

米国のシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)が5月に公表した衛星写真によると、朝鮮半島の非武装地帯北百数十キロ付近の山岳をトンネル状に掘削、軍事基地を建設している。ミサイル本体こそ写っていないが、収納施設、移動発射装置などとみられる施設、装置が鮮明だという。

米国の軍事専門家やシンクタンクなどは今回発射されたミサイルの型式についても関心を持っている。ロシア製の「イスカンデル短距離ミサイル」とみられ、飛行中の軌道修正が容易、通常の弾道ミサイルより低い高度で飛ぶことが可能で、ミサイル防衛システムによる破壊が困難という。

北朝鮮がこうしたミサイルを保有していることも、ミサイル開発がなお継続されていることを示している。

司法当局、制裁違反摘発に乗り出す

米当局による摘発も始まっている。短距離弾道ミサイル発射が確認された今月9日、米司法省は制裁決議に違反して石炭を不正に輸出しようとした北朝鮮の貨物船「ワイズ・オネスト号」の拘束を発表した。2018年4月、制裁の禁制品、石炭を積み込んで北朝鮮を出港、インドネシアに向かったが、衛星写真で監視されていた。同国に入港したところを拿捕され、米国の令状によって引き渡された。制裁を理由に米国が北朝鮮の船舶を差し押さえるのは初めてという。

この問題をめぐって北朝鮮の金星国連大使が5月21日、国連本部で記者会見して「言語道断の行為」と米国を強く非難。「強奪行為が将来に及ぼしうる結果について熟慮すべきだ」と米国を恫喝した。その強い反発ぶりからみて、北朝鮮が、これに関する報復にでてくる可能性もあり、双方の関係が緊張、事態がいっそう混乱するのではないかともみられている。

第3回米朝首脳会談、朝鮮半島非核化への途筋はなお見えてこない。

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