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仏で大論争、延命治療の是非

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しかし、そのかいもむなしく、2015年6月5日、欧州人権裁判所も、植物状態にあるランベールさんの生命維持中止を認めたフランス裁判所の判決を支持する判断が下された。今後の欧州における指針となりうる判決でもあった。

その後、2016年に、レオネッティ法をさらに厳格化した、クレス・レオネッティ法が制定された。当時の大統領フランソワ・オランド氏の政権公約は「終末期患者の耐え難い苦痛を和らげる手段が無くなった場合に、明確で厳格な条件の下で、尊厳を保って命を終えるための医療手段を要求できるようにすることを提案する」としておりその公約を実現した形だ。

レオネッティ法では、延命医療を打ち切りには、医者の決定に重みがあったところを、クレス・レオネッティ法では、本人の意思が考慮されることとなり、事前指示書で延命医療を拒否することができるようになったのだ。

また事前指示書がなく、本人が意思を伝えられない場合は、家族からの証言を聞くなどの方法がとられ参考にされることになった。そうした場合、ランベールさんの妻の本人が言ったと言う「誰かに依存する生活はいやだ」と言う証言は、判断する上で以前よりさらに考慮されるようになるだろう。

そして、ついに2019年1月、担当医はランベールさんの脳の損傷に回復の見込みはないとして生命維持装置を外すことを決めた。その後、フランスの裁判所がこの決定を認め、最高行政裁判所である国務院も、先月この決定を支持する判断を下したのだ。

両親は、延命治療を続けさせて欲しいと、エマニュエル・マクロン大統領に公開書簡を送ったが、「延命治療中止の決定は、法の下に医師らとランベールさんの法定代理人である妻の間で続けられてきた話し合いによって下されたものだ」と言う主旨を、Facebook上で述べ、介入を拒否する姿勢を示した。

延命治療を停止する前日には、両親が語り掛けると、ランベールさんが瞬きをし泣いているようにも見えるビデオが流された。瞬きをするなどの反応していることに多くの人たちが驚き、広く拡散されていった。

また、国連(UN)の「障害者の権利委員会」は今月、フランス政府に対し、法的問題を調査している間はいかなる決定も行わないよう求めていたが、その要求もむなしく、20日、延命治療を停止が決行されることになったのだ。

▲写真 国連国旗 出典:Pixabay; Edgar Winkler

当日は、母親が涙ながらにインタビューに答え、一日中、ニュースが流れ続け、ものものしい雰囲気に包まれた。パリでは支援者によって、延命医療継続を訴え、マクロン大統領に介入を求めるデモも行われた。

しかし、その夜、驚きのニュースが入り一変に状況が変わった。なんと、最終的にフランス・パリの控訴院が、延命医療再開を決定したのだ。国連の「障害者の権利委員会」が法的問題を調査している間はいかなる決定も行わないよう求めていたことを尊重した形である。

支援者は喜びに沸いた。一方、ランベールさんの妻のラシェルさん、「あの状態でおくことはサディズム行為である」とし、「夫が逝くのを見届けることは、夫が自由の身になるのを見ることでもある。人にはそれぞれ異なった意見や信念を持つことができる。

しかし何よりも、私たちをそっとしておいてほしい」と述べた。そして涙を流したとされるビデオを公表したことを訴えると決めた。甥もまたインタビューに答え、「あの状態を見ているのは辛い。早く楽にしてあげてほしい」と語り続けた。

▲写真 ラシェル・ランベール氏(右)出典:Wikimedia Commons; Claude TRUONG-NGOC

そして、最大の支援者である両親は、ほっと胸をなでおろし安堵し、今後も息子のために戦い続けること再度決意した。今後は、ランベールさんをランス大学病院からストラスブール近くの病院に移し、身体障害者のための専門の病棟に移ることを望んでいる。そこで、食事も口から食べるように切り替えていき、ランベールさんが生きることを後押し、適切なケアを受けてもらいたいと願っていると言う。

国連の判断は、最低6か月かかる。数年かかる可能性もある。それは、法、医学、倫理、哲学、宗教、愛情などが複雑に絡み合い、全ての人が納得する解答を見つけるには非常に困難な状況の中、最終ともいえる判断が下されると言えるかもしれない。

ここで出される結論は今後の議論にも大きな影響を与えることになるだろう。しかしながら、その結果が本当にランベールさん本人が望んでいることであったかどうかは、知る由はない。

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