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WTOで韓国に敗訴:禁輸解除が遠のいた宮城県産「ホヤ」の命運 - 寺島英弥

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韓国でも減るホヤの消費

「ホヤ養殖業者の3分の2以上は廃業に追い込まれるのではないか」――4月13日の『河北新報』に載った県漁協ホヤ部長のコメントだ。阿部さんも「養殖をやめる人が大勢出てくるのでは」と心配する。

 震災後、被災地の浜の高齢化も進んだ。実際に、70歳になった今年でホヤをやめると言う人が近所にいる。違う漁種へ転換する人もいるだろう。少なくとも国内市場と見合う出荷をする量に養殖を抑えていくしか、未来はない。若手が結束して復興の資源を守り、国内の市場を開拓しようと2016年9月に結成した谷川支所青年部は30~40代が中心だが、震災を契機として古里の浜に戻った仲間、まだ20代の若者もおり、個々でも青年部としてもホヤを生かし持続的に活動するための基盤をつくりたいという。

 地元でのホヤ料理イベントや直売の催し、東京の居酒屋での消費者との交流、ホヤ養殖の作業を手伝いに通った首都圏のボランティアたちを縁にした売り込みなど、阿部さんら青年部は市場開拓に挑戦してきた。

 ただ、現場を抱える生産者だけの努力での限界も感じた。青年部では地元のホヤ養殖の支援のほか、県水産部と協力してナマコの養殖実験を始め、メンバーが潜水士資格を取ってのダイビング作業で、ウニの資源化の可能性も模索する。阿部さん自身はなじみの水産加工業者と組んで「蒸しホヤ」を商品化し、ヒラメ漁にも収入の道を広げつつある。しかし全国を市場開拓で飛び回る余裕は仲間にもなく、韓国の禁輸解除が遠のいた今はなおさら、揺れる産地の未来をどう守るか、より重い責任を担うことにもなる。

「ここから韓国に輸出するようになったのは、父親とホヤの仕事を始めた18~19歳のころ。震災の10年くらい前だ。韓国で被嚢軟化症というホヤの病気で死滅が広がり、現地の業者がじかに買い付けに入ってきた」。韓国でホヤはキムチや海鮮料理に欠かせぬ食材で、業者が船で来ては海から養殖のロープ付きのまま買ったり、むき身を冷凍にして送ったりし、「地元でもホヤの生産が増えて、ホヤ養殖だけを生業にする人が出てきた」。そんなバブルのような出来事がホヤ養殖の歴史にあった。

 原発事故を契機として韓国が輸入規制を始めて8年。現地のホヤ事情はどうなったか。

『河北新報』の姉妹紙『石巻かほく』が2016年11月に韓国を取材した連載「苦境の宮城県産ホヤ」によれば、輸入規制の対象外である北海道産ホヤが代わって買われ、年々国内産の生産も回復しているが、景気低迷もありホヤの消費は減ったという。「宮城のホヤは品質が良かった。いつでも歓迎する」「震災前と同じ取引ができると思ったら大間違いだ」という2つの声が紹介されていた。

 阿部さんは数年前、福岡市のイベントにホヤ持参で参加した際の意外な出来事を語った。「若い韓国人の客が殻付きのホヤを見て分からず、『これは何だ?』と言った。韓国語で『モンゲ』(ホヤ)と答えると、『アー、モンゲ、モンゲ』と思い出した」。震災、原発事故の後の「食」の意識の変化もあっただろう。「韓国には、既にホヤの味を知らない世代が多くなったのではないか。商業捕鯨が禁止(1982年)されてから、石巻など沿岸捕鯨基地のあった地元を除いて、日本でクジラの味が忘れられたように」。

危機をチャンスにする挑戦

 5月3日、「宮城げんき市」と銘打つイベントが仙台市中心部の勾当台公園で催された。大型連休中の家族連れや観光客を集めたのが、目玉の「ほや祭り2019」。五月晴れの市民広場にずらりと並んだテントには、ホヤを食材にしたオリジナル料理の出店が23を数えた。

「ほや汁」、「ホヤあんかけ」、「ほやごはん」、「ホヤフライドポテト」、「ほやたまご」、「ホヤと夏野菜のガーリックオイル和え」、「ほや焼きそば」、「ホヤピザ」、「ホヤソーセージ」、「ホヤみそ漬け炭焼」、「春セリのホヤスープ」……。鮮やかなのぼりを競う出店ごとに行列ができ、いくつも巡って味比べをする客のにぎわいが、地元でのホヤの人気を物語った。WTOでの日本敗訴のニュースも、「宮城のホヤ」を消費者側から応援する気分を盛り上げたようだ。

多彩な創作料理が集った「ほや祭り」。地元での関心は高まっている=5月3日、仙台市の勾当台公園

 ひときわ長い30~40人の行列ができたのが、「ほや唐揚げ」ののぼりを立てたキッチンカー。塩竈市で2017年11月に店開きした「ほやほや屋」の社長、佐藤文行さん(59)が自ら厨房でホヤを揚げていた。自然な塩味と濃厚なうまみ、フライの香ばしさを1つにした創作料理で、店の一番人気という。キッチンカーに掲げた「とり唐を食ってる場合じゃねえぞ!」とのキャッチフレースも大げさでない、新発見の味である。「ホヤは生食が最高だと固まった発想でいる人が多い。それで鮮度の落ちた刺身や酢の物を食べ、『ホヤはこんなもの』と誤解してきた。東京など遠い所の人ほどね。そんな固定観念を打ち破りたい」と佐藤さんは語る。

 水産加工業の社長から転じてホヤの斬新な創作料理をヒットさせた佐藤さんを、『韓国「禁輸」石巻名物「ホヤ」復活を目指す「若手漁師」らの奮闘』でも紹介させてもらった。WTOの成り行きも注目しており、「日本の敗訴は明らかな油断。1審の結果から『これで大丈夫』という空気になった。禁輸が続けば、日本の鯨と同じように韓国のホヤの食文化が薄れていき、戻って食べる人も少なくなる」と言う。「それより、皆でホヤを地元宮城の名物に育てるように動こう。仙台の牛タン、ずんだ餅は有名になったが、材料は海外に頼らざるを得ない。ホヤは100%地元産。敗訴を嘆く前に、問題を解決していけるはずだ」

 佐藤さんは「ホヤの伝道師」と呼べるほどの活動ぶりだ。宮城県麺類飲食業生活衛生同業組合から招かれて、唐揚げと天ぷらを出席者に試食してもらい、「『ほや天そば』を名物にしよう」と提案した。中華料理の業界誌の取材では「海鮮系の具材にすれば抜群の存在感になる」とアピールし、北海道のキムチ製造業者とは「ほやキムチ」の開発で商談が進んでいるという。「カキも宮城の名産だが、生ガキが苦手でもカキフライは大好きという人がいる。ホヤが苦手な人も、ホヤの唐揚げを一度食べればファンになってくれる。行列のお客さんがそう。うまいものは誰でもうまい。ミネラルをはじめ栄養価も抜群だし、おいしい食べ方をどんどん提案することだ」

JR仙台駅の土産店にも並び始めたホヤの加工品

 石巻や女川町の養殖業者、近接の水産加工会社とじかに提携し、水揚げ適期の情報も「LINE」で共有し、むき身をすぐに冷凍保存する仕組みを開発した。日本中どこへでも最高の鮮度で届けるという。東京、大阪など各地でホヤ料理のイベントを企画し、ホヤを愛する人のクラブも催す。「西日本のほうが、いい評判をもらえる。ホヤを知らない人が多いから。まだまだ未開拓の新天地ばかり。むしろWTOでの敗訴を起爆剤にして、生産から料理までホヤに関わる人がつながり、生粋の宮城の特産品に育てたい」。

 暗いニュースに落胆せず、政府も当てにせず。危機をチャンスに変える発想こそが、被災地を救うか。

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