- 2019年05月15日 13:56
スポーツにおける“男らしさ”とは何か――伝説のフィギュアスケート男子金メダリストの栄光と孤独 / 映画『氷上の王、ジョン・カリー』監督インタビュー
2/2──カリーは、1987年にHIVと診断され、1991年にエイズ発症し、1994年4月15日にエイズによる心臓発作のため44歳でなくなっています。劇中の演目、ジャン=ミッシェル・ジャールの曲『軌跡(EQUINOXE)』を使った演目『バーン』ですが、パフォーマーが全員、赤と白の衣装を着ています。あれを見たとき、白血球と赤血球のように感じたのですが……。
僕もそう思ったんだ。あれを見たとき、頭に浮かんだのはまさにそのことだった。観客にもそれを感じてほしくて、あの映像を使ったんだ。当時、彼の友人たちが(HIV末期に発症する)カポジ肉腫で死にはじめていた。ニューヨークの彼の仲間たちも死んでいて、彼の友達が感染していたこともわかっている。だから、間違いなく意識的に決めた衣装だと思うよ。

──日本においても映画『ボヘミアン・ラプソディ』(日本公開2018年11月)が大ヒットしましたが、カリーと同様にエイズで早逝したイギリスの同時代アーティストを描いた映画が、時をほぼ同じくして公開されたことについてどう思いますか?
セクシュアリティの物語を社会が受け入れるようなったんだと思う。ドキュメンタリーに限らず、ドラマでも多くなってきてるよね。実話への関心が高まっていることが、僕には興味深い。映画は、ニュースを見るだけではできない感情移入が可能になる。たとえ自分が主人公とまったく異なるアイデンティティーだったとしても、映画はその人の身になって感じることができる。
──日本でも人気の高い、スケーターのジョニー・ウィアーは映画の中で「カリーが僕を創った。ありのままでいられる僕を」と語っています。
ジョンは1970~80年代に活躍した過去のスケーターだから、映画にはジョンから影響を受けた現在のスケーターを出したいと考えた。ジョニー・ウィアーのこれまでの発言を調べてから連絡を取って、なぜジョン・カリーの映画を作りたいか、その理由を伝えたんだ。ジョンがアスリート兼アーティストとしてスケート界で成した功績は、世の人々の記憶にとどめておかれるべきことだとね。「ついては、ジョンが与えたインパクトについて、ぜひ映画の中で語ってほしい」とジョニーに頼んだ。
彼もジョンと同じく、ゲイである自分を表現するために闘ってきたスケーターだからね。彼が練習しているスケートリンクがあるアメリカのデラウェアまで撮影しに行った。彼はとても協力的で、滑っているシーンとインタビューに半日も時間を割いてくれた。
この映画は何かを成し遂げ、その努力を目撃する世界の目を変えた人間の話なんだ。とてつもない功績だよ。映画の中には盛り込めなかったけど、ジョニー・ウィアーがインタビューでこう言った。「自分の足跡を残すことは、世界で最も大変なことだ」。カリーはそれを成し遂げ、偉大なアートを作り上げたんだ。

ジェイムス・エルスキン James Erskine
英国生まれ。オックスフォード大学で法律を学んだ後、脚本家・映画監督に転身。BBCアーツで映像作りをスタートした。2001年にBBCで放送されたドキュメンタリー番組『Human Face』がエミー賞にノミネートされる。長編映画デビュー作となったサイコスリラー『EMR』(2004/ダニー・マカルーとの共同監督)で、レインダンス映画祭審査員賞やワシントンDCインディペンデント映画祭観客賞などを受賞。人気BBCドラマ『秘密情報部 トーチウッド』(2006)や『ロビン・フッド』(2007)では数話の監督を担当。2009年に映画制作会社ニューブラックフィルムズを設立。代表作は、1990年のワールドカップイタリア大会を描いた『One Night in Turin』(2010)、早逝したロードレーサーのマルコ・パンターニを追ったドキュメンタリー『パンターニ/海賊と呼ばれたサイクリスト』(2014)、伝説的なクリケット選手サチン・テンドルカールを描いた『Sachin: A Billion Dreams』(2017)など。スポーツや芸術の感動の裏側に秘められた物語や社会・政治問題をテーマにしたドキュメンタリー作品を得意としている。
映画『氷上の王、ジョン・カリー』
2019年5月31日(金)、新宿ピカデリー、東劇、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
(c) New Black Films Skating Limited 2018 / (c) 2018 Dogwoof 2018




