記事

"会社で予防接種"が普及しない2つの事情

1/2

麻疹・風疹の流行が続いている。その深刻さは、米国から「日本を訪れる旅行者はワクチン接種をすべき」と勧告されるほどだ。医師の濱木珠恵氏は「会社での集団接種を増やすべきだ。集団接種にすれば、安くて、早くて、安全。それなのに可能なことすら知られていない」と訴える――。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/kuppa_rock)

■米国からみれば「麻疹と風疹が蔓延している国」

予防接種は、自分を守るだけでなく社会全体として流行を防ぐのにとても重要な手段だ。しかし頭では分かっていても忙しい日常では予防接種に行く余裕はないという人もいる。分からなくもない。だが、現在の日本はそんな悠長なことを言っていられないのだ。

日本では、昨年の春以来、麻疹と風疹が流行し続けている。子供の病気と思われがちだが大人にも感染し、むしろ大人のほうが重症化しやすい。妊婦が風疹にかかると、生まれてくる赤ちゃんが先天性風疹症候群という障害をもつ可能性もある。米国疾病管理センターは、日本は麻疹と風疹が蔓延している国であり、日本に行く旅行者はワクチン接種をすべきであると勧告しているほどだ。

日本では土着の麻疹ウイルスが根絶したと認定されたが、30代以上を中心に麻疹の予防接種率が低いために、いまだに麻疹が国内で流行している。風疹ウイルスにいたっては、いまだに根絶することができていない。厚生労働省は2020年までに風疹を根絶することを目標に掲げているが、その対策はお粗末だ。

■仕事を休んでまで予防接種に行くか

この春から、昭和37年4月2日から昭和54年4月1日までの間に生まれた男性を対象にした風疹第5期定期接種が開始された。2022年3月31日までの限定で、まずは抗体検査を受けるという条件付ではあるが、接種されるのは麻疹風疹混合(MR)ワクチンだ。半歩くらいは前進と言えるかもしれない。

だが、自治体によって開始が遅い地域や、クーポンを自分で取り寄せしなければならない地域もある。第5期の対象となっている39~56歳男性は会社員でも自営業でも忙しく働いている人が多い世代である。仕事を休んでまで、クリニックを受診して検査や予防接種をするための時間を割いてもらえるだろうか。

私は、会社ぐるみで集団接種を行うことを提案したい。しかし医療機関側としては2つ障壁がある。

■ワクチンが確保できないことがある

ひとつは、ワクチン確保の問題だ。国全体として供給量には限りがある。2018年は、春先に麻疹が流行して成人への接種需要が増えたため、MRワクチンは一時的に供給不足になった。またインフルエンザワクチンも製造工程の事情で例年より供給が遅れた。このため卸業者は注文をうけても無制限には販売できず、前年度の使用実績をみながら配分していたようだ。

国内での生産が間に合わないのであれば輸入ワクチンを使う方法もある。例えば当院では、MRワクチンの代替としてMMR(麻疹風疹おたふくかぜ混合)ワクチンを個人輸入している。国内では過去に髄膜炎の発生が問題となり導入されていないが、現在は問題ないとされている。

しかし個人輸入をしているクリニックは多くはないだろう。MMRワクチンは国内未承認だ。未承認医薬品の輸入は、厚生局が発行する薬監証明の取得など手続きが煩雑だ。これは輸入代行業者を利用すればいいが、まとまった数量で発注するので事前に支払う費用はそれなりに負担となるだろう。小児の定期接種には使えないから成人への接種数が少なければ不良在庫となる。MMRワクチンを出張接種で用いるのが便利ではあるが、後述するようにクリニックとしては手続き上の面倒くささがある。

■出張接種ができることを知られていない

ふたつめは、出張接種をする手続きである。出張して行う予防接種は通常、巡回診療として届出を行う。インフルエンザワクチンは一般的に行われているが、MRワクチンの集団接種をしたことがある医療機関は少ないだろう。まとまった数のワクチンが確保できない以外に、前例がなく「MRワクチンを巡回診療で接種できる」と知らないことが障壁だ。

MRワクチンは予防接種法に掲げられた疾病の予防を目的とした予防接種だ。平成7年の厚生省健康政策局長通知では、定期接種の対象年齢以外の者に接種する場合でも巡回診療として法令が適用されることが示されている。しかし数年前までは保健所の反応は厳しく、必要性と適法性について理解を得られるまで、上記の通知について根気よく繰り返し説明しなければならなかった。

一度実施した後は、前例があるからか比較的話が通りやすくなった。さらに平成27年3月に任意の予防接種でも巡回診療として実施できることが改めて通知された後は、対応が柔軟になったと感じている。

あわせて読みたい

「健康」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    小池知事にアラビア語答弁を要求

    BLOGOS しらべる部

  2. 2

    ウォン売り継続 地獄の韓国経済

    PRESIDENT Online

  3. 3

    自民重鎮 テレ朝・玉川氏に苦言

    深谷隆司

  4. 4

    「モニタリング小泉」議員が皮肉

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  5. 5

    コロナ自粛で見えた隣人の本性

    松崎りえこ

  6. 6

    いきステ コスパ重視で復活可能?

    内藤忍

  7. 7

    AVからスカウト 嬉しい女性心理

    幻冬舎plus

  8. 8

    電通委託 安倍一強が政治を劣化

    早川忠孝

  9. 9

    「民度違う」麻生氏の発言が物議

    SmartFLASH

  10. 10

    給付金事業 経産省が定款準備か

    木走正水(きばしりまさみず)

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。