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「超多忙で今どこにいるか分からなくなった」茂森あゆみが振り返る「おかあさんといっしょ」 - 岸川 真

 今年60周年を迎えた「Eテレ」。誰もが知る名番組といえば、子育ての大きな味方「おかあさんといっしょ」だろう。うたのおねえさんを6年つとめ、大ヒット曲「だんご3兄弟」で国民的な人気も博した茂森あゆみさんが振り返る、あの番組の秘話。

◆◆◆

面接で「子供は好き?」と質問されて……

 1993年、うたのおねえさんになる前の私は武蔵野音楽大学の3年生でした。2学期が始まった頃に歌の先生から試しにオーディションを受けたらって勧められたんです。オペラ歌手を目指してクラシックを学び、大学院へ進もうと決めてましたから最初は抵抗がありましたね。が、先生の勧めということもあり、自分の力を試すという気持ちで受けに行くことにしたんです。

 1次面接でディレクターさんから「子供は好き?」と質問された時は困っちゃいましたね。私は末っ子で周囲に小さい子はいない。好きか嫌いかと言われたら好きな方としか。

好きなジャンルは迷わず「クラシック」と言えたんですが、その時はうたのおねえさんを務める自信がなく、正直に「分かりません」としか答えられませんでした(笑)。オーディションを機に番組を見るようになると、受かりたいと思うようになり、学業とオーディションの間で気持ちが揺れながらも最終審査を通過出来ました。

おにいさんたちに甘えていました

 うたのおにいさんの速水けんたろうさんとたいそうのおにいさんの佐藤弘道さんとは、同期なんです。弘道おにいさんは3歳上、けんたろうおにいさんは10歳上だったんで完全に甘えてたと思います。

私だけ学生で社会人経験がなかったので、体育会系の弘道おにいさん・けんたろうおにいさんからは、いろいろ教えていただき、相談にものってもらいましたし、本当にたすけていただきました。ほんと、一生足を向けて寝られません。


茂森あゆみさん

 初仕事に行くと、いきなり「子供の歌集」を20冊以上渡されました。音源を聴く時間もないので、どんどん自分で譜読みしていきました。その時に注意されたのが正確に歌うこと。歌詞も正しく覚えて、イントネーションも気をつける。

私は熊本県生まれなので、イントネーションの違いに苦労しました。だから、よく間違える言葉を、五線譜上の音符で記して、それを単語帳に書いて覚えていきました。台詞の練習は「にこにこぷん」でぽろり役の中尾隆聖さんが「分からない時は平坦に言えばいい」って教えてくださって。番組開始まで、一緒にずっとお稽古してくださいました。

移動中はずっと寝てました

 放送が始まると日曜月曜が1週間分の収録。火曜は大学に行ってからレコーディング、水曜が次週のリハーサルと大学。地方へ行く場合は木金土で出かけるので無休なんです。地方ロケで初めての土地へ行けるのに空港・NHK・宿にしかいませんから、自分が今どこにいるか分からなくなることもしばしば。移動中はずっと寝てて、写真は寝顔ばっかり(笑)。

 子供たちと接するのは楽しかったですよ! 飛びついてくる子を4、5人抱っこしたり、泣いてる子を風船であやしたり。騒いでいても「お・は・な・シーッ!」とか言うと、すぐに静かにしてくれました。辛いと思ったことはありませんでしたね。

うたのおねえさんには代役がいない

 収録は生放送同様で途切れません。玄関へ子供を迎えに行って、歌いながらスタジオへ入る。そこで歌って遊ぶ間にたいそうのおねえさんが子供を一人選んで体操をやる。その後に「みんな、好きなところに座りましょう」と声をかけ、その流れで番組が始まるので子供たちを迎えに行くときからノンストップでしたね。

 収録中ずっと「キリンさんやクマとパンダがねえ」なんて話しかけられた直後に、動物の名前がいっぱい出る歌があって、うっかり歌詞が飛んじゃっておにいさんと「◎▲※×!」と歌うのも流されました(笑)。収録から雑誌の撮影と続くこともあり、その時はずっと口角を上げていたので、頬がグッと突っ張ったままのことも。家に帰って顔のマッサージをして、次の日に備えていましたね。

 でもさすがに忙しかったからか大学4年の9月に帯状疱疹になっちゃったんです。名古屋に収録に行った時、左腕に虫刺されみたいなのがあったんです。すると翌朝には発疹の首飾り。でも病院へ行った次の日にはコンサートをやって帰りましたよ(笑)。

その時に痛感したのがうたのおねえさんには代役がいないこと。これは責任重大だと今更ながら気付きました。それからは風邪をひかないように髪はちゃんと乾かして、なるべく温かいものだけを飲む。毎朝目覚めたら「アー」と発声チェックして、少しでもかすれてたら十分注意するようになりました。

今からうたのおねえさんをやり直したい

 あと、私はそれまでクラシックの歌い方で、良い声を出すことばかり意識して歌っていましたが、お互いの声を聴きながら、意思疎通していかないと子供たちに届く歌にならないんです。歌はコミュニケーションだという大事なことも学びました。

 番組卒業の年の1月に初めて「だんご3兄弟」を歌いました。それまでキーの高い歌が多かったのに対し、「3兄弟」は低めで抑揚も少ない。プロデューサーの佐藤雅彦さんから「音域そのまま」の指示があったので、ちゃんと歌えるか心配でしたけど、レコーディング当日に偶然風邪をひいて、2度と出せない声で歌うことが出来ました(笑)。

歌はヒットして紅白歌合戦に出場しましたが、「アイアイ」のような童謡の新しいスタンダードをたまたま私たちが歌ったんだという意識です。私自身はけんたろうさんが作った「あつまれ!笑顔」や最後の歌になった「あしたははれる」が思い出深いんです。

 番組に関われたのは自分の財産、誇りです。私も母になって育児の間、息子に見せながら安心して家事が出来る番組なんだと気付きました。その頃、子供は早起きだから放送時間を早めて欲しいと視聴者としてリクエストし続けたんです。そうしたら前より放送時間が早くなったんですよ!

 もし可能なら今からうたのおねえさんをやり直したいって思いますね。若い頃と違う表現が出来る気がするんです。ただ、あの動きだけは息切れしちゃうので絶対に無理ですけど(笑)。

しげもりあゆみ
1971年、熊本県生まれ。武蔵野音楽大学卒業。93年、「おかあさんといっしょ」のうたのおねえさんに就任。99年、「だんご3兄弟」が大ヒットし、紅白歌合戦にも出場。教育テレビ「クインテット」にも出演した。

(岸川 真/週刊文春 2019年4月18日号)

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