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消費税率上げ延期や消費税廃止は国民生活を救わない

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10月に迫った消費税上げ。米中貿易摩擦による景気動向への懸念もあり,賛否が未だに喧しい。そして,延期にとどまらず廃止まで訴える新勢力もあり,その新勢力の集いに生活苦を訴える国民の声が幾つも寄せられたとのことだ。そこで問いたい。消費税率上げや消費税廃止が本当に生活苦を訴える国民の生活を救うことになるのか。

アベノミクスの成果を強調する政府主張とは異なり,国民の生活実感は良くない,ということには完全に同意する。円安により,生活必需品の価格は徐々に上がっている。一方では賃金上昇は限られており,未だに民間給与所得者の平均所得(男女計)は1997年(平成9年)が467万円でピークのままであり,ここ数年は回復傾向にあるとはいえ,2017年(平成29年)でも432万円にとどまっており,35万円も下落したままだ(国税庁調査)。

一方で,食料品やエネルギーを含めた消費者物価指数(総合)は97年が99.5であるのに対し,2017年は100.4と僅かではあるが上昇している(ただし,生活実感では物価は食品を中心にもっと上昇しているが)。可処分所得が減り,支出は増えている訳で,生活が苦しくなっている,という国民の実感は数字的にも正しい。また,景気動向指数が連続して悪化し,米中貿易摩擦が激化している情勢からも,景気の先行きが混沌としているのも事実だ。

だが,それでもなお,消費税率上げ延期や消費税撤廃は行うべきではない。行えばかえって国民生活が窮乏化するからだ。

今回の税率上げの使途(子育て支援や財政収支改善等など毎年継続してかかるもの)は既に定まっている。したがって,財源として予定されていた消費税率上げを見送れば財源不足が毎年生じ,これを埋めるには毎年それに相当する赤字国債を発行するしかなくなる。日本の財政収支は世界的にみても最悪な状況であるのに,財政収支の赤字幅は拡大し,政府債務残高は増加する。そして,このような財政的なルーズさを示せば通貨の信認は傷つき,中長期的に円安の方向に向かわざるを得ないだろう。

ご存じのとおり,日本は輸入大国でもある。主要食料品やエネルギーがほとんど輸入で賄われているだけでなく,物価安を支えている安価な衣料品や各種日用品は,ほとんどが発展途上国からの輸入品だ。したがって,通貨安,円安が生じれば当然インフレ,コストプッシュ・インフレに結びつく。

簡単な計算をしてみよう。今回の消費税率上げがあっても,国民負担増加はずっと2%のままだ。1個1000円の製品だとして,税込み製品価格は1000×(1.10)=1100円。8%のときと比べて20円負担が増えるだけだ。5年後でも1100円だ。

しかし,通貨安が生じ,毎年2%のコストプッシュ・インフレが生じれば,1.02×1.02×1.02×1.02×1.02=1.1。5年で物価は1.1倍になる。5年後の製品価格は,税込みで1000×1.1×1.1=1210円。5年後には消費税率を上げたときよりも110円も高くなってしまう。これが,食料品,ガソリン,日用品のほとんどすべてで生じてしまうのだ。どちらが国民・庶民にとってダメージになるかはいうまでもないだろう。ちなみに,需要が引っ張るデマンドプル・インフレと違って,通常コストプッシュ・インフレの時は賃金は上昇しない。物価ばかり高くなるので庶民の生活はより苦しくなる。しかも,通貨の信認がいったん失われてしまえば,円安がどこまで進かわからない。インフレがどこまで上昇するか,予想もつかないのだ。

国民,有権者に対し,政治家がおいしい話をするのは楽だ。ましてや負担は軽減し,サービスは向上させる,挙げ句の果てには現金をばらまくと言えば喝采を浴びることもあるだろう。「選挙に勝つために」必要だとしても,果たして,そんな魔法のようなことが出来るのか?答えは「出来る」。赤字国債の発行額を拡大すれば確かに出来る。だが,必ず副作用はある。

そんなおいしいことは出来ないし,やるべきではないから,日本を除く主要先進国では財政収支に関し厳しいルールや法制度が整備されている。

アメリカでは「ペイアズユーゴー」という原則がある。これは,義務的経費の歳出を伴う法案や修正案を提案する場合いは,別の歳出削減や増税での財源確保を義務づけ,収支のバランスが維持されるようにするルールである。簡単に言えば,「使うときにはお金を用意しろ」ということ。当たり前と言えば当たり前の原則だ。

これ以外にも,裁量的経費に上限を定めるキャップ制,そして,国債残高上限制度がある。これは,100年前の1917年に定められた第2自由公債法による規制である。債務,つまり国債残高に数値的上限が予めさだめられているので,債務上限に達した場合,その都度議会の承認(上限適用の凍結や猶予,上限上げ)が必要であり,得られないと支出が出来なくなる。政府機関が一時閉鎖されたり,極端な場合には米国債がデフォルトに陥ることもありうる。オバマ政権時代,一時の日本のように上下両院でねじれが生じており,毎年のように「財政の崖」が問題となったが,その原因がこの制度にある。トランプ政権でも,昨年これで政府機関の閉鎖が話題になり,トランプ大統領が政府職員にハンバーガーを山のように差し入れしていたのが報じられたことをご記憶の方もあるだろう。

これらの制度以外にも,オバマ政権時の2011年には予算制限法(Budget Control Act)が制定され,10年間で2.1兆ドル(231兆円)もの歳出削減が行われることとなった。1年あたり23兆円である。また,同法では,超党派のスーパーコミッティー(共和党,民主党から3名ずつ)が設置され,ここで合意が得られなければトリガー条項(sequestration(シクストレーション))が発動され,連邦予算が一律10%カットされるという大変厳格な規定もあった。これらで,国防費が10年間で8500億ドル削減されることになったのだ。

では,もっと厳しいルールがある。まず,「財政収支を均衡する,または構造的財政収支の赤字のGDP比をマイナス0.5%以下とする」という大原則を,各国憲法など拘束力のある永続的な法で定めることが各国に求められている。この大原則を遵守できるよう,各国は予算案などについてEUからその健全性の評価を受け,そこから逸れていると評価された場合には勧告がなされる。

そして,財政収支財政収支の赤字のGDP比がマイナス3%以上である、または債務残高対GDP比が60%超であるにもかかわらず一定ペースでの財政健全化が見込まれていない場合などには、今度は是正的措置として、勧告がなされ、当該国がその求めや警告に応じない場合は制裁金の支払いが命じられる場合すらあるのだ。

実際にも昨年,債務残高GDP比130%の現状にあり,60%ルールを越えているイタリアが,財政収支を前年のマイナス1.6%からわずか0.1%,つまりマイナス1.7%と悪化させる予算案を組んだことに対し勧告がなされ,結局イタリアは予算を組み替えるまでに至っている。僅か0.1%財政収支を悪化させる予算案というだけで予算の組み替えを事実上強制されたのだ。

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