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小中一貫の残像? 武蔵野市民科って何?

 武蔵野市教育委員会は、武蔵野市民科を小学5年生か中学3年生までの授業のひとつとして2020年度に試行実施を検討している。市民科とは何か? そもそも必要なのだろうか?

 武蔵野市民科は武蔵野市が独自に行う教科だ。2019年3月の市議会文教委員会に行政報告があり、市のサイトには、武蔵野市民科カリキュラム作成委員会のページが設けられ、策定過程と教員向け手引が公開されている。

■武蔵野市民科の必要性

 その武蔵野市民科の概要を委員会議事録や資料からまとめてみる。

【経緯】
・武蔵野市民科カリキュラム作成委員会を設置し、平成29年10月から年5回ずつ、2年間で計10回開催し、武蔵野市民科をつくる必要性、市民科の目標と、市民科で育みたい資質・能力、市民科で学習する内容などの検討を進めてきた。
・検討結果を教師に伝えるために手引としてまとめた。

【必要性】
・第五期長期計画にシチズンシップ教育の推進が記載されている。
・第二期学校教育計画でも、市民性を高める教育が施策として位置づけられている。
・各学校で、自立・協働・社会参画を視点とした市民性にかかわる内容を意識した指導や、児童会・生徒会活動など自治的活動を推進している。
・武蔵野市は、市民参加の風土があるためこの市民性を高める教育をさらに進めていくことが重要である。
・現代社会はグローバル化、情報化、技術革新などの急速な変化にさらされる複雑で予測困難な時代となっており、新学習指導要領では、この予測困難な時代を生き抜いていける子どもを育てることを目指している。
・小中学校間の系統性を考え計画を立てることで小中連携をさらに促進できる。
・教育課程に位置づけることで、市民性を高める教育の重要性を保護者や地域の方々にアピールしやすくなり、協働体制の構築につながる。

【武蔵野市民科の目標】
・武蔵野市民として、自己・学校・地域・社会の中から課題などを見付け、解決しようと取り組むことで、自他共に幸福な人生の創り手となるために必要な「自立」「協働」「社会参画」に関する資質・能力を育てる。

■今でもやっていること

 シチズンシップ教育や自分で課題を見つけ出し解決しようとする取り組みは否定しないし、やっていくべきことだろう。

 しかし、そもそも総合的学習でやってきたことではないだろうか? 社会や道徳、中学では公民の授業でも対応できることではないか。市民科ができることで、何が変わるのかが現状では良くわからない。

 ある現場の教師に聞いても、今までの授業でやってきた内容で、改めてやる理由が分からない。また、話が急すぎる。なぜ5年生からやるのかも分からないと困惑していた。

 このことを考えると、新たな教科として行う意味があるのだろうかと疑問を持つ。

■どうやって評価するか

 さらに教科であるため、5段階などで評価することになる。
 道徳を評価することへ、何をどう思うかの気持ちに優劣をつけるのかの課題があるなか、さらに、どのように評価できるか判断ができない教科が増えてしまわないかの疑問も出てくる。

 例えば、この児童は、武蔵野の市民性が「1」と評価するのだろか?

 文教委員会でこの課題を指摘されていたが、その時の答弁では、5、4、3、2、1とかA、B、Cの評価はなじまない、今後、研究をしたいとしていた。
 また、総合的学習と連携して行うことが考えられており、その場合、総合的学習の評価と市民科の評価を二つ行うのか、同じ評価を2つの教科に書き込むのかの課題も出てくるとしていた。
 つまり、どのように評価することが決まっていないことになる。

 委員会では、なぜ武蔵野市民科なのかの質問もあり、他の自治体でも市民科という言葉を使っているため、武蔵野市独自の内容とすることからこの名称を使う旨の答弁があった。
 他の自治体とは、品川区が有名であり、その品川区の小中一貫教育のカリキュラムの目玉でもあったのが市民科だ。

■品川区の市民科

 品川区の「市民科」は、「道徳」、「特別活動」、「総合的な学習の時間」の内容を関連づけ、『人間形成』を目的にしたものだ。1学年(小1)から9学年(中3)まで授業があり、標準授業時は、1~4年生は年間85時間(平均週2時間)、5~9年生は105時間(平均週3時間)が設けられている。

 内容は、「あいさつの励行」、「感謝の気持ち」、「正しい行動」、「心を伝えるマナー」、「食事の作法」、「きまりの意味」、「福祉への取り組み」、「社会における正義」、「地域社会への貢献」などとなっている(品川区教育委員会市民科教科書のページより)。

 それぞれ体得していくことは必要とは思うが、ひとつ間違えると特定の価値観を押し付けるのではないかと危惧してしまう。実際にはないとは思うが、政治的な意思が働くことへの懸念も残されるのではないだろうか。

 武蔵野市民科は品川区の市民科とは違うとこれまでに説明されているが、ではどうなるか? 現状では検討中であり明確とはなっていない。

■教師の多忙化を加速?

 実際にどの程度の授業時間を想定しているかを見ると、資料には、「一単元以上」と書かれていた。一単元とは40~50分程度の授業のことで、一年間での時間数だ。一年間に一時間で上記の内容を学べるのかの疑問も出てくる。

 目的を達成しようと考えれば、実際にはもっと時間数は増えるだろう。そうなると、教師の多忙化に拍車がかかることは言うまでもない。すでに小学校では英語が導入されているのに、武蔵野市が独自の教科を増やすことになる。

 小中連携はしていくべきだし、そのために本当に必要なら教科は必要だろう。しかし、教師の多忙化を改善しようとしているさなかに、新たに教科を増やすことは、多忙化をより悪化させることにならないか。このことが最も懸念される。

■施設はやらないが中身は残った?

 武蔵野市の市民科は、施設一体型小中一貫教育を検討しているさいに、小中連携の象徴的な授業として明らかになってきた。

 しかし、武蔵野市の小中一貫教育については、一部の議員以外は否定的で現実的にできるのかの問題もあり、2018年12月に「実施するべきでない」との答申が出され、断念する方向性が示されている。

 この方向性は、施設一体型の小中一貫校であり、いわば物理的な校舎としてやらない方向性が示されたものだ。だが、実は、その中身、ソフトとしての一貫教育は断念されず、まだ生きのこっていたかの印象を持ってしまう。
 
 今年度は、内容を検討するとしている。内容とともに、本当に必要なのかが問われてきそうだ。

【参考】
武蔵野市民科カリキュラム作成委員会 

※画像は、同委員会資料より

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