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【マーベル・コミックス編集長インタビュー】男性社会から女性ヒーローが輝く時代へ<前編>


マーベルの快進撃が止まらない。現在公開されている映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』は、世界中で大ヒット。興行収入の記録を塗り替えようとしている。そんなマーベルの世界で、近年、注目度を高めているのが女性ヒーローたち。1939年にマーベル・コミックスが誕生して以来、キャプテン・アメリカやアイアンマンら男性ヒーローが主役の時代が続いたが、最近はキャプテン・マーベルを筆頭に女性ヒーローが台頭している。なぜ時代は女性ヒーローを求めているのか? マーベル・コミックス編集長、C.B.セブルスキー氏に話を聞いた。

80年代、マーベルの歴史が動いた

1939年のマーベル・コミックス創刊当初から、多くの女性キャラクターが物語に登場しています。ただし、それは優れた能力を持ったヒーローとしてではなく、窮地に陥り、男性ヒーローに助けてもらう弱者としての描写が多かったですね。たとえヒーローであっても、あくまで紅一点的な脇役としての扱い。そうした"男性社会"といえる状況が長く続きましたが、時代とともに力強い女性ヒーローが姿を見せ始めます。

ターニングポイントは大きく2つありました。1つめは1980年代。女性の編集者や作家たちが、「コミックのストーリーの中に自分たちの思いを反映させたい」「女性は男性と同じくらい強い存在であるということを示したい」といった意見を出すようになりました。これは社内的な変化といえます。

2つめのターニングポイントは、いまから約15年前の2000年代初め。もともと男性ファンが中心だったマーベル・コミックスに女性ファンが増え始めます。以前の女性読者は、兄弟が持っていたコミックを見せてもらうという流れでマーベルに興味を持ちましたが、2000年代の女性たちは自分のほうから能動的にお気に入りのキャラクターを探しました。これは社外的な変化です。80年代の社内的な変化と2000年代初めの社外的な変化が結びつき、現在の女性ヒーローが活躍する時代に至ったのだと思います。

AKIRA、エヴァ……日本からの影響

こうした変化には、日本の漫画からの影響も大きいと感じます。20年前、アメリカで漫画ブームが起こりました。男性はもちろん、日本の漫画には多くの女性が夢中になったのです。漫画を読んだティーンエイジャーの中には、コミック業界を志した人も多い。ストーリーを作るライターを目指したり、美大へ行って漫画を描くクリエーターになろうと考えたり。マーベル・コミックスの編集者は、いまでは3分の1以上が女性です。


女性が作るストーリーは、もともとマーベルが持っていた世界観とうまく融合しました。というのも、マーベルは常に人間らしさというものを重視しています。女性たちが作る感情重視のストーリーはマーベルにナチュラルにフィットするとともに、より強いリアリズムを生み出しました。

影響を受けた日本の漫画作品はたくさんあります。個人的に愛着を持っているのは『AKIRA』と『新世紀エヴァンゲリオン』。『AKIRA』は細部にわたるアートワークが素晴らしい。『新世紀エヴァンゲリオン』は、キャラクターの感情表現に夢中になりました、シンジ、アスカ、レイといった登場人物がとても人間臭く描かれています。私はもともとロボットものがそこまで好きなわけではありませんでしたが、エヴァンゲリオンのように人間性重視で描かれていると、とても惹きつけられてしまいます。

この2作品は私の個人的な趣味で、マーベルには『花より男子』が好きというクリエイターもいるし、『ワンピース』や『ドラゴンボール』のファンもいます。そう、X-MENのシニアエディターの一人は『美少女戦士セーラームーン』の大ファンです。おそらく世界でもトップレベルのファン。毎朝、出社前にセーラームーンを1話見て、インスピレーションを高めた状態で会社にやってきます。さらに、週に1回のペースで、セーラームーンに関してのポッドキャストを公開しているんですよ。

新時代の象徴「ミズ・マーベル」

こうした影響や変化を受けて、マーベルにはたくさんの女性ヒーローが誕生しました。その一つの象徴といえるのが「ミズ・マーベル」です。彼女の本名はカマラ・カーンといって、マーベル史上初となるイスラム教徒のキャラクター。彼女はアメリカに暮らすパキスタン系アメリカ人で、地元の女子高に通っています。イスラム教徒ですが、彼女はヒジャブを身につけていません。実は現実世界のムスリムでもヒジャブをつけない人は多く、そうした現状をありのままに描いているのがミズ・マーベルの特色といえます。

現実世界を反映したヒーローであるミズ・マーベルを生み出したのは、マーベルの女性編集者サナ・アマナット。彼女もイスラム教徒です。サナだからこそ、多くの人がイスラム教徒と聞いて思い浮かべるヒジャブ姿ではなく、現実にいる等身大のヒーローとしてミズ・マーベルを描くことができたのです。

ミズ・マーベルの素晴らしさは、持っている特別なパワーやコスチュームではありません。カマラ・カーンという素の人間です。家族や友人、恋愛など、実際の生活で思い悩み、ティーンエイジャーなら誰もが抱える苦難を乗り越えていきます。そうした真の人間味の部分に読者は惹かれているのです。

現実世界とリンクした等身大のヒーローは、いつの時代も人々に愛されます。マーベルを代表する人気キャラクター「スパイダーマン」は、その代表例といえます。コスチュームをつけたスパイダーマンは最高にクールですが、読者である少年たちはマスクを外したスパイダーマン――つまり、素の人間であるピーター・パーカーに共感したのです。ピーターが人間関係や友情、恋愛など身近な問題に思い悩む姿に、読者は肩入れしました。同じことがミズ・マーベルのカマラ・カーンにも起きています。ミズ・マーベルはスパイダーマンの女性版と位置付けられると思います。


私が考えるマーベルの最大の素晴らしさは、雇用の機会が均等に与えられること。雇用に出身地や人種、年齢、性別、宗教などは一切関係ありません。求められるのは、仕事のクオリティのみです。だからこそ、マーベルではクリエイティブな作品が次々に生まれ、魅力的なヒーローが続々と誕生しているのでしょうね。

後編に続く

C.B.Cebulski
アメリカ、ヨーロッパ、日本などで編集の仕事に携わった後、2002年にマーベル・コミックスに入社。編集者兼タレント・コーディネーターとして、世界中から才能ある人材を発掘。アベンジャーズ、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー、スパイダーマン、アイアンマンなど、マーベルのキャラクターをベースにしたオリジナル・コミックスの制作にあたる。2011年には、国際開発とブランド管理担当バイスプレジデントに昇進。毎月のように世界各国を訪ね、新興市場と既存市場の両方でマーベルのクリエイティブ事業を拡大した。2017年にはマーベル・コミックス編集長に就任し、マーベル出版部門における編集およびクリエイティブを統括している。「食」への関心も強く、世界各国で堪能した食の体験を自身のウェブサイトEatakuで公開。


マーベル公式サイト
https://www.marvel.com/

映画『アベンジャーズ』公式サイト 
https://marvel.disney.co.jp/movie/avengers-endgame

Text=川岸 徹 Photograph=太田隆生

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