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北朝鮮をほうふつとさせるトランプの自作自演外交 - 海野素央 (明治大学教授、心理学博士)

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(BluIz60/gettyimages)

今回のテーマは、「米中関税戦争と北朝鮮の新たな挑発」です。ドナルド・トランプ米大統領は、2020年米大統領選挙における選挙戦略の中心に、中国、北朝鮮、イラン及びベネズエラの4カ国を位置づけています。

言うまでもなく、中国との貿易摩擦は支持基盤である米中西部の白人労働者の支持層を固めるために利用できます。北朝鮮の核・ミサイル問題は、歴代の米大統領が解決できなかった難題であると主張して、それに取り組んでいるリーダーとして自分を描くために活用できます。

一方、イラン核問題は票に直結します。イスラエルを全面的に支持し、イランを徹底的に敵視すれば、ユダヤ教徒とキリスト教右派の票獲得につながるからです。ハイパーインフレーションに直面している社会主義のベネズエラは、民主党候補を社会主義者とレッテルを貼り、「彼らが勝利を収めると米国はベネズエラのように経済破綻する」と議論をするのに好都合な国です。

本稿では、米中関税戦争と北朝鮮が発射した短距離弾ミサイルの問題を20年米大統領選挙と関連させて述べます。

トランプが中国に態度を一変させた他の理由は何か?

トランプ大統領は5月8日、南部フロリダ州パナマ・シティ・ビーチでの支持者を集めた集会で、「中国が約束を破った」と語気を強めて語りました。ロイター通信によると、中国側が米国企業に対する技術移転の強制及び知的財産権の保護等を含んだ合意文書案に大幅な修正を求めてきたからです。

中国との貿易交渉が物別れに終わると、トランプ大統領は同月10日、2000億ドル(約21兆9380億円)相当の中国からの輸入製品に対する関税を10%から25%に引き上げました。

ただトランプ大統領の言動を観察すると、関税引き上げに踏み切った理由は中国が再交渉を要求してきたことのみではありません。いわゆる「バイデン・ファクター」が、中国に対する強硬姿勢に少なからね影響を与えています。

ジョー・バイデン前副大統領は4月29日、ペンシルべニア州ピッツバーグで大統領選挙出馬宣言を行い、中西部におけるトランプ支持の白人労働者の切り崩しに向けて本格的に選挙活動を開始しました。バイデン氏は集会でトランプ大統領の大型減税に触れ、白人労働者に向かって「生活が豊かになったと実感していますか? もちろんしていません」と呼びかけました。

縄張りを荒らされたトランプ大統領はただちに、バイデン批判を自身のツイッターに連続で投稿しました。同じ民主党のピート・ブティジェッジサウスベンド市長(インディアナ州)、べト・オルーク元下院議員(テキサス州)及びカマラ・ハリス上院議員(カリフォルニア州)等が大統領選挙に出馬した際には、トランプ氏は彼らに対して敏感な反応を示していません。

バイデン前副大統領は「中国は我々の競争相手ではない」と明言し、トランプ政権の対中政策も非難しました。米ワシントン・ポスト紙やFOXニュースなどの主要メディアはこの発言を取りあげ、トランプ、バイデン両氏の中国に対するアプローチの仕方の相違を明確にしています。

トランプ大統領はFOXニュースとのインタビューで、バイデン氏のトランプ政権の対中政策に関する批判について「ペンス(副大統領)はそのような発言をしない」と回答する場面がありました。同ニュースの女性記者が発言者を「前副大統領」ではなく「副大統領」と述べて質問をしてしまったからです。

このミスコミュニケーションは、トランプ大統領にバイデン前副大統領を一層意識させることになりました。トランプ氏は自身のツイッターに、「中国が再交渉を試みた理由は、ジョー・バイデンと交渉ができるという誠実な希望があるからだ」「中国は寝ぼけたジョー・バイデンか他の候補が2020年大統領選挙で勝利することを夢みている」とつぶやきました。

トランプ大統領がバイデン氏と中国をリンクさせて投稿する意図は、同氏と同国を「悪者」に仕立てて、白人労働者の票が流れないように阻止することです。

トランプ大統領のバイデン前副大統領に関するツイッターの投稿は止まりません。トランプ氏は20名以上が立候補し乱立状態にある民主党大統領候補指名争いは、バイデン氏とバーニー・サンダース上院議員(無所属・バーモント州)の2人の戦いになると投稿しています。最終的にバイデン氏がサンダース氏を破ると予想しました。

となると、仮にバイデン氏が民主党の大統領候補に指名された場合、トランプ大統領は同氏のトランプ政権の対中政策批判に反応し、来年11月3日の投票日まで中国に対して「弱い取引」とみなされる交渉は決して行わないということになります。

北朝鮮の短距離弾頭ミサイルはトランプだけに対するメッセージか?

北朝鮮は5月4、9日に、複数の飛翔体の発射実験を行いました。トランプ大統領はホワイトハウスの記者団からの質問に、「深刻だ。誰も喜んでいない」と述べました。米ABCニュースで安全保障問題を担当しているマーサ・ラダッツ記者は、トランプ大統領が批判のトーンを強めたと報道しましたが、同大統領は「(北朝鮮との)関係は継続する」とも語っています。

米国防総省は9日、飛翔体は短距離弾道ミサイルであったと確認しましたが、案の定、トランプ大統領は問題視しませんでした。米政治サイト「ポリティコ」とのインタビューの中で、「短距離ミサイルであって、極めて普通なものだ」と答え、許容範囲であるというメッセージを送ったのです。加えて、「(金正恩朝鮮労働党委員長との)信頼関係が崩れたとは考えていない」と語りました。

ハノイでの2回目の米朝首脳会談が物別れになったので、交渉再開を望む北朝鮮がいらだって、挑発行為に出たと解釈できます。仮にそうであるならば、北朝鮮はトランプ大統領にメッセージを発信したということになります。

しかし、北朝鮮が短距離ミサイルの発射であればトランプ大統領は許容し、金委員長との信頼関係の維持を重視するだろうと読んでいたならば、北朝鮮は一体誰にメッセージを送ったのでしょうか。

率直に言ってしまえば、安倍晋三総理です。無条件で日朝首脳会談開催を強く希望している安倍総理の足元を見ている北朝鮮は、短距離弾道ミサイルを保持していることを認識させ、条件付きの会談開催を迫っているのでしょう。

その条件とは、文在寅韓国大統領が米国との仲介役としての機能を果たさないので、トランプ大統領とコミュニケーション・チャネルが太い安倍総理にその役割を担わせることです。

そのうえで、日朝首脳会談開催ないし拉致問題解決と、トランプ大統領への「経済制裁」解除要請をバーターにすることです。安倍総理がこの条件を呑まなければ、北朝鮮は即座に首脳会談を実現しないかもしれません。

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