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私たちは、人生の少なくない時間を仕事に費やしています。昔から、おそらくはこれからも。ただ、昔と比べると「仕事」の持つ意味が広がり、人の数だけ「はたらき方」があるのが今の時代ではないでしょうか。私たちは今後どうはたらくか=どう生きるか、今月のBLOGOSでは、そんなことを考える特集をお届けします。

働き方改革に足りないのは“焚き火”だった? アウトドアを取り入れた新しい働き方「キャンピングオフィス」が人気

  • 2019年05月20日 07:03
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スノーピークビジネスソリューションズ

4月から働き方改革関連法が本格施行され、残業時間や有給休暇など、働く時間や働く方法が注目されるなか、職場にアウトドアの要素を取り入れて「働く場所」を変えていく「キャンピングオフィス」が国内の企業から注目を浴びている。

テントや焚き火台などのキャンプに使用される道具を取り入れた職場づくりや、自然のなかでの会議や研修を通じて、社内の人間関係や生産性の向上を目指すキャンピングオフィス。プロデュースするのはアウトドアブランド・スノーピーク(新潟県三条市)の子会社・株式会社スノーピークビジネスソリューションズ(愛知県岡崎市)だ。

2018年12月現在でキャンピングオフィスの導入企業数は延べ374社。ITが発達し、デジタル化が進むなかであえて「キャンプ」という原始的な方法で働き方を改革するキャンピングオフィスの魅力はなにか、同社の取り組みと導入企業の声を取材した。【清水駿貴】

スノーピークビジネスソリューションズ

アウトドア導入でテレワークが減少

導入企業の1つ、IT企業Phone Appli(東京都港区)の273坪(902.4平米)のオフィス中央にはスノーピークの巨大なテントが設置してある。スピーカーからは鳥の鳴き声など自然音が流れ、焚き火台を囲むように折りたたみ式のアウトドアチェアが並べられているスペースもある。

事業の一環として他企業のオフィス移転に関わってきた同社は、働きやすい環境を作る上でITに加え、「自然の要素」が重要だと気付いたという。そこで18年2月に企業拡大と社員数増加に伴いオフィスを移転した際、キャンピングオフィスを取り入れた。

株式会社Phone Appli

移転当初は「こんな椅子座れるか」「テントでの打ち合わせは想像できない」という意見が社内から起きた。同社の北村隆博さんは「変化に対する恐れがあったんだと思います」と振り返る。

反対の声はあったものの、いざキャンピングオフィスを導入してみると、評判は上々。リモートワークに積極的に取り組む一方、移転後は社外で仕事をするテレワークの社員が半分以下に減ったという。「椅子は持ち運びや収納が簡単で丈夫。空間を有効活用できます。テントは会議や救護室などさまざまな用途に使える上、社のシンボルになりました」。北村さんは「社員が、自然と自由にコミュニケーションすることができ、気持ちよく働ける快適なオフィスになった」と喜ぶ。

株式会社Phone Appli

きっかけは社長自身のアウトドア経験

キャンピングオフィス発案のきっかけになったのはスノーピークビジネスソリューションズ・村瀬亮社長自身の経験だという。

同社の前身となるIT企業を経営するなかで、村瀬社長はさまざまな働き方を模索。1人で1週間、高知県の山奥にこもりキャンプを実行したところ、自然に包まれた開放感で事業計画が次々と浮かんでくる体験をしたという。その経験から着想を得て、テントで商談をしたりキャンプを研修に使ったりする働き方を思いついた。そこで、スノーピークと共同でオフィス向けのアウトドア事業を展開しようと、16年7月にスノーピークビジネスソリューションズを設立した。

スノーピークビジネスソリューションズ

同社取締役の藤本洋介さんは「キャンプをしている人たちを見ていると、いま日本が抱えている『人間性の希薄さ』という問題を忘れてしまう」と話す。キャンプ中、隣り合った見ず知らずの人同士が交流を深め、飲食をともにする光景は「古き良き日本を思い出させる」。だからこそ、IT化が進む現代の職場にアウトドアのノウハウを活用することで「人間性の回復」をはかりたいという。

「遊び心」に当初は批判も、1ヶ月で好転

スノーピークビジネスソリューションズ

当初はアウトドア研修などを中心にプロデュースしていた同社だが、スノーピークなどで職場にキャンプ用の椅子やテーブルを取り入れた経験や、オフィスの中心にキッチンを設置して社員の交流をはかるアメリカの「セントラルキッチン」文化をヒントに、執務エリアの中心に大型のテントなどを設置するアイデアを思いついた。

17年3月に都内の大手広告代理店で実証試験を行った。殺風景だった協力企業の執務室に人工芝を敷き、焚き火台とアウトドアチェア、キャンプ用のキッチンなどを設置した。藤本さんは「クリエイティブな風潮が有名な会社だが、当初、社員の方たちからは、前向きな声だけではなく、『は?キャンプ用品?』と冷ややかな反応もあり、賛否が分かれた」と話す。

しかし、徐々に会議室を予約するほどでもない小さなミーティングやランチ、日々の雑談の場などとして使われるように。約1ヶ月後、試験が終わり撤去する際には「常設にしてほしい」という声が大多数を占めた。

社員の集中力が向上 ストレス値は15%軽減

スノーピークビジネスソリューションズ

「一度キャンピングオフィスを体験すれば、最初は拒絶感があっても良さがわかってもらえる」。藤本さんは確信した。現場の要望に応え、さらに1週間、今度はスペースは広いが使用者が少ない空間にテントや植物などを設置。自然音を流すなど、より自然環境に近いキャンピングオフィスを実施した。

結果、テントのなかで会議をしたり焚き火台を囲むスタイルでチームミーティングが行われたりするなど、今まで人がいなかった空間に人が集まるようになったという。

協力企業が職場の自然環境が人に及ぼす影響を調べようと、20〜60代の利用者男女20人の脳波を測定したところ、約1週間で集中力を示す値は全体で8.6%向上、ストレスを示す値は15.4%減少したという。

176人を対象にしたアンケートでは、7割以上が「精神的にリラックスする」と回答。半数以上が「打ち合わせがいつもより盛り上がる」と答えた。

アウトドア研修で湧き出る新しいアイデア 上司と部下の関係も良好に

スノーピークビジネスソリューションズ

スノーピークビジネスソリューションズは屋外での会議や研修のプロデュースにも力を入れている。自然のなかでテントの設営や料理、焚き火を囲んでの会話などを経験することによって社員同士の関係性が深まるという。

宿泊をしない「1dayプラン」も提供している。都心部の河川敷やビルの屋上などにテントを張る。日中はそこで会議や仕事を行い、夜になるとBBQや焚き火を囲み親睦を深める。藤本さんは屋外で仕事をすることで「開放的になり普段とは違うアイデアがどんどん出るという声が多い」と話す。

上司と部下の関係にも変化がある。「会議室だったら『現実味がない』と一蹴されるような話も、自然のなかだと『それ面白いね』とポジティブに捉えられる場面が増えるという感想をよく聞きます」

キャンプをしない93%の日本人に「アウトドアの力」を知ってほしい

スノーピークビジネスソリューションズ

『オートキャンプ白書2018』(日本オートキャンプ協会)によると、17年の日本のキャンプ参加人口は全人口の7%、約840万人という。藤本さんは「残りの93%の人たちにアウトドアの良さを知ってもらうことが課題」と話す。

「働き方改革が叫ばれ、まずは会社側の法的整備がされ、次にどこでもいつでも働きやすくするようITインフラ投資などが盛んに行われる」と分析する藤本さん。同社はそういった働き方改革の流れのなかで「第三段階のフェーズ」を想定しているという。「最終的に大切になるのはFace to Face、互いに向かい合うことです」

藤本さんは「世の中で生産性向上が叫ばれているけれど、やはり大事なのは社員同士の関係性をどう深めるか。そのためにも一度焚き火を囲んでもらえたら」と笑う。

「焚き火を囲んだら、なぜか本音で語り合える。喋らなくても同じ時間を共有して仲が良くなる。せっかく仕事をするなら気持ちの良い、楽しくて笑顔の溢れる職場にしてほしい。キャンプの力をそんな環境づくりのために活用してもらいたいですね」

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