記事

夫婦間の接触禁止に関する特別抗告

1/3

 4月25日付保釈許可決定に付された、妻との間の接触禁止条件について私どもは国際人権規約に違反するとして東京地裁に準抗告の申立てをしましたが、同地裁刑事第15部はこれを棄却しました。本日、この棄却決定に対して最高裁判所あてに特別抗告をしました。

保釈許可決定に対する準抗告棄却決定に対する特別抗告申立書


 弁護人らは東京地方裁判所裁判官島田一がなした本年4月25日付保釈許可決定に付された保釈条件のうちキャロル・ナハスに関する部分を取り消すことを求めて準抗告を申したてた。同裁判所刑事第15部(裁判長裁判官楡井英夫、裁判官小野裕信、同岩瀬みどり)は、準抗告を棄却する決定をした。次に述べるとおり、この決定は日本国憲法に違反し、かつ、市民的及び政治的権利に関する国際規約にも違反するものであって、著しく正義に反するものであるから、その取り消しを求めて特別抗告を申し立てる。

申立ての理由

1 原決定は条約及び国際法規の遵守義務を定めた日本国憲法98条2項に違反する
 本件は、保釈に付される条件(刑事訴訟法93条3項)として被告人が直接間接を問わずその配偶者と面接、通信、電話等を含む接触をすることを一切禁じることが許されるかを問うものである。原審において弁護人らは、この保釈条件は、自己の家族生活に対して政府から恣意的な干渉を受けない権利を保障する市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「国際人権規約」または”ICCPR”と略称する)17条に違反することを明確に主張した。

そしてまた、弁護人らは、国際人権規約17条が禁じる家族生活に対する「恣意的干渉」(arbitrary interference)に当たるかどうかの判断基準として、規約人権委員会(Human Rights Committee)の一般的見解(General Comments)や、選択議定書に基づいて提起された個別事件に関する見解(Views)、さらに、同じ権利を保障しているヨーロッパ人権条約に基づいて設立されたヨーロッパ人権裁判所の判例などが、長年にわたって繰り返し採用してきた基準である「比例テスト」(proportionality test)によれば、本件保釈条件は家族生活に対する恣意的干渉に該当すると主張した。この点についても弁護人の主張は明確なものであった。

 ところが、原決定は、弁護人らのこの疑問の余地のない主張を黙殺した。弁護人らが国際人権規約17条違反であることを明言しているにもかかわらず、原決定は、人権規約に一言も触れることもなく、「本件準抗告の申立ての趣旨及び理由の要旨は、被告人の保釈を許可した原裁判のうち***本件条件***を付した部分は不法であるから、本件条件を取り消す裁判を求めるものと解される」などと極めて曖昧な仕方で要約した(原決定1頁。強調は引用者)。原決定は、本件保釈条件が国際人権規約17条に適合するものかどうかについて全く判断していない。

当然のことながら、本件保釈条件が「比例テスト」にパスするかどうかの検討もしていない。要するに、原決定は本件に対して国際人権規約を適用することを拒否したのである。そのうえで、「被告人が、妻に対して、また、妻を介してその他の事件関係者に働きかけるなどして、罪体及び重要な情状事実に関し、罪証を隠滅するおそれがあることは否定し難い。そうすると、***原裁判が裁量を逸脱した不合理なものとは認められない」と述べて抗告を棄却したのである(原決定2頁。強調は引用者)。

原決定は、国際人権規約によって保障された権利の重要性とその剥奪が当事者にどの程度の影響を与えるのかについていかなるコメントもしていない。本件保釈条件=夫婦間の接触の全面的禁止がどのような正当な政府目的に由来するのかについて何も議論していない。そして、その正当な目的を達成するために家族生活に干渉する必要性がどの程度あるのかについても検討した形跡がまったくない。単純に被告人が妻に対して働きかけたり、妻を介して第三者に働きかけたりして証拠隠滅を図る「おそれ」が「否定し難い」からというだけの理由で夫婦間のコミュニケーションを根こそぎ奪うことを肯定したのである。

 日本国憲法98条2項は「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と定める。「市民的及び政治的権利に関する国際規約」は1979年に国会が条約として批准しそのときに効力が発生した。それが「日本国が締結した条約」であることは疑いの余地がない。そして、この条約に基づいて設立された規約人権委員会が国際規約の解釈適用を巡って評議の結果発表する一般的見解や個別的な見解、そして、広域人権条約の一つであるヨーロッパ人権条約に基づいて人権に関する裁判を行うヨーロッパ人権裁判所の先例は、憲法が定める「国際法規」の一つである。

そして、規約人権委員会やヨーロッパ人権裁判所が、長年にわたって積み重ねてきた「恣意性」に関する判断基準である「比例テスト」は、「確立された国際法規」なのである。日本国憲法を尊重し擁護する義務のある(憲法99条)日本の裁判官は、国際人権規約17条とその判断基準である比例テストを「誠実に遵守する」憲法上の義務を負っているのである。日本の裁判官はカルロス・ゴーンさんが妻キャロルさんと会うことも、話すことも、触れることも一切許さないという保釈条件が、国際人権規約17条が禁じる家族生活への恣意的な干渉に当たるのかどうかについて、応答する義務があるのである。それが恣意的な干渉に当たらないというのであれば、その理由をこれまでに確立してきた条約の解釈原理に従ってなぜ条約に違反しないのかを説明する憲法上の責任があるのである。

 日本の裁判官が国際人権規約を適用する義務を負っていることは、規約それ自体からも明らかである。規約2条は次のように定める。
1 この規約の各締約国は、その領域内にあり、かつ、その管轄の下にあるすべての個人に対し、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等によるいかなる差別もなしにこの規約において認められる権利を尊重し及び確保することを約束する。
***
3 この規約の各締約国は、次のことを約束する。
 (a) この規約において認められる権利又は自由を侵害された者が、公的資格で行動する者によりその侵害が行われた場合にも、効果的な救済措置を受けることを確保すること。
 (b) 救済措置を求める者の権利が権限のある司法上、行政上若しくは立法上の機関又は国の法制で定める他の権限のある機関によって決定されることを確保すること及び司法上の救済措置の可能性を発展させること。
 (c) 救済措置が与えられる場合に権限のある機関によって執行されることを確保すること。
 ゴーンさんは締約国である日本国の領域内にいる個人であるから、日本国は彼に対して規約が保障する権利を尊重しそれを確保する条約上の義務がある。そして、その権利の侵害に対して救済を求められたときには、「救済措置を求める者の権利が権限のある司法上***の機関によって決定されることが確保」(to ensure that any person claiming a remedy shall have his right thereto determined by judicial***authorities)されなければならないのである。日本国において「権限のある司法上の機関」とは裁判所のことである。日本の裁判所は、本件保釈条件が国際規約17条に違反して彼の家族生活に対する恣意的な干渉に当たるのかどうかを決定する国際条約上の義務を負っているのである。

あわせて読みたい

「カルロス・ゴーン」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    早朝4時に吉野家 離れられぬ東京

    内藤忍

  2. 2

    フリーで消耗 自転車操業の日々

    BLOGOS編集部

  3. 3

    慰安婦映画への陳腐な批判に呆れ

    古谷経衡

  4. 4

    丸山議員への辞職勧告は言論封殺

    小林よしのり

  5. 5

    電子決済に逆行 現金化する日本

    木村正人

  6. 6

    差別なぜダメ?倫理学者の答えは

    村上 隆則

  7. 7

    よしのり氏 山尾氏は必要な人材

    小林よしのり

  8. 8

    内定辞退で来社 採用担当は迷惑

    城繁幸

  9. 9

    田口容疑者 小嶺に誘われ大麻か

    渡邉裕二

  10. 10

    堀江氏が村上世彰氏を痛烈に批判

    女性自身

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。