記事

シンガポールのIR拡張

産経新聞が以下の様な報道をしています。


ニンテンドー・ワールド、巨大展示場…アジアのIRで日本の脅威に
https://www.sankei.com/west/news/190513/wst1905130015-n1.html

アジア各地でカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の拡張計画が急ピッチで進んでいる。シンガポールでは任天堂のゲームをテーマにした最新アトラクションなどが計画され、マカオでも大規模な国際会議場建設が進む。背景には、各国政府が施設拡張を促しているとの見方がある。将来のIR開設を目指す日本にとって、アジアのライバルの勢力拡大は脅威となりそうだ。


シンガポールでのIR拡張計画が発表されたのは4月のことでありますが、産経新聞が報じている通りこの背景にはアジア圏で進んでいるIR施設の国際競争があります。そして、目下アジアの各国が新規の競争相手としてロックオンしているのが、昨年カジノ合法化とIR導入を決定したばかりの日本市場なのです。

しかし、シンガポール政府は相変わらずクレバーですね。シンガポール政府は今回のIR拡張許可にあたって、国内カジノの税率の引き上げを行っているワケですが、同国では2022年から

・VIP向けのゲームに関しては24億Sドル(約1,980億円)以内の収益に8%、24億Sドルを超えた分に12%の課税
・一方、一般(マス)向けのゲームに関しては31億Sドル分までを税率18%、超過分に22%の課税

と税率引き上げが行われます。また、今回発表された各カジノ事業者の投資が計画通りに実施されない場合には制裁的にVIP向けに一律12%、マス向けに22%が賦課されることとなります。シンガポールの税制においては、カジノ粗利益に対してカジノ税の他に物品サービス税が7%上乗せで課されますから、実質的にシンガポールのカジノ売上に対しては最大でVIP向けが19%、マス向けが29%課されることとなるワケです。

ただ、このシンガポールのカジノ増税が厳しい増税なのかというの全くそうではないのが実態。というか、最高税率29%(マス向け)という税率自体が周辺競合国、もっといえば日本のカジノ法制論議の進捗を見守った上で慎重に決定されたもの。昨年の法律制定によって決定した日本のカジノ税はVIP・マスの区分なくカジノ売上に対して30%であり、これから引き上げられるシンガポールのカジノ税率は最高税率でもそれより1%低いという「絶妙」というか、むしろ完全に「こちらの動向を観察された上で」決定されているものであるわけです。

もっというとVIPに対するカジノ税率に関しては、日本と比較すると11%も税率に差が出来てしまっているわけで、少なくともシンガポールで現在オペレーションを行っている業者にとっては国際VIP顧客を日本に送客する必然性はないですし、日本よりもシンガポール政府が求めている新規投資を優先するに決まっている。その価額が3,700億円×2の総額7,400億円。この投資は本来、アジア圏の新興市場として国際的な注目を集めてきた日本に投じられる可能性のあった投資であったわけで、それじゃなくても数千億円のIR投資を調達できる企業は国際的にもそれほど多くない中で、その内の2社がこのタイミングでシンガポール市場への再にコミットしてしまうこととなったのは、巨額の投資を期待している日本にとっては相当の痛手であったのも事実であります。

それつけても嘆かわしいのは、こういった国際競争への意識が圧倒的に低い日本政府の無策さです。2018年成立のIR整備法の定めた「たった10年のIR認定期間に対してカジノ税率30%を課す」という我が国のIR法制の在り方は残念ながら国際競争力は全くない設定であったわけですが、その我が国の国際競争感覚の無さから生まれた「差」を、上手く埋める形でシンガポール政府は今回、カジノ税率の引き上げと事業者に対する追加投資要求を行いました。しかも、冒頭でご紹介した報道の通り、同国の新規投資では我が国のカジノ合法化とIR導入をあざ笑うかの様に「ニンテンドー・ワールド」という本来ならば日本のIRが世界に向けて打ちすべきコンテンツをゴッソリ持って行かれている。これが失態でないというのならば何が失態なのか?という様な状況になってしまっているわけです。

返す返すも、本当に「嘆かわしい」の一言であります。

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