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センセーショナルな見出しの裏側で。

最近、選挙が近いせいか、ITプラットフォーマーの話でもなんでも、「中小企業を守ろう」という掛け声の政策論をよく見かける。
そして、ついに知財の話でも、「中小の知財 大手が奪う」というセンセーショナルな見出しのコラムが出たのを見かけてしまったので、一日遅れではあるが(5月18日更新)、一つエントリーを上げてみることにする。

中小企業の特許やノウハウなどの知的財産が大企業に奪われる問題が深刻になってきた。製造業から小売り・サービスなどに業種が広がり、手口も巧妙だ。日本の技術革新を支える中小企業の知財を守るため、国も知財関連法の整備や独禁法の適用を視野に対策を取り始めた。」(日本経済新聞2019年5月18日付朝刊・第2面、強調筆者)

この記事、「手口が巧妙」という割に、出てくるのは、

「中小企業に発注をにおわせ、情報や技術を奪うのが知財吸い取りの典型例だ。いったん欲しい技術を得たら内製化したり、アジアなど海外の工場に発注したりしてしまう」
「量販店がプライベートブランド(PB)の総菜レシピを委託先から無償で提供させる」
「中小企業がチェックしきれないような抜け穴を契約書につくり、大企業が技術を合法的に奪う」
「大企業から送られてきた共同研究の契約書には研究成果は全部先方の知財になる、と書かれていた」

といった、少なくとも10年前には優に存在していたような話ばかり。

一昔前なら、それこそ委託開発時の契約書は、発注者にありとあらゆる知財を帰属させる、というのが、多くの発注側企業ではデフォルトの条項になっていたし、契約関係にすらない状況で、下請けの製造事業者がメーカーに金型図面を召し上げられる、といった話も至るところで聞かされた。
そもそも、日々の商売をどう回すか、ということで頭がいっぱいの中小事業者にとっては、大口の取引先のご機嫌が取れればそれが一番で、わざわざお金をかけて特許等の権利を取り、それを振りかざして危ない橋を渡るなんて発想自体が当時は希薄だったはず。

それを思うと、最近は、首都圏のベンチャー企業はもちろん、地方の小さな会社でも、特許、意匠から外延が今一つ定かでないノウハウに至るまで、最初の打ち合わせの時点から何も言ってこない方が珍しくなったし、何らかの新規開発要素がある契約では、「すべて発注者に帰属させる」という露骨な契約条項がそのまま通る、ということはほとんどなくなって、契約条項のデフォルト自体が「権利共有」や、受注者に権利を残すことを前提とした「無償許諾」といった建付けに変わってきている*1

これこそが、この20年ほどの間、いろんな方が全国津々浦々で行ってきた「知財啓発」の成果だし、それだけに、今更「中小企業の保護」を政策当局が持ち出してくるところに、自分は一種のきな臭さを感じて仕方がない。

もちろん、上記コラムの中にも出てくるように、受注企業、開発企業が「不当」と感じるような扱いをされる例は残っているのだろうし、安易に図面を渡すな!、製造工程を見せるな!、それが原因で発注側の大企業から嫌がらせをされるようなことがあったら当局に動いてもらえ!といった啓発を全国に向けて口酸っぱく続けていくことは必要だと思う。

ただ、そういった話と、法があらかじめ介入して、企業間の取引における知的財産権の帰属のデフォルトを予め定めてしまう、という話は全くの別もの。

どんな大企業でも「何でもかんでも自前でやるのは無理」と悟りを開き始めている今、相手が本当に替えの利かない、稀少価値の高い技術を持っているパートナーであれば、そこに無理無体な要求を突き付けて逃げられるリスクの方がむしろ怖いから、既存の法規制に屋上屋を架すような規制を入れるまでもなく、合理的な行動の結果、パートナーの地位とそこが持っている権利を尊重した行動をとるようになっている。

逆に、発注者の大企業側にそういうモチベーションが働かないケースというのは、相手が持っている技術自体はそこまで突き抜けたものではなく、むしろ「発注者のフィールドを使っていろいろ試したからこそ(その業界にとっては)画期的な製品が生まれた」というような場合であることが多い。

それでも開発の労力に報いるだけの報酬は当然支払われるべきだし、出来あがった成果品を一定数購入するとか、一定期間継続的に取引を行う、といったことは取引上の信義として行った方が良いことだとは思うけど、一方で、そういった場合に、できあがった製品に関する知的財産権まで開発者に独占させることが本当に適切なのか?、発注者から同じような技術を持っている他の会社にも技術を平等にライセンスして更なる開発競争に向かわせた方が社会全体の技術力向上につながるのではないか? という疑問も当然湧いてくる*2

要は「知的財産権」を発注者と受注者(開発者)のいずれが持つか、ということは、案件ごとの開発経緯や、その技術自体の稀少価値の大小、発注・開発のために支出された費用の大小、といった様々な要素によって決まるべき話で、単に「一方が大企業で、相手が中小企業だから、常に中小企業の方を守らなければならない」という安易な発想で立法し、制度設計してしまうと、かえって無駄な、「技術革新」の文脈では何の役にも立たない紛争を増やすだけになってしまう、ということを自分は懸念しているのである。

おそらく、今回の記事のトーンを見る限りでは、直ちに立法まで踏み込んでいく、というよりは、公取委が独禁法なり下請法なりのガイドラインを補充して、それこそ「大手量販店によるレシピの吸い上げ」のような分かりやすい事例を一、二件やり玉に挙げて警鐘を鳴らす、といった程度のところで収めることを想定しているのではないか、と感じられるのだけど、自分としては、変なところで話がねじれていかないことをただ願うばかりである。

*1:この背景には、「中小企業の技術力に配慮した」という単純な話ではなく、開発で生まれた発明を全て自分たちに帰属させても、結局中身が分かっていないと、権利化することすら難しいし、権利化したらしたで、その維持コストがかかってしょうがないから・・・という発注者側固有の問題もあるのだが。

*2:もちろん、開発した側の社長さんや技術者の中には、「自分の会社のノウハウこそがNo.1だ!」という強い思いを持っている人も多いから、客観的な立場で分析された技術評価が常に受け入れられるわけではない。というか、ストレートに伝えてしまうと大抵の場合は関係がこじれてしまうから、大企業側の開発、知財担当者も、そこには非常に気を遣う。

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