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中国発「アフリカ豚コレラ」の世界的影響 - 澁谷司

 今年(2019年)5月、「アフリカ豚コレラ」(以下、ASF)がついに中国広東省に隣接する香港にまで侵入した。

 東アジア・東南アジアでは、中国→モンゴル→ベトナム→カンボジア→北朝鮮に次ぐ、6番目の国・地域となる。

 5月10日、香港の新界上水屠殺場で、1頭の豚にASFが発症した。そのため、当局は他の約6500頭の豚を殺処分している。

 よく知られているように、中国は、世界約50%の豚の頭数、及び豚肉の生産量(2017年第1位。5451万8000トン)を誇る。

 従って、中国でのASF蔓延は、同国のみならず、世界的にも多大なる影響を及ぼす。それは、世界的な豚肉減産を意味するからである。

 豚肉輸出国の米国(2017年世界第2位。中国の生産量の約21.3%)やブラジル(同年第5位。同約7%)は、豚肉を海外に売っているが、これでは絶対量が足りないだろう。そのため、世界的に豚肉が高騰している。

 例えば、中国から遠く離れたオランダでは、今年4月中に、子豚の価格が17.5%上昇した。また、豚肉も1キログラム当たり1.47ユーロ(約181.3円)から1.79ユーロ(約220.7円)へと値上がりしている。

 他方、ニュージーランドでも、5月末には輸入豚肉が25%値上がりすると予想されている。

 さて、ベトナム(2017年豚肉生産量世界第6位。中国の生産量の約6.8%)では、63省市中、29省市がASF感染地域となっている。ベトナムには、豚が約3000万頭いるが、既に120万頭が殺処分された。同国で殺処分された頭数の割合は全体の4%となる。

 ベトナムでは中国同様、豚肉が好まれ、肉類の4分の3を豚肉が占める。今後、ベトナムでは、ASFの更なる拡大が予想されるので、甚大な被害が出るかもしれない。

 一方、中国共産党は、ASFのため殺処分した豚の頭数を102万頭と公表している。しかし、中国では31省市(5自治区を含む)全土でASFが蔓延しているので、北京が数字を矮小化している公算が大きい。常識的には、ベトナムの豚殺処分数より、中国の方が少ないとは考えにくいだろう。

 それに、中国農業農村部では、昨2018年4月と比べ、今年4月、豚の生産数が20.8%減産したと発表している。102万頭の殺処分では数字が合わない。

 中国には4億頭ないしは、7億頭の豚がいるので、前者ならば、約8320万頭、後者ならば、約1億4560万頭がすでに殺処分された計算になる。

 以上のように、北京は、しばしば実態とはかけ離れた数字を発表して憚らない(その代表例がGDPではないか)。

 なお、今年4月、ラボバンク(Rabobank。オランダ・ユトレヒトに本拠地を置く金融機関)は、ASFの感染や殺処分で、今年、中国の豚飼育数が1.5億から2億頭にまで減少すると分析している。もし、この予測が精確ならば、世界中で豚肉が暴騰するに違いない。

 中国では、今年4月、昨年同期と比べ、豚肉が14.4%も値上がりしている(但し、各地域で値段が大幅に異なる)。

 5月16日現在、河北省の一部地域が、豚肉1キロ当たり30元(約478円)で1番高い。次いで、新疆・ウイグル自治区の一部地域では、同28元(約446円)である。そして、浙江省・山東省・四川省の一部地域が26元(約414円)と続く。

 実は、豚肉の値上がりは、食料品全体の価格を押し上げる。そのため、中国一般家庭の家計を直撃しているのではないか。

 今年5月9日、中国国家統計局が発表した4月の消費者物価指数(以下、CPI)は前年同月比で2.5%上昇した。前月比0.2ポイント増である。

 一部の報道は、CPIが伸張したので、中国は“デフレ脱却”だと説明している。けれども、実態は異なるだろう。不景気にも拘らず、CPIが伸びているのは、典型的な“スタグフレーション”ではないか。

 他方、同月15日、同統計局は、4月の「社会消費品小売総額」が2003年以来の低水準となると発表した。同総額は前年同月比7.2%増で伸び悩んでいる。その伸び率は3月(前年同月比8.7%増)から1.5ポイントも低下した。

 最近、米トランプ政権は「米中貿易戦争」という名の対中「新冷戦」(実弾は飛ばないが、事実上の戦争状態)を仕掛けた。国内の人権弾圧・宗教迫害が止まらない習近平政権を打倒するためだろう。そして、目下、中国は米国の思惑通りになって来た観がある。

澁谷 司(しぶや つかさ)
1953年、東京生れ。東京外国語大学中国語学科卒。同大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学等で非常勤講師を歴任。2004~05年、台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011~2014年、拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、同大学海外事情研究所教授。 専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる!「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)等多数。

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