- 2019年05月22日 19:00
老いて変わっていく祖父を見た経験が、僕を「NO TOMORROW」の精神に駆り立てた - 「賢人論。」第89回箭内道彦氏(後編)
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年をとった人には、年をとったなりのスキルがある
みんなの介護 箭内さん自身、老いを避けることはできません。そのことについて、どう考えていますか?
箭内 僕は、ACC(全日本シーエム放送連盟)が発行している「ACCtion!」という会報誌に「広告ロックンローラーズ」という連載をしています。60代から80代になっても広告業界の一線で仕事をしている方々との対談記事なんですけど、毎回、教えられることが多いんですよ。
みんなの介護 記事の一部は、ACCのホームページから読むこともできますが、ユニークな方々が登場していますね。
箭内 50歳を過ぎて今だに金髪で派手な格好をしている僕が浮いちゃうくらい、みんな落ち着いた風格のある方々ですけど、だからといって枯れているわけじゃなくて、それぞれがそれぞれの「楽しいこと」にますます没頭してイキイキとしているんですよ。
そんな人たちの生き方に触れると、年をとることが怖くなくなりますよね。よく、年をとると、「時」の経つのが早く感じるといいますけど、ここに登場する人たちは良い意味で加速しているんです。そんな風に「年をとることは楽しい」と思わせられる大人って、カッコいいですよね。
みんなの介護 老いても第一線で活躍しているということが、良い加速をうながしているのでしょうか?
箭内 役割を失ったと感じたときに人は老けていくのかもしれません。自分は社会に参加しているんだ、誰かから必要とされているんだという実感も人間には大切なんでしょうね。
僕はかつて、博報堂から独立して「風とロック」という会社を作ったとき、もうひとつ、別会社を作ろうと計画を立てたことがあるんです。 会社名も決まっていて、「CREATE OR DIE(クリエイト オア ダイ)」と言います。
どんな会社かというと、高齢になったクリエイターを集めて介護用のおむつとか、入れ歯クリーナーといった高齢者が使う商品の広告を専門に作る会社です。いわば、広告業界のシルバー人材センターのようなものです。
こういう商品の広告って、若い人間が作るより、年をとっているんだけどまだバリバリ現役で働いている高齢のクリエイターのほうが当事者目線で作れるじゃないですか。
みんなの介護 それは、素晴らしいアイデアだと思います!
箭内 ところが、「面白いね」と賛同してくれた人たちを集めて話し合ったところ、「年寄りが使う商品の広告なんてつくりたくない。若者向けの仕事をさせろ」という意見が多勢を占めて、とうとう会社設立の話は流れてしまったんです(笑)。
年をとった人には、年をとったなりの重要なスキルがある。そんな僕の目論見がはずれてしまったわけですけど、もしかすると当時よりも高齢者が増えた今なら、実現できることなのかもしれないですね。
みんながちょっとずつ違う、社会の多様性に目を向けたほうがいい
みんなの介護 日本は今、すごい勢いで高齢化が進んでいて、2036年には国民の3人に1人が65歳以上の高齢者になるという推計もあります。どんな社会になると思いますか?
箭内 広告業界では顧客となるターゲットを年齢で把握する習慣があります。僕はあまり好きじゃないですけど。
例えば、20歳~34歳の女性なら「F1(エフワン)」、35歳~49歳の女性なら「F2(エフツー)」、そして50歳以上の女性を「F3(エフスリー)」と呼んで、広告のターゲットを設定するんです。
今よりもさらに高齢化が進んだ社会になれば、こうした枠組みは変わらざるを得ないでしょうね。
みんなの介護 現在の広告業界では、トレンドに敏感で購買意欲の高いF1層に訴えることが重要視されていますが、それよりもF3層に注目が集まるということですか?
箭内 いや、そうではなくて、「老人」というのは「60歳になったら定年」みたいに、ある年齢に達したらデビューするというものではないということです。
「老人」というと、僕らは昔のイメージに引っ張られて「盆栽でも始めてみれば?」とか、「赤いチャンチャンコを着ましょう」なんてなりがちだけど、今の老人はパソコンもスマホも使える、現代に生きている人たちなんです。
要するに、ステレオタイプにものを見るのではなくて、高齢化してもみんながちょっとずつ違う社会の多様性に目を向けたほうが良いということ。社会が高齢化すれば、高齢化したなりの幸せって、僕はきっとあると思うんです。



