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乙武洋匡の"我の強さ"が説得力をもつ理由

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1998年に出版され、約580万部のベストセラーになった『五体不満足』(講談社)。歌舞伎町のホストで、乙武洋匡氏とも親友の手塚マキ氏は「乙武さんには、周りの人にルールを変えさせる『我の強さ』がある。そう考えると、この本の主役は乙武さんではなく、『彼の周りの人たち』だったと気づく」と指摘する。どういう意味なのか――。

※本稿は、手塚マキ『裏・読書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

2019年4月28日、LGBTなどの性的少数者とその支援者が参加し、「生と性の多様性」を訴える「東京レインボープライド」に参加した乙武洋匡さん=東京都渋谷区。(写真=時事通信フォト)『五体不満足』(著者 乙武洋匡)

先天性四肢切断により「手足がない」状態で生まれた著者の乙武洋匡。障がいがあっても「諦めない」。クラスメイトと共に運動をし、学校行事にも積極的に参加した小学生時代。バスケットボール部で選手として奮闘した中学時代。アメリカンフットボール部でデータ分析を行った高校時代。予備校で一浪し、早稲田大学に入学した受験生時代。そして、大学生になり、街づくりのイベントなどに携わりながら、講演を依頼されるようになるまでの様子が描かれている。

■“国民的障がい者”の親友との出会い

乙武 洋匡『五体不満足』(講談社)

『五体不満足』という言葉を発明し、“国民的障がい者”になった乙武洋匡(ひろただ)という男を知っていますか?

実は、僕と乙武洋匡さんは10年来の親友です。僕が乙さん〔いつも「乙さん(おとさん)」と呼んでいるのでこのように表記します〕と初めて出会ったのは20代の終わりの頃。彼が『五体不満足』の出版後、キャスターやスポーツライターを経験したのち、教育の道に興味をもちはじめて、さあこれからどうして生きていこうかと考えている頃でした。

僕の方はといえば、ホストクラブの経営をはじめて暫く時間が経って、これから自分の会社や従業員をどういう方向に持っていくべきかと考えている頃。お互い30歳手前で、共に興味がある教育について語り合ううちに、すぐに仲良くなりました。

そして、これからどんな大人になろうか、将来何をしようかという話を夜な夜な語りあっていました。彼は僕がどうやって従業員を教育しているのかに興味を持っていて、よく相談もしました。

乙さんとはそれ以来、2人で海外旅行に行ったり、読書会を開いたり、大人数で飲み会をしたりと、よくつるんでいました。でも、彼が障がい者だからといって、連れの僕が困ってしまったことはほとんどありません。

■手も足もないのにこちらが苦労した記憶はない

もちろん、仲良くなったのが大人になってからというのもあるのでしょう。大人って体育の授業をするわけでもないし、全員で整列する場面もない。むしろ、口で何かを説明するなら僕より乙さんの方がうまいので、こちらが気を遣った記憶はほぼありません。

自分が助けようとする前に、「ちょっと醤油を使いたいから30センチくらい前にやって」みたいに、的確に指示されちゃいますから。

ましてや、障がい者であるからといって、同情したり心配したりなんて、ゼロに等しいですね。あるといえば、昔、僕の部屋に2人で寝ていたら大量の蚊が入ってきて、2人とも身体中を刺されて「痒いな~」って言い合っていた時に、「あ、乙さん、身体かけないのか、不便だな」って思ったぐらい。その時も僕がそう口にして、二人で大笑いしました。

それにしても、手も足もない人と行動するって結構大変だと思うんですが、苦労した記憶がないのはなぜだろう?

改めて思い返すと、彼は常に先回りして、周りも本人もスムーズに行動ができるようにお膳立てしてくれていた気がします。彼は、みんなでどこかに遊びにいこうというときも、誰よりも綿密な計画を立てて、僕たちも乙さんも楽しめるプランを提案してくれます。

例えば、海外旅行に行くときなどは、旅行代理店のように下調べをして、色んなところに連れて行ってくれます。僕らはホテルの予約など面倒なことは何も考えず、旅行を楽しめるわけです。

■すごいのは「手足がない」からなのか

いつも先手先手で行動する乙さん。きっと幼い頃からの積み重ねなのでしょう。『五体不満足』を読むと、彼が幼少期から、障がい者でありながら健常者の過ごしている”普通の”社会に溶け込んでいくために努力してきたことがわかります。

「オトちゃんルール」と呼ばれる特別ルールで、あらゆるスポーツにも参加しました。水泳では「スーパービート板」の持ち込みを許されました。前例がなくても、予備校にも通いました。障がい者への偏見や差別が少なくはない時代で、まわりの人を巻き込んで一緒に生きていける環境をつくっていきました。

パワフルな乙さんの半生をつづった『五体不満足』。衝撃的な表紙とタイトルとは打って変わって、後ろ向きなエピソードが一切ない明るい半生記は、多くの人に、「手や足がなくても乙武さんはこんなに頑張ってるんだから自分も頑張ろう」と感じさせたのではないでしょうか。

僕自身もかつては部下に、「手や足がなくても乙さんは乗り越えてきたんだからお前らも頑張れ」と伝えてきました。でも、ある時ふと気づいたんです。乙さんから見習えることって、手足があろうがなかろうが関係ないのではないかと。

■障がい者かどうかを決めるのは「環境」

乙さんは『五体不満足』のあとがきで、こんな言葉をつづっています。

五体が満足だろうと不満足だろうと、幸せな人生を送るには関係ない。

障がい者だからって、不当に隅っこに追いやられる必要はない。彼は決して悲嘆に暮れて立ち止まることなく、目の前に広がる社会の中で楽しく生きていく方法をたぐり寄せようとしてきました。その逞(たくま)しさに、健常者であれ、障がい者であれ、真似できる部分がある気がします。

乙さんは、ある人が障がい者かどうかを決めるのは、「環境」なのだと言っています。つまり、いま置かれている環境において、生活に困難が生じるから「障がい者」と呼ばれるのであって、全く別の世界では障がい者でも何でもないかもしれない。

この世界に絶対的な「障がい」なんてない。所詮すべての「障がい」と呼ばれている状態は、相対的なものでしかないんだなと気づきます。もちろん、ひとことに「障がい者」といっても、その種類や程度は人によってまちまちなので、すべてをいっしょくたに語ることはできませんが……。

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