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パソコンもスマホも“カムイ”!?『ゴールデンカムイ』アイヌ語監修者が語るアイヌ文化の面白さ

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BLOGOS編集部

初めてアイヌを「先住民族」としたアイヌ新法が成立し、国立アイヌ民族博物館も2020年の開館を控え、かつてないほどアイヌに対する関心が高まっている。そうした流れのひとつとして、アイヌが重要なキャラクターとして登場する人気マンガ『ゴールデンカムイ』の存在も大きい。

このような盛り上がりとタイミングを合わせるかのように、アイヌ語・アイヌ文化を専門とし『ゴールデンカムイ』にアイヌ語監修者として関わってきた千葉大学教授・中川裕氏が、『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』を先日上梓した。

今回はその中川先生に取材し、アイヌ文化の魅力や基本的な考え方、『ゴールデンカムイ』に登場するシーンの裏話などをお聞きした。【取材:島村優】

「カムイ」はお土産が欲しくて人間世界に来る

——作品のタイトルにもなっている「カムイ」とは、改めてどんな概念なんでしょうか。中川先生の本の中ではカムイ=「神」ではない、と説明されています。

私たちの身の回りのあらゆるものがカムイと考えることもできます。一番重要なことは「人間以外のあらゆるものに精神があって、人間と同じように活動している」という発想がかつてのアイヌの考え方の根底にあったということです。その中でも、他のものに働きかけたり、役に立ったりするものは、魂が意志を持っているからそういったことができる、と考えます。

(デスクの上にある録音中の音声レコーダーを指差し)例えば、このレコーダーは人の声を記録するという働きをしていますね。こうした活動ができるのは、レコーダーが魂と精神を持っていて、人間の役に立とうと思って行動するから。だから、こうやって動いているという発想です。こうした全てのものをアイヌの考えでは「カムイ」と呼びます。

集英社『ゴールデンカムイ』コミックス10巻表紙 ©野田サトル

——「身の回りの役に立つもの」ということは、作中でもよく出てくるクマや鮭など自然のものとは限らないんですか?

そうです、自然のものとは限りません。家もカムイで、この部屋にあるものもカムイ。机も、イスも、パソコンも、動いて人間の役に立っているからカムイだと、昔のアイヌはそういう発想をするに違いないということですね。

カムイの世界では霊魂は人の形をしています、クマも火も木もみんなそう。そして、それは物でも同じです。だから、アイヌの人たちは茶碗なども使えなくなったらその魂をカムイの世界に送り返すわけです。その根底には霊魂は不滅だという考え方があるんですね。

——『ゴールデンカムイ』の中では、猟は獣が人間に肉や毛皮を与えるものと解釈されていますが、中川先生はこの関係を「ギブアンドテイク」と説明しています。この場合、獣は何を受け取っていると考えれば良いのでしょうか?

それは、お酒や米の団子、イナウ(木幣)など、いろいろあると思います。例えば、このイナウという道具は木を削って作るものです。木それ自体はカムイなんだけど、木から削られたイナウは自然界には存在しません。人間が作らない限り存在しないものなので、カムイがこれを人間世界から持ち帰ることで、向こうの世界で格が上がるというわけです。僕はこれを我々の社会での「トロフィー」と同じようなものではないかと考えているんですけど。

集英社『ゴールデンカムイ』コミックス11巻109話 ©野田サトル

——トロフィーというのは、ゴルフとかで優勝した人が受け取るような…。

そう、人間世界でもらってきたこのトロフィーをたくさん持っていると、「こいつは偉いやつだ」「すごいやつだ」とカムイ仲間の間で格が上がる。何度も人間の世界に行っていれば、トロフィーを何個も持っていることになりますよね。

あと、人間がカムイにお酒を捧げると、ものすごく量が増えて向こうに届くと言われています。1滴捧げるとお椀いっぱいになって、お椀1杯だと樽1杯、樽1杯捧げると樽6杯…というように。人間世界からお酒が届いたら、カムイは仲間を呼び集めて宴会を開きます。そこで飲み食いして、最後には土産まで持たせれば、「ああこの人(カムイ)は偉い人だな」となりますよね。

——そういうものをもらう代わりに、カムイたちは人間のために何かをするんですね。

昔の「洋行帰り」じゃないけど、外国に行ってお土産をたくさん持って帰ってきて、それを配った人に対して「ああ、あの人は外国に行って偉いもんだ」っていう発想と同じだと、僕は考えています。だから、「ギブアンドテイク」っていうのは、カムイが人間の世界にそういうものをもらいに来て、その代わりに、肉とか毛皮とかを置いていくという考え方です。

作品ファンが夢中になった「チタタㇷ゚」の秘密

——アイヌには、食べ物は褒めちぎりながら食べないといけない、「まずい」や「量が少ない」など言ってはいけない、という決まりがあることも、今回の本を読んで知りました。

それは、いろんなカムイが聞いているからです。火もカムイなんです。だから、火の前で「明日はどこに狩りに行く」と話すと、これから狩りに行く相手にも伝わってしまうとされています。さっきの「カムイは客としてやってきて肉や毛皮を人間に与える」っていう話とやや矛盾するようだけど(笑)。

——食べ物の話でいうと、『ゴールデンカムイ』では「チタタㇷ゚(※)」という調理法がファンの間で人気です。

今は、お祭りの時には必ずと言っていいほど食べますね。元々は、猟とかで野外で獲物を獲って、その場で腹ごしらえする時にやるっていうのが多かったんじゃないかなと思いますけど。新鮮な獲物を使ってやるわけだから、その時しか食べられないんです。

※アイヌの言葉で「我々が刻むもの」。肉や魚を包丁などで叩いてペースト状にして食べる料理。

集英社『ゴールデンカムイ』コミックス1巻5話 ©野田サトル

例えば鮭の場合、身は食べずに保存食料にします。保存食料を作りながら、残った部位をチタタㇷ゚して食べるというイメージです。エラとか鰭もあるので、めちゃくちゃ叩く必要があって、すごく時間がかかります。

適当にやると骨が残って危ないんですね。実際の出来事として、適当にチタタㇷ゚したために残った骨が肛門に刺さった話なんかがあります。食べる時には喉に引っかからなかったのかな、と思いますけど(笑)。

アイヌ料理の味付けは「脂」が基本?

——作中でも様々な場面で描かれていますが、ずいぶんといろいろな肉を食べるんですね。

獲ったものは食べるんです。食べないのに獲るっていうのは問題なので、獲ったら全て食べなきゃいけない。捨てるのはまずいですから。

——獲物の種類が豊富なだけでなく、食べられる部位は全て食べるそうですね。

基本的には全部食べます。肛門とか、そういう部位は食べられませんけど。食べ方としては、寒くても暑くても鍋で食べるのが基本です。焼くのは、脂が垂れてしまって無駄になる食べ方だからです。鍋に入れて煮込めば、脂も全て鍋の中に入ってるから、無駄にならないし、アイヌが大量に食べる山菜類も一緒に煮込むことができます。

ある意味で、煮るっていう選択肢しか有効に食材を活用する方法としてはないと思うんですよ。

——登場人物が脳みそをとても贅沢なものとして食べています。

脳みそはとてもおいしいですよ、クマとか。塩と行者にんにく、ノビルなんかを刻んで混ぜたら大変おいしい。これは高級料理ですよ。フランスでもトルコでも、どこの国でも脳みそ料理ってのは高級でしょう。アイヌのように火を通さないで食べる文化がどれくらいあるかはわかりませんけど。

——当時の味付けは主にどんなものだったんでしょうか。

塩は使っていましたが、東北や関東の人が使う塩の使い方ではないので、やっぱり薄味です。どちらかというと、脂で味付けするんです。肉や野菜を煮て浮いてきた脂をすくって取っておいて、別の料理に混ぜたりかけたりして食べるんです。味付けは脂の中に溶け込んでる塩味ということになるから、現代の私たちの感覚からすると、すごく薄く感じるかもしれませんね。

ただし、それは昔の世代の話で、今のアイヌは子どもの頃から味噌味、しょうゆ味で育っています。今の世代でアイヌ料理が薄味という感覚を持っている人はいないんじゃないかな。

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