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秋吉 健のArcaic Singularity:通信業界が“超えていく”その先へ。出揃った大手MNO各社の2018年度決算概況から通信業界の現在と未来を考える【コラム】

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■業界を揺るがした完全分離プラン

今回の決算内容には大きな影響を与えなかったものの、今後の業績推移の明暗を分ける結果となりそうなのが端末代金と通信料金の完全分離です。

10日に国会で成立した改正電気通信事業法では端末代金と通信料金の完全分離が義務化され、他者の通信料金を原資とした端末代金の大幅な値引などが禁止されることとなりました。

この影響を最も大きく受けるのはNTTドコモです。新たに今年6月から完全分離プランとして大容量定額制の「ギガホ」と従量制の「ギガライト」の2つを用意し、シンプルで分かりやすい料金設定と従来プランよりも平均2~4割程度安くなることを武器にプランの移行を促そうとしていますが、その値下げと端末販売量の減少などを踏まえ、2019年度の業績は営業収益でマイナス2608億円、営業利益でマイナス1836億円と、大幅な減収減益を予想しています。

それでもNTTドコモはスマートライフ領域の拡大やデジタルマーケティングの推進、さらなるコスト効率化などで早期の業績回復を確約するとともに、株主還元においても2019年度は増配を見込んでいる

一方KDDIはすでに分離プランを導入しており、その影響は軽微としながらも、NTTドコモのギガホ/ギガライト対抗として「新auピタットプラン」や「auフラットプラン7プラス」、さらにデータ容量の上限がない「auデータMAXプラン」など、次々と新たなプランを発表しています。

ソフトバンクは分離プランへの対応で最も静観を決め込んでいると言っても過言ではなく、その根拠となるのが同社のサブブランド「ワイモバイル」の存在です。

MNOとしてのソフトバンクでも「ウルトラギガモンスター+」などで分離プランを持つ上、NTTドコモなどが用意する低価格プランへの対抗としてはワイモバイルの利用を推奨することで、企業内でのユーザーセグメントを上手く分割することにも成功しています。今後はワイモバイルとして分離プランへどう対応してくるのかが注目されるところです。

大容量プラン中心のソフトバンク、安価で中容量のワイモバイル、低価格で小容量利用に訴求するLINEモバイルと、ソフトバンクグループの各セグメントをはっきりと分けた戦略が成功しつつある

■5G時代の勝者となるのは誰か

そして近未来の最大の注目となるのはやはり「5G」でしょう。超高速・低遅延・超多接続を可能とする夢の通信技術である5Gですが、世界では既に米国ベライゾンと韓国SKモバイルが相次いで商用サービスを開始しています。

5Gの概要については本コラム連載をはじめ、S-MAX内でも何度もお伝えしていますが、その実態は4Gネットワークを完全にリプレースするものではなく、当初は駅や商業施設などを中心にスポット的に展開し、4Gと共存する形でエリアを広げていくことになります。
【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:5Gで変わる世界。目前に迫るモバイル通信技術の大革命は人々の生活をどこまで変えるのか?各社の取り組みや現状からその未来を予想する【コラム】
NTTドコモは2020年春を予定している本格サービスに先駆け、今年9月20日より日本で開催される「ラグビーワールドカップ2019」を契機に5Gプレサービスの開始を予定しており、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックとともに、スポーツ振興の大きな戦力としても期待をかけています。

KDDIは過去に3GでCDMA2000方式を採用した結果、通信方式の違いから部品調達コストやインフラ設備の投資コストで苦戦した経験がありますが、今回5Gの周波数割当で世界的にも多く使われる周波数帯域を取得できたことで、「ネットワーク開発や端末調達コストで大きなメリットが得られる」として、5G戦略に強い自信を見せています。

商用サービスについても2020年3月中の開始と2020年3月末までの端末販売開始を発表しており(端末種別は現在検討中)、KDDI 代表取締役社長の高橋誠社長も質疑応答の場で「我々は(5Gの屋外)基地局が3万局、投資額で4300億。NTTドコモは8000局で7000億」と述べるなど、基地局整備でのコスト優位性や端末調達の順調さをアピールする場面もありました。(※基地局数及び投資額は2024年度末までの累計)

ソフトバンクは早期に5Gエリアの人口カバー率90%以上を目指すとしながらも5G技術のみを前面に押し出すことなく、同社が得意とするAI・IoT分野やロボット分野と連携させることで、都市インフラ事業やB to Bソリューションでの活用を強くアピールしています。

大勢の観客が集まるスポーツイベントは5Gの超大容量・超多接続性をアピールするコンテンツとして最適だ

前述したKDDI 高橋誠社長の言葉にもあるように、5Gサービスへの投資額は各社ともに毎年1000億円前後の規模となることが予想されており、その投資分を回収するための地盤づくり・システムづくりの期間が2019年であることを強く感じる決算でした。

KDDIは5Gによる地方創生施策として今年4月に「地方創生ファンド」も設立している

■通信業界が目指す未来の日本の姿とは

ポイントサービスを中心とした自社経済圏の確立による顧客の固定化と純粋な通信事業部門に頼らない生活・健康分野への進出は、大手MNO 3社が目指す「次の一手」でもあります。

NTTドコモは16日に開催された「2019夏 新サービス・新商品発表会」においても、スマートライフ構想の一環として有機・無添加食品やミールキットの通信販売を行う企業、オイシックス・ラ・大地との提携による食材宅配サービス「dミールキット」サービスを発表しており、ここでもdポイントとの連動を軸に人々のライフスタイルサポートを強くアピールしています。

たった5分の簡単調理で美味しい食事が作れるdミールキット

通信事業が行き詰まったわけでも飽和したわけでもないことは、今回の各社の決算概況を見ても分かります。むしろ通信事業は堅調に拡大しており、各社がスマートライフやライフデザインという言葉を旗印に人々の生活へ食い込むように経済圏を拡大する先には、生活の全てがIoTによって繋がった世界が待っているように思われます。

生活のIoTと言えば、スマートホーム構想なども各社が注力するところであり、もはや通信が社会インフラのみならず家庭内の生活まで、すべてをコントロールする時代がすぐそこまで来ているのです。

KDDIがフランスベッドと共同開発し3月に発売を開始した、睡眠センサー内蔵IoTマットレス

NTTドコモが横浜市やand factoryとともに実証実験を進めるスマートホーム

通信料金の値下げや分離プランの導入ばかりがクローズアップされやすい通信業界の動きですが、その水面下では熾烈な自社経済圏への消費者の囲い込み競争が行われています。

通信が生活支援の手段である時代はもうすぐ終わり、通信が生活そのものとなる時代が必ず来ます。5G、IoT、AI……あなたならどの通信会社のサービスを選択するでしょうか。それとも全てのサービスから上手に選択し、適材適所で利用するタイプでしょうか。

通信業界が日本の産業のすべてを飲み込む日すら、そう遠くない未来かも知れません。

通信業界が「超えていくもの」とは、一体何だろうか

記事執筆:秋吉 健

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