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叱らない!教えない!でも子どもは育つ。大切なのは「ふざけ」「いたずら」「ずる」「脱線」 超進学校の『奇跡の教室』とは - おおたとしまさ

「神奈川御三家」と称される超進学校・栄光学園中学高等学校に、「イモニイ」こと井本陽久というカリスマ数学教師がいる。

【写真】イモニイの授業の写真を見る(全4枚)

 東大合格者数では全国トップレベルの超進学校に在籍してはいるが、イモニイのチャームポイントは、大学受験指導にあるのではない。「21世紀のグローバル人材を育成する」なんてお題目はこれっぽっちも掲げていない。「イケメンすぎる数学教師」という評判も、残念ながら聞かない。

 それでもイモニイの授業には、全国の教員やカリスマ塾講師が「一目見たい」と見学に訪れる。そして一様に感動して帰っていく。授業を受ける生徒たちの躍動感が違うのだ。まるで魔法だ。

 イモニイは宿題を出さない。市販の問題集をやらせたりということもしない。それでも教え子には、数学オリンピックや数学甲子園の上位入賞者や世界で認められた思考センス育成アプリの開発者などがぞろぞろいる。


自らも栄光学園中高出身。東京大学卒業後、母校に赴任した

ナメられそうなのに、ナメられない。それが不思議

 私は6~7年にわたってイモニイの教育現場を取材してその成果を『いま、ここで輝く。』という書籍にまとめた。そこでわかったことがある。

 イモニイの魔法の秘密の1つは、実は、生徒との対等な関係性にある。その安心感の中でこそ、子供たちは最もよく学び、結果を出し、大きく成長するのだ。

 栄光学園の生徒たちにイモニイの「評判」を聞くと、こんな答えが返ってくる。「生徒への愛が普通じゃない」「自由なひと。生きていればそれでいいじゃんと本気で言ってくれる」「夢中にさせる名人」「生き方がかっこいい」「ツッコミどころ満載で、生徒からナメられそうなのに、ナメられない。それが不思議」。

 世間には、年頃の子どもの傍若無人なふるまいに頭を抱える親御さんも多いことだろう。悪態をつく生徒にどう対処していいのか戸惑う教員も多いはずだ。そこで、イモニイに、子どもたちとのコミュニケーションのコツについて聞いた。

大切なのは「ふざけ」「いたずら」「ずる」「脱線」

——思春期の生意気な子どもたちを前にしてもイモニイは怒鳴ったりしないじゃないですか。そんなんで生徒指導できるのかと思うひとも多いと思うのですが。

「そもそも子どもが『ふざけ』『いたずら』『ずる』『脱線』をしているときは、いちばん自分の頭で考えているときなんです。それをむやみにストップしてしまうのはもったいない。むしろそれを活かさないと。一般的には悪いとされることのなかにも、子どもの良いところを認めるようにすると、子どもはどんどん自分で考える子になっていきます」

——よく「ありのままの子どもを認める」って言いますけど、いきなりありのままを認めるって言われても、普通のひとは何からしていいのかわかりませんよね。いわゆる「悪さ」のなかにも子どもが本来もつ輝きを見いだそうとすると、それだけできっと子どもを見る目が変わって、いつの間にかありのままを認められるようになりそうですよね。

「でも状況によっては僕も全然怒りますよ。個々はきちんとしていても集団になると全然ダメっていうことあるじゃないですか。考えて『悪さ』をしているというよりは、考えないで堕落して行くみたいな。そういうときに注意とか、ハッとさせるとかは、全然使えばいいと思っているし。まず、『怒る』っていうのはアリだと思うんですよ。『怒る』っていうか、『叱る』か。そうじゃなくて、人格を攻撃しちゃったりとか。それ、できちゃうじゃないですか、ひとって。そういうときに、自分の怒りを正当化しないっていうことのほうが大事だと思うんですね。だから僕も全然ありますよ。ひとよりは少ないと思うけど」

「難なくできていることを指摘してあげる」

——先生が睨みをきかせて威圧するみたいなのはアリ?

「それが得意で、それによって生徒が安心するならアリじゃないですか。僕の場合はそういうのが下手だからやりませんけど」

——イモニイは子どものやる気を引き出す名人ともいわれていますけど、コツは何ですか?

「子どものやる気を引き出したいなら、いま難なくできていることをどんどん言ってあげることですね。絶対にそこですね。本当にささいなことでいいので、その子が当たり前のようにやってしまっていることを指摘してあげると子どもは変わりますよ。逆に、褒めることが目的になってしまうのも危険なんですけどね。あるサマースクールに参加したときに実際に見たのですが、ただうるさく大げさに褒めているひとがいました。どこかで習ってきたんでしょうね。でも全然子どもに響いていないんです。子ども見てたらわかると思うんですけど……。見ないで褒めてる。褒め方のパターンがあって、ハウツーになっているんですね。ファストフード店の『いらっしゃいませ~』みたいに」

顧問をしているサッカー部ではイライラして怒ることも

 栄光学園から東大に進学し、母校に就職。30歳で「授業の職人になる」と決めた。40歳で、「授業人として飛び回りたい」と思った。自分の信じる授業を世に発信しようと決めたということだ。そして50歳。いまの心境は「どんな子どもを見ても心の底から『魅力的だなぁ』って思えるようになりたい」ことだと言う。

 イモニイでもまだときどき、負の感情を抱くことがあるというのは意外だった。長年取材しているが、イモニイのそんなところを私自身は見たことがないからだ。本人も、「授業のなかで怒鳴ったりってことは、もうまったくないですね」と言う。

「たぶん、栄光学園に入ったときといまを比べたら、かなり進歩していると思います。新米のころは、生徒の言動を『許せない』と思ってしまったこともあったと思うんですよ。毎週のように通っている児童養護施設の子どもたちにしたって、かわいいことばっかり言うわけじゃないじゃないですか。ときどきホントにひどいことを言われたりするけれど、一度関係ができちゃうと、本当は自分を見てほしいだけなんだなとわかるからイライラしない」

 でも顧問をしているサッカー部では、まだ未熟なところが出てしまうことがあると告白する。

「勝利至上主義とかそんなことは全然ないんですけれど、つい熱くなってしまうことがあります。ときどきイライラが抑えられなくなって、怒っちゃうんですよね……」

 教室とフィールドの違いは何か。

「僕、サッカーの経験はないんです。技術的なこととか戦術的なこととかは自分なりに勉強しましたけれど、やってみせることができない。だから基本的にサッカーには自信がない。それでも、できない生徒たちを目の前にして『できるようにしてやらなきゃ』という“責任感”が強くなると、今度は彼らをコントロールしたくなっちゃうんです。それでうまくいかないと、イライラしちゃって、つい怒ってしまうことがある」

 ということは、いまイモニイが教室のなかで小言を言ったり怒ったりしなくなったのは、年をとって人間的に丸くなったからでもアンガーマネジメントを身に付けたからでもなく、数学教師としての技術に自信がもてたからだ。技術的な裏付けなしに、聖人のようには振る舞えないのである。

大人がイラッとするのは、そこに自分自身の弱さがあるから

 そう考えると、わが子を思う親がつい子どもを追いつめてしまうのも仕方がないとわかる。要するに、親としての自信がないのだ。当然だ。ほとんどの親が、親として新米のまま親の役割を終えていくのだから。だからといって自分の怒りを正当化してはいけないと、イモニイは言う。

「自分がイラッとしてしまうということは、そこに自分の中にもある弱さを見いだしているはずなんです。だからイラッとしてしまうんです。その子の中にある未熟な部分、弱い部分を認めてあげることは、結局は自分自身の中にも同じくある未熟な部分、弱い部分を認めてあげることになるんです。だから僕は、『子どもたちのことを承認する』なんて言っていますが、実は、子どもたちを通して自分自身を解放させてもらっているんだと思うんです」

 要するに「情けは人のためならず」である。教師自身が解放されないうわべだけの「承認」ではダメだという意味でもある。

「世の中にはきっといろんな子がいて、僕なんかではまだ受け入れられない子もいると思うんだけど、そういう子を見ても、『本当にかわいいな、最高だな』って心から思えるようになりたい。いろいろな子どもと出会いたい」

 まず大人自身が自分の“弱さ”を認めることができれば、子どもの“ダメ”なところにいちいちイライラしなくてすむようになる。逆に言えば、子供の未熟さにイライラしてしまうということは、大人自身が自分の未熟な部分を直視できていないということ。自分の未熟さを棚に上げて子供にだけそれを直させようと考えるのは、少々虫が良すぎるというわけだ。

(おおたとしまさ)

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