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AIと映画の未来。AIに読解力と共感力はない - 関根忠郎

写真AC

ほんの7、8年前まで、文字はすべて手書きで行なってきて、余暇をペン画や鉛筆画、あるいは時折、独学による書などを嗜んできた。

しかし10年ほど前から、仕事だけはそうもいかなくなって、否も応もなくパソコンの前に座すことになった。それこそ幼時のお絵描きから数えれば、もう80年近くは「紙」と共に過ごしてきているのだが、なかでも愛用していた400字詰め原稿用紙は、ここ10年くらいは殆んど使っていない。残念だ。モンブラン万年筆の得も言われぬ筆圧が忘れられないのだ。

定年後、充分過ぎるほど老年になってからパソコンを買い、キーボードに文字を打ち込んで、出来上がった原稿をメールで相手方に送ることも、一方では慣れてきてしまっているのだが…。

駅でもATMでもシネコンでも、そして仕事場でも、日々タッチパネルやキーボードへの、際限ないフィンガー操作を行なっているが、それでも私のような典型的なアナログ人間のデジタル・ストレスは、一向に減少する様子はない。パソコン、ケイタイには絶対慣れ親しくしないという頑固な習性が無くならないらしい。できる限り他者の作ったシステムからは距離を置いていたいのだ。

2冊の世界的なベストセラー歴史書との出会い

そんなところへもってきて、近年は「AI=人工知能」である!このような得体のしれない(?)モンスターが世界を覆い始めてきているので、もうこちらは戦々恐々!

やがてはこんな面倒なヤツと付き合っていくことになるのかとウンザリしつつ、しかしその一方では矛盾も甚しい限りだが、かなり前からこのAIとかロボットなんかに少なからぬ興味を抱き始めていたことも事実だった。否応もなく向き合わなくてはならない相手を、全く知らないわけにはいかないからだ。

丁度そんな折に昨年、世界的なベストセラー歴史書「サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福」及びその続編「ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来」に出会ってしまったものだから、ついつい人類の過去と未来は如何なるものか? などと、少なからぬ関心を抱いてしまった。

その「サピエンス全史」上下2冊は、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ教授が、人類誕生から250万年の歩みを、これまでの常識に捉われない、驚くべき発想と視点(生物学、宗教、政治、経済、思想)から説いた書籍。

続編の「ホモ・デウス」上下2冊もハラリ教授が、急激な進化を遂げるテクノロジーが、人類の未来に何をもたらすのかを予測する、驚くべき発想による興味尽きない記述が鮮烈で、様々な思いに揺さぶられ知的興奮を味わった。

特に「ホモ・デウス」に描かれたテクノロジーの驚異的進化と、人類がサピエンスからデウス(神)へとアップグレードする過程を予測し、人間の新たな「生きる場」への多様な考察と影響等についての記述には滅法引き寄せられた。

しかし私の感じるところ、人工知能やロボットの社会的進出ないし浸透は、明るくポジティブな未来図よりも、現時点で考えられる様々な理由で、個人的にはネガティブな不安感の方が、正直先に立っている。

人文系より理工系志望の急増!

急速なテクノロジー進化によって、例えば理工系の学術と職業の領域が増幅し、いよいよ文化・芸術の創造環境を押し込めて行く傾向が予測されている。このことは人文系大学の不要論といったものが、暗に国や教育界の具体的な方針になってきているのかもしれない。若い世代の理工系志向が、進学・就職の双方で、世界的に急増していることは言うまでもない。

自分の仕事が映画という文系のクリエイティブな領域に属することなので、少々残念な気もするが、今後こうした傾向は益々強くなって行くことだろう。避けがたい偏りが心配される。この点、いよいよ強靱なバランス感覚を持った人間力が不可欠となって行く。

2〜3ヶ月ほど前、TBSのテレビ番組で、政治学者で東京大学名誉教授の姜尚中先生が宗教、芸術、文学などは要らないといった傾向があり、理工系が重んじられている現状を淡々と語っておられたが、むしろこのことよりも私は次のお話の方に共感を覚えた。

姜尚中先生は、人間と人間以外の区別ということと前置きして、人間は必ず死ぬけれど、人間以外(AI)は死ぬことはない。人間は自殺を選ぶことができるけれど、AIにはできない。それと人間の性と生殖という観点。そしてさらに大事なことは、膨大なデータを持つコンピュータによるアルゴリズム(物事の解決法)の果てには、やはり人間による政治と民主主義が重要視されなければならない、とも仰っておられたように記憶するが、これも心から共感できる説得力のあるコメントだった。

この問題も数年前から指摘され、社会の不安感を徐々に醸し出しているが、2025年までには、何と現行の50パーセントに当たる仕事がコンピュータによって自動化される可能性があり、やがて多くの人々が失職することになるという。

例えばすでに新聞なり雑誌なりの原稿をAIが書き始めているらしい。恐ろしいことに、様々な分野で人間が要らなくなる危険性が生じ始めている。これは実に由々しきことだ。こうなれば、人間はAIにできないことを真剣に見出しつつ対抗していくしかないだろう。

AIが社会の変化を加速させて行く。効率主義の徹底加速も留まるところを知らない。

シンギュラリティ2045

この小見出しが示す通り、AIの知能が人間のそれを超える時点=シンギュラリティの到来が、およそ2045年と予測されている。あと25年ほど経てば、果たしてそのような時代が来るのだろうか。仮にそうだとしても、無論、私にはそれを目撃することは不可能。決して死ぬことがないAIのように存在できれば、その興味深い環境を体験できるのに!と大真面目に思う。

ともかく大変革は、多くの物事を置き去りにしながら、果てしなく何処か未知のゾーンへ突進し続けてゆくのかもしれない。

長々と未来の不安を記述してきたが、ここからがようやく本題。

先に記した「ホモ・デウス」の【第9章 知能と意識の大いなる分離】に触発されての私の最も関心の強いテーマ、「これからの映画に作劇の変化が生じるのか?」について触れてみたい。

以下は、NHK-BS放送の番組でのインタビューに答えて、著者・ユヴァル・ノア・ハラリ教授が語った言葉の数々から、私なりに要約させて貰った記述になるが、これは私にとって実に示唆に富んだ内容だった。

○人間が〈或る意志決定〉を行なう際、問題を解決する知能と、喜怒哀楽を感じる意識とが、これまでは互いに補い合ってきた。ところがAIには意識はなく知能だけがあり、人間はAIの知能に助けられているうちに、知能の方を意識より重んじるようになっていく。

○意識は物事を感じる能力で、苦痛や喜び、愛や憎しみなど主観的なもの。人間はこうした感情を通じて、問題を解決してきた。しかしコンピュータは別。感情などの意識を発達させることは全くない。ひたすら知能で問題を解決して行くのだ。感情や主観もなく、人間とは全く別の存在なのだ。

○恐ろしいのは、こうして意識や感情を全く持たないAIという〈超知的〉な存在に、世界が支配されることなのだ。

世界は劇的に変わっても「作劇」は不変だ!

もしそうなるとすれば、これこそ最も恐ろしい未来シナリオではないか!

これまで長い間、日本映画に関わってきた者として、たとえば人間感情の表出を抑えられたり、封じ込められたりする世界を、もし迎えざるを得ないとしたら、いったいどのような対処の仕方があるのだろうか。そしてどのような表現と作劇術の試行錯誤に踏み出さねばならないのだろうか。

人間はいったい何処へ行こうとしているのだろうか。人間の行動に、AI(人工知能)が、さらにより深く関わってくるとき、いったい何が惹き起こされるのか?

一方、バイオテクノロジー研究室あるいは企業間では、ヒトの体細胞のゲノム編集への進化と競争が今、激化しているという。例えば子供の外見や知能を親の望み通りに変えるデザイナーベイビーの誕生も既に囁かれ始めている。人・世界は劇的に変わる?

決してAIを敵視するわけではないが現時点、AIには読解力と共感力はない。「作劇」は不変だ。

関根忠郎(せきね ただお)
映画ライター、コピーライター
1937年、東京生まれ。56年4月、東映株式会社に入社、本社総務部技術課に配属されるが、スーツ着用のオフィスワークに馴染めず現場仕事を熱望。新宿東映劇場に出向し電気機械保守に従事。その後、東京撮影所に転勤し製作部宣伝課、さらに本社宣伝部広告部に移り、ポスター等の宣材及び広告制作に従事する。主に宣伝文案を長く担当して来た。現在はフリーの映画ライター、コピーライターとして活躍している。

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