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雇われるための就職支援でない経験を提供できるのが就労支援の価値



就職支援のゴールは、ひとを採用したい企業と就職したい個人が雇用契約を結ぶことです。若者支援をしていて、圧倒的に多くの若者が就職することを希望して来ます。もちろん、本人の価値観が一番なので、その実現に向かって伴走します。ここを得意としているのがハローワークであり、人材企業だと思います。たくさんの採用希望の企業情報を持っています。

若者支援に限らず、就労支援をしているところは就職支援もしています。独自のルートもありますが、ハローワークや人材企業とも連携します。それであれば就職を希望する方はダイレクトにそこに向かったらいいのではないかと言うことですが、一足飛びにそこに向かえない、向かうことにためらいや不安を感じる若者も多くいます。

現在、育て上げネットには年間、新規で相談に来られる方は約2,000名です。年に寄って増減あります。おおざっぱですが6割くらいの若者が、正社員ではなく、アルバイトなどから始めて行こうと考えています。最終的には正社員を希望されますが、そのプロセスのなかでアルバイトを一つ目のゴールに置く若者が多いです。

2000年代に入って、政府・行政もついに若者の雇用問題に取り組み始めました。政策的には、働きたいけれど何らかの事情ですぐ働くことが難しい「個人」へのサポートです。ただ、それまで若者に対する施策がほとんどなかったため、各地域で若者支援を行っていた団体へのヒアリングや調査があり、当初、その仕様(何をするか、何を目指すのか)はゆるやかでした。

しかしながら、徐々に雇用圧力、どれだけ雇われたか、週何十時間働けているか。どれだけ続いたのか、ハローワークを使ったか、というように仕様内容がしぼられ、就職支援への傾倒してきました。最初のうちはそれでも一定の若者が就職をしていったりということがあったのですが、雇用状況の改善や、就職支援機関もそれぞれ若者に力を入れてきたこともあり、「すぐに就職したい(できる)」若者との接点が作れなくなってきました。

そうなると、成果を就職に強めてきた部分と、現実的に目の前にいる若者と就職の距離が開いていく部分との狭間でさまざまな葛藤が生まれてきます。それは支援団体にも、若者にもよい形とは言えないものだと思われます。それでも成果を就職にしたい(せざるを得ない)立場と、そんなに就職成果だけでは支援にならないという立場がぶつかっていきます。

そんな中で、変化した部分があります。その変化の大きなものが、誰もが自分の知識やスキル、不要なものを市場に出すことができるサービスの登場です。メルカリであり、ココナラであり、ジモティーであり、アフィリエイト的なものであり。僕は個人的にそういうのも出たらやってみたいタイプなので個人で触ってみたりしてましたが、この変化が就労支援の分野に流入してくることはありませんでした。

理由として考えられるのが、そもそも「安定」した仕事にはならない。一定の知識やスキルを持つ人間に限定される。そして、自分がやったことないものを他者に伝えることはできない、といったものです。

しかし、よくよく相談に来る若者を見れば、いろいろな才能を持っています。絵が上手だったり、プロダクトを作れたり、よい写真が撮れたり、映像加工ができたり、文章を書くことができたり。特定の領域や分野にものすごく知識を持っていることもあります。それらは「雇われる」にあたっては不十分またはまったく機能しないものかもしれませんが、若者自身にとっては楽しく、面白く、大切な趣味や「好き」です。

昨年、ある女性がピアスを作れるということで、物理的な場面でそれらをプレゼント、または購入してもらうような、バザー的なものがありました。それはそれで「ありがとう」を言われたり、実際にお金を受け取ったりという場面もありました。彼女も嬉しかったと思います。ただ、本当にそれは欲しいひとが買ってくれたこととして、彼女が受け止めていたのかはわかりませんでした。

そこで、それをフリマアプリを使ったところに出すお手伝いをしました。どこのアプリがいいのか、登録はどうするかというものですが、実際に出品したものはすぐに売り切れ、追加で彼女自身が出したものも売れました。彼女からすれば見知らぬ誰かから発注が入り、入金があったわけです。そして彼女は考えました。これはこれでやっていこうと。自分のプロダクトを欲しいといってくれるひとがいるわけですから。

ただ、それでは生計が立てられないこともわかったようで、そこからアルバイトをではなく、アルバイトもしていこうと、これまで以上にさまざまな活動に参加するようになりました。

また、そんな噂を聞きつけて、別の就労支援団体からスタッフと若者が来てくれました。いろいろ頑張ったけれど、何か自信につながることはないかと試行錯誤していたそのスタッフが、育て上げネットで少しずつ始めている新しい就労支援を知ってくれたのがきっかけです。その若者は別の団体の支援を受けながら、育て上げネットにも来ています。

本当に少しずつですが、才能や「好き」のある若者に、最終的なゴールは就職であったとしても、就労支援のプロセスのなかで物を売ってみたり、何かを書いてみたり、ということを始めていきました。とても小さく、まだ小さいです。そんな小さな取り組みがどう受け止められるのか、80名ほどのスタッフからアンケートを取ったところ、就職支援ではなく、そのような機会を提供したらいいのではないかという若者にほぼ全員が出会ってました。

しかし、自分自身がそのようなことをしたことがないため、何をどう提供していいのか感覚的にわからないということもありました。そこで写真にあるよう、スタッフが集まってメルカリをしてみたり、他のサービスを使ってみたり、という模索とチャレンジが始まっています。不要なものを持ってきて登録して、出品してみる一連の流れをみんなでやってみたりしています。いきなり売れてどよめいたりも。

こんな動きは受け入れられない、誰も興味ないかなと思っていたところ、関西の団体でも同じような問題意識、就労支援が就職支援に最適化されていることから若者への機会提供が限定的なのではないかというものです。すぐにそれぞれの団体からスタッフが出て研究会のようなものが設定されています。

2,3か月に一度集まって、新しいサービスをそれぞれ個人がチャレンジしてみて、結果や感想を共有し合うところから始めています。実際にやってみたり、若者と話をするなかで、この取り組みのよいところとして、スタッフも若者も不得手なところから、一緒に考え、チャレンジするフラットな関係性のなかで物事が進んでいくというものです。もちろん、これで安定的な収入になるとか、していこうという話は出ていません。あくまでも個々のチャレンジを就労支援のコンテンツとして、そのプロセスのひとつとして、やっていたい若者がいれば一緒にやってみるというものです。

今後、どのように発展していくかは未知数ですが、少なくともいま見えているところでは、就職支援ではなされないこれらの活動は、とても就労支援らしい、ということです。今後はこの「らしい」も言語化していきたいと思いますし、個人でも団体でも一緒にやってみてみたいということがあればぜひ一緒にチャレンジしましょう!

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