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裁判員制度が10年 出頭率の低下で制度の根幹が崩壊している

 裁判員制度が実施されてから10年を迎えます。
 制度の根幹は何と言っても国民を義務的に刑事裁判に関与させることです。ところが現実は出頭率は低下の一途です。今では2割強です。


 ところで、裁判所もマスコミも出頭率という言葉を使わずに「出席率」など言葉の言い換えをしています。

 裁判員法にははっきりと「出頭」という言葉が使われており、法に違反する表現です。国が義務として命じているわけですから「出頭」が正しい用語であり、「出席」はあたかも自発的意思で来ているかのような印象を与えるもので、明らかな印象操作です。

 辞退を100%認めるという運用を正面から認めるのであれば「出席」でもいいのかなとは思いますが、これでは裁判員制度の崩壊です。

 最高裁もそうですが、マスコミが出頭率を上げることに躍起になっています。
裁判員制度10年 辞退率の増加が気がかりだ」(読売新聞2019年5月19日)
裁判員制度10年/負担軽減にさらなる工夫を」(河北新報2019年5月17日)
裁判員制度 21日で10年 関心や参加意欲が低下 意義どう伝える」(上毛新聞2019年5月15日)
裁判員の出席率 県内低下傾向 制度開始10年」(信濃毎日2019年5月15日)
200日の審理耐えられますか 裁判員裁判長期化の一途」(朝日新聞2019年5月13日)
 マスコミの中で裁判員制度に疑問を呈するものは皆無です。すべて素晴らしい制度というところから出発しています。

 いかに国民の理解を得るのか、長期の裁判はダメだ、法曹関係者は工夫せよと刑事裁判ではあり得ないような裁判員中心主義の主張が蔓延しています。

 このような制度では、「やりたい」という人たちばかりが集まってくるいびつな構成にならざるを得ません。これは長期裁判になればなるほどそうなります。これでは公正な裁判所と言えようはずもありません。

 このほど最高裁がまとめたものがあります。
裁判員制度の施行状況等に関する検討会 第3回会合(平成31年3月28日)


 勤務している層が実際の層よりも多くなっていますが、自営業者などは実際の出頭が難しく(そのまま収入に直結)、偏りがちです。主婦層の「辞退」も多いのも特徴です。興味深いのは完全失業者として統計を取っており、実際の層よりも多くの完全失業者が出頭しています。雇用対策でしょうか。日当は1万円。200日裁判ともなれば…

 このような裁判員の職別構成比も裁判員裁判が行われる日数によっても大きく変動するはずですが、ここでの資料ではわかりませんが、実際には有職者が従事するのは困難であることはわかり切ったことです。

 裁判員裁判では多くの問題があるにも関わらず、マスコミは問題点は触れることなく、そのまま持ち上げることばかりに躍起です。

 特に気になるのは量刑です。裁判員裁判になってからの重罰化は顕著ですが、これに歯止めを掛けたのが、裁判員制度を推進した最高裁でした。
 簡単に流れを掴むだけの事案を紹介します。

求刑の1.5倍判決を是正 平成26年7月24日判決
【事例】 夫婦で幼児を虐待し、死亡された。求刑10年に対し、裁判員裁判は軽すぎるとして15年。高裁も控訴を棄却したが、最高裁が破棄自判 父親に懲役10年、母親に8年とした。

 死刑判決を破棄した高裁判決を支持 平成27年2月5日判決
【事例】女子学生を殺した事件だが、強盗、強姦事件で懲役7年で出所して1ヶ月半後の事件。

 裁判員制度での量刑に対するマスコミの論調です。
「裁判員裁判の意味ない」=通り魔事件の遺族-制度導入10年」(時事通信2019年5月12日)
「民意要らないのか」=死刑判決、5件で破棄-裁判員制度導入10年」(時事通信2019年5月12日)
<裁判員裁判・東北の10年>第3部 模索の果て(中)翻弄/「市民感覚」 上級審で否定」(河北新報2019年5月18日)
(裁判員10年 見えた課題:1)市民感覚、揺らぐ量刑判断」(朝日新聞2019年5月10日)
 マスコミ全体の論調も似たり寄ったりで、裁判員の暴走を戒めようというものはありません。いかに裁判所(高裁、最高裁)がひどいのかという印象操作です。
 「先例」という言葉をマスコミは多様しています。

「「裁判員の方は、見たくないものを見て、聞きたくないものを聞き、悩んで悩んで、結論を出してくれたのに」。有紀さんは、過去の判例を言い募るのなら、裁判員制度なんてやめればいいとさえ思っている。」(前掲時事通信)

「「生半可な思いでやっていたわけではない」と語気を強めた男性。死刑を選択した一審判決が「安易な民意だった」と思われるのが悔しい。「むしろ二審も裁判員裁判にしては」と思っている。」(前掲時事通信)
 こうした裁判員の不満を代弁していることの意味は「先例」を変更させることにあります。
 ここでいう先例とは、基準のことであるにも関わらず、基準を変えろとは言うには抵抗があるため「先例」と表現しているのです。

 死刑になるかどうかは永山基準が最高裁判例として定着していますが、当然のことながら、基準があるのは誰が判断するかで結論が違ってしまってはいけないからです。死刑でなくても同じことで(最高裁は、死刑判決でなくても量刑の平等は当然の前提とし、量刑を上げるなら、その事案において量刑を上げるだけので事情が必要と言っています)、この当たり前のことを「先例」として攻撃しているわけです。

 裁判員の意味があるのかと。

 ここに非常に危うさがあります。裁判員という感情(これもマスコミは「市民感覚」という表現で美化しますが、要は「感情」のことです。)を直接流入させることで、厳罰化が導かれてきました。しかし、最高裁がそれに歯止めを掛けたわけです。

 そうであれば、こうした傾向もむしろ当たり前なのです。
裁判員10年 高裁の破棄率は低下 「1審尊重」明確に」(産経新聞2019年5月15日)
 最高裁が歯止めを掛けた以上、一審裁判員裁判もそうした最高裁判決を盾に裁判員を説得しやすくなったということです。なので、上級審で破棄されるような目立ったものは減った、それに対する裁判員、そして裁判員制度を推進するマスコミの中に不満が鬱積しているということです。

 出頭率の低下により既に裁判員制度の根幹は崩壊しています。
 これ以上、この制度を継続させることは許されません。

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