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特集
十人十色のはたらく論
私たちは、人生の少なくない時間を仕事に費やしています。昔から、おそらくはこれからも。ただ、昔と比べると「仕事」の持つ意味が広がり、人の数だけ「はたらき方」があるのが今の時代ではないでしょうか。私たちは今後どうはたらくか=どう生きるか、今月のBLOGOSでは、そんなことを考える特集をお届けします。

「独立=自由で楽しい」は大間違い? 報酬、労働時間、社会保障…フリーランスを待ち受ける理想と現実

  • 2019年05月23日 07:05
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社会のIT化や価値観の変化により働き方が多様化している。クリエイターや個人事業主など会社に雇われない「フリーランス」の人口は2019年2月現在で約390万人だという(※)。

スマートフォンひとつでどこでも、いつでも、誰とでも仕事ができる時代だが、フリーランスとして働く人たちに話を聞くと「睡眠時間が取れない」「会社の看板を失い苦労した」「将来、育児と両立できるか不安」などさまざまな悩みを抱えながら働いていることがわかった。

自由で楽しいだけではない、フリーランスの理想と現実を取材した。【清水駿貴】

※独立行政法人労働政策研究・研修機構「雇用類似の働き方の者に関する調査・試算結果等(速報)」による

会社員時代の「当たり前」はフリーランスの「当たり前」じゃない

「ろくに眠れないし、クライアントを見つけるためにも飲み会は欠席できない。予想以上に体力がいるし、しんどいですね」

そう話すのは昨年冬に約4年間働いた美容系の通信販売会社を辞め、デザイナーとして独立した山﨑瑠依さん(24)だ。現在、東京都と福岡県内のシェアハウスに所属し、2拠点で生活している。

山﨑さんは同県内では名の知れた通販会社に新卒でデザイナーとして入社。Webサイトなどのデザインを担当した。会社員生活は充実していたものの、自分は大きな実績もあげていないのに会社の名前で周囲から賞賛を受けることに違和感を抱いていた。

「自分一人の力でどこまでやれるのだろうか」。海外移住という夢もあり、周囲から「個人として仕事を頼めないか」と依頼がきたことをきっかけにフリーランスの道を歩むことを決めた。

一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会「フリーランス白書2019」をもとに作成

独立後、実感したのは「私の当たり前とクライアントの当たり前が違うということ」。会社員時代は取引先がデザイン業界のことを理解してくれていたが、フリーランスになってからは、顧客との「すれ違い」も増えた。「『とりあえず作って』と言われてデザインしても『なんか違う』と返される。一緒に良いものを作りたいと思っていることや、デザインをすることとは別に、素材や文章ひとつにもお金と時間がかかることを伝えるのが大変です」と山﨑さんは話す。

緊張で仮眠も取れず 新規顧客を取り続ける自転車操業の日々

今年5月でフリーランスになって約半年。試行錯誤の日々が続いている。働き方についてアドバイスをくれる先輩たちはいるが「わからないことがわからない状態」だ。

例えば契約書。取材中、山﨑さんは「クライアントが知人だとなんとなく申し訳なくなって契約書を作っていない。手間がかかる上に相手を疑っているようで罪悪感がある」と話し、「個人のお客さんでも毎回、作るべきですかね」と疑問を口にした。

山﨑さんは今、Webサイトのデザインなどを月に4~5件受けている。収入は会社員の時よりも上がったが、「余裕がないので仕事が単純作業になった」とため息をつく。「もしかしたら私はデザインがそんなに好きじゃないのかもしれない」と悩むようにもなった。

有給休暇や休職手当などの福利厚生がないフリーランスにとって自分の身体は大切な資本だ。山﨑さんは「身体を壊さないよう常に気を配っている」という。しかし、うまく眠れないことも。仕事が忙しくなると、4時間の仮眠を取ろうとしても2時間程度で起きてしまう。「常に気が張っているんだと思います」。

次の仕事につながる可能性のある飲み会での営業も欠かせない。「いつ仕事がなくなるかわからないから新規の案件を取り続けないといけない」という不安がある。新しいクライアントに出会える飲み会は「楽しいですけど、続くと体力的にしんどい。自転車操業ですね」。旅行に行っても仕事のことをつい考えてしまう。独立すればできると思っていた海外移住も今は考えられない。

「フリーランスには育休・産休がない」が最大の悩み

一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会「フリーランス白書2019」をもとに作成

友人の子育てを手伝ったことをきっかけに「最近は家庭を持つことをよく考えるようになった」と話す山﨑さん。だが、フリーランスには育休や産休などの制度がないという現実が頭を悩ませる。

「友人を見ると、子育てが仕事よりも大変だということがよくわかる。赤ちゃんがいると眠れないし、仕事も一切できない。フリーランスになって福利厚生がしっかりした組織で働くことのメリットを痛感しました」

それでも会社員に戻るつもりはないという山﨑さんはフリーランスの良さを「環境が急に変わる可能性」にあるという。「出会いが事業につながるとちょっと前に進めた感があって、次もめちゃくちゃ頑張れる。フリーランスになってからのほうが『生きてる』って感じがしますね」

ネットを使ったビジネスで介護と仕事を両立

写真AC

フリーランスになって時間をうまく使えたケースもある。現在、東京都内で会社員として働く男性(30)は2015年の冬、約3年間務めた国内大手保険会社を辞め独立した経験を持つ。

きっかけは同年の春、福岡県に住む父親が脳卒中で半身麻痺になったことだった。男性は介護を理由に転勤を申し出たが、会社からは「前例がない」と認められなかった。それでも男性は「大手の肩書きもあるし、年収も高い。この待遇を捨てることは怖い」と退職を躊躇。4ヶ月後、母親が介護疲れで倒れた。男性は父親が泣く姿を目の当たりにして「自分は給料欲しさに家族をないがしろにしていた」と後悔の念に襲われ、辞職した。

退職時の貯金は100万円前後。両親には心配をかけないように「貯金には余裕がある」などと嘘をついた。男性は「とにかく働かないといけなかったけれど、クリエイターと違って手に職のない裸の状態だった」と振り返る。

知人の経営者に相談したところ、アメリカなどで盛んな「コーチング」の存在を教わった。コーチングとは仕事や私生活での目標達成のためにパートナーシップを結び、質問や対話を通してクライアントの成功を支援する手法や仕事のことだ。男性は独学でコーチングの技法を学び、個人事業主として活動を始めた。

最初の2ヶ月間は1件も契約がなかった。3ヶ月目に初めてクライアントができ、SNSを使った宣伝やセミナーを始めてから収入は安定した。クライアントとの対話は主に通信アプリ「Skype」を使用。外出する必要がある時には隣人に「少しだけ両親の様子をみていてください」と頼むことで仕事と介護を両立させたという。

一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会「フリーランス白書2019」をもとに作成

収入は「会社員時代とトントン」だったという男性だが、会社の肩書きがなく、コーチングという日本ではまだ知名度の低い仕事をしていたため「うさんくさいと思われるのがつらかった」と話す。約2年間、フリーランスとして働いた。両親の病状が回復したのを機に、再び会社員として働くことを決意。男性は現在、外資系企業の営業職として働いている。

フリーランスと会社員の両方を経験し、男性は「会社員もフリーランスもどちらもメリット・デメリットがある。大事なのは自分の価値観にあった働き方ができるかどうか」と話す。

フリーランスを選ぶ前に必要なこと

では、フリーランスの道を選ぶ時に必要な準備や知識はなにか。フリーランスの支援などを行う一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会代表の平田麻莉さんに話を伺った。

同協会が定義する「フリーランス」とは「特定の企業や団体、組織に専従しない独立した形態で、自身の専門知識やスキルを提供して対価を得る人」。つまり、山﨑さんらのように個人の能力だけで報酬を得る人たちのほか、組織に所属しながら副業で収入を得ている労働者も広義のフリーランスに含まれる。

一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会「フリーランス白書2019」をもとに作成

フリーランスとして働く人が増える一方、平田さんは「副業、独立ブームに乗っかって『簡単に儲かる』と煽るセミナーなどがあるのも事実。安易に受け取るとすごく危険です」と警鐘を鳴らす。「独立する前に『何に対して自分が報酬をもらうのか』をはっきりと自覚することが大切です」

また適用される法律や、社会保険の種類も会社員の時とは異なってくる。「会社員の時に当たり前にあった制度や福利厚生がなくなるので、その差はきちんと理解した上で踏み出すことが大事」と話す平田さん。同協会では独立の際に知っておくべき法制度や社会保険制度などをまとめた「独立・副業の手引き」(https://www.freelance-jp.org/start_freelance)を作成、ホームページ上で無料公開している。

報酬交渉、労働時間の管理…フリーランス初心者が経験する壁

一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会「フリーランス白書2019」をもとに作成

山﨑さんが疑問に感じていた「契約書」の作成も独立の際の準備として必須だ。平田さんは「フリーランスは立場が弱いので、口約束を反故にされるケースも多々あります。色々と理由をつけて巧妙に契約書を結ばなかったり、自社に都合の良い雛形で一方的に押印させたりするあくどい企業もあります。かくいう私も苦い経験が。対策として、弁護士などに監修してもらって自分用の契約書を作成しておくといいでしょう。どうしても急いで案件を進めなければならない時などは、必ずメールなどの文章で条件を確認することが大切です」と指摘する。

準備を整えて独立した後に経験する「壁」もある。

「最初に全員が悩むことは報酬額の決め方です。答えがないのでみんな多かれ少なかれ失敗を経験するなかで調整していきます。マッチングサービスに登録して、同じ分野の仕事がいくらで取引されているか相場を調べたり、同業者と情報交換をしたりして適正価格を把握するのも手です」

働く時間をどう調整するかも課題のひとつだ。同協会が行ったアンケートによると、会社員時代に比べて働く時間が減ったと回答したフリーランスの割合は59.9%と半数を超える。しかし、山﨑さんのように「会社員の時よりも休みが取れない」という声も。

平田さんは「どれだけ優秀な人でも労働時間の平均化は難しい」と指摘する。クライアントの都合で急にスケジュールが前倒しになるなど時間のコントロールができない部分があるのもフリーランスの特徴だ。トラブルをできるだけ抑えるためにも「事前に条件をしっかりと確認すること」や「顧客が常に複数いてポートフォリオ分散した状態を維持すること」が必要という。また、無理をすると体調を崩したり納期に遅れてしまったりといったリスクにつながりやすい。自分の限界を知り、仕事の量や時間をコントロールする力が求められる。

自由だけではなく責任が伴う

フリーランスは会社員と違い「いつ、どこで、誰とどんな内容の案件を受けたいか」という基準で仕事を選ぶことができる。自分の信念に沿って仕事ができることを平田さんは「魂の自由」と表現。フリーランスの最大のメリットだと話す。

一方、「自由だからとなんでもやっていいわけではなく、常に人間関係があり、責任が伴う」ことも忘れてはならない。「個の時代というけれども、誰かと一緒に仕事していることには変わりない。だから、フリーランスは『好きなことを仕事に』よりも『自分の仕事で相手に喜んでもらいたい』を原動力にしたほうがいいと思います」

自由ややりがいとともにさまざまな課題や苦労もあるフリーランス。平田さんは「人それぞれに合った柔軟で多様な働き方ができる社会が実現してほしい」と願う。

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