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政治リスク・コンサルタントに聞く「ムハンマド皇太子」という「中東リスク」 - フォーサイト編集部

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――サウジ国民は、MBS皇太子やハーショクジー事件をどう見ているのでしょうか

サブラ もちろん国民の中には、MBS皇太子の改革を「良し」とする人とそうでない人と両方いますが、必ずしも人気があるとは言えません。

 とは言え、サウジは民主主義国家ではないので、民衆がどう思っているかによって政治が動くわけではありません。政治はあくまで、ごく一部のエリートの間で起きる競争によって支配されている。

 一般国民にとって重要なのは、国が安定しているか、きちんと先が見通せているか、どのような将来があるかということ。それ以上のことは、あまり期待しません。

ホーズ 国民と一口に言っても、地域によってさまざまですからね。たとえば西部、南西部の人たちの多くは王室と血の繋がりがないので、自分たちとはまったく関係のない出来事として王室を見ている。中部及び北部の人たちは、王室と血縁関係になくても同じ苗字だったりして、親近感を持っている。彼らは自分たちの問題として王室を見ています。さらに南部や東部には、国民の15~16%しかいないシーア派の人たちが暮らしており、彼らはまた違った視点で国の出来事を捉えている。

 ですので、同じサウジといえども、中部のリヤドと西部のジッダでは王室への関心度がまったく違います。

 そのうえでお話しすると、MBS皇太子のキャンペーンは手っ取り早く若者の人気を得られる一方で、必ずしも広く支持されているわけではありません。彼のやろうとしていること、たとえばガソリンへの補助金カットや女性の社会進出は、どれも政策的には正しいですが、本当に実現できるかどうかは甚だ疑問です。

 なぜなら、彼の改革案の多くは、サウジ国内で前々から必要性が叫ばれていたにもかかわらず、これまで誰も実現できずにきたことだからです。国のシステムを変えるのは容易ではありません。

 また、サウジの人口の年齢分布は現時点でも極端に偏っており、65歳以上が5%以下です。今後も更に若年化の方向に進み、2025年には労働年齢人口が全体の70%を超え、それが長いあいだ続くようになります。この割合は、国際的にみても高い数字です。今後、労働人口は増えていく一方なのに、それに見合った仕事が社会にない。若者の多くには、就職に必要な技能もない。この人口動態と雇用問題にどう対応するかが、サウジの喫緊の課題です。

 だからこそMBS皇太子はいろいろな改革を行おうとしているわけですが、後述するように、これまでのサウジの歴史に照らしてみると、実行するのは非常に難しいと言えます。

――MBS皇太子は石油依存の体質を変える1つの方策として、サウジアラムコのIPOによる投資収益の獲得を掲げています。しかし、昨年8月に延期が決まり、事実上の中止とも言われている。どう判断しますか。

ホーズ 中止はされていない、というのがサウジの公式的な見解です。最近も、エネルギー担当大臣のハーリド・アル・ファーリハ氏が「2021年から2022年にはIPOを行う」と発言していました。しかし……(苦笑)。

 私が思うに、MBS皇太子の最大の問題の1つは、実務経験がないことなのです。サウジの一政府機関すらマネジメントしたことがないのに、ある日、突然、すべてをマネジメントする立場になってしまった。それは歴代の皇太子にはなかったことです。

 彼は、サウジのいろいろな機関や官僚がどのくらい機能していないかということを知りません。いかにもメイクセンスなことを言うのだけれども、それは机上の論理であって、現実的ではない。実際にできるかどうかが判断できないことに、彼の限界がある。

 サウジアラムコの問題についても同じことが言えます。彼はこの会社がどれほど複雑に成り立っているかということを分かっていなかった。恐らくいまもそうでしょう。本体である上流部門以外に、子会社をあわせると200社ほどあり、事業内容も石油から化学、ITまでさまざまです。しかも、子会社の大多数は基本的には赤字で、一般的な上場企業とはまったく違うシステム、会計でマネジメントされてきました。

 それをいきなりIPOで一部の株を売却しましょうと言っても、そもそも国際的な基準に沿うような経営をしていない。そのことを彼はおそらく知らなかったのでしょう。

 過去40年ほどのサウジを見ていると、たとえ問題があると分かっていても、アクションを起こそうというコンセンサスがなかなか取れませんでした。何かを1つ決めるにしても、40~50人の王子が全員合意しないといけない。しかも、彼らの下にはもう40~50人、それぞれのブレーンがいる。これら全員の意見がぴったり一致するなどということはあり得ない。結果、さんざん議論した挙句、何も起きないというのがサウジだった。

 その体質を180転換したのが、MBS皇太子です。彼がトップダウンで物事を決め、それに誰も反論してはいけないという空気をつくっている。これは西側のメディアにあまりカバーされていないことだと思いますが、彼は40年来行われてきたサウジの物事の進め方を壊しつつあるのです。

 サウジアラムコのケースもそうです。本来なら、経営陣と話を詰め、深い議論を交わしたうえでIPOのアナウンスをすべきところなのに、何ら根回しせずにアナウンスしてしまう。とにかく自分が決めたら誰にも文句を言わせないという強引なやり方で物事を進めようとしています。

――ハーショクジー事件でトルコとサウジの関係に変化はあるのでしょうか。

サブラ サウジとトルコはもともと対立関係にあります。「ムスリム同胞団」に対する考え方の違いから、中東はエジプト、サウジ、UAE(アラブ首長国連邦)側とトルコ側とに分裂している。

 そういう構造的な対立がある中で、MBS皇太子はさほど反トルコでも反ムスリム同胞団でもなかったのですが、徐々にその方向に進んでいる傾向がありました。実際、昨年3月に訪米した際、イラン、過激派と並ぶ大きな脅威としてトルコの存在をあげている。つまり、ハーショクジー記者の事件前からトルコに関してネガティブな発言をしていたわけです。

 トルコとしては、自国でサウジの記者が殺されたとなれば、当然ながら自分たちの政治的な利益のために最大限に利用しようとしますよね。トルコ側が決定的な証拠を握り、サウジに対する脅しの材料に使おうとしてもおかしくはありません。今後、トルコにとっての目標は2つあります。1つはMBS皇太子を失脚させること。もう1つはサウジ、UAE、エジプトの対カタール包囲網をやめさせることです。

 一方、UAEとエジプトはアメリカに対して、あまりサウジにプレッシャーをかけてくれるなと言っている。そのロジックは、こうです。アメリカにとってサウジは反イランの急先鋒でもあるので、カタールと何らかの合意に達するようプレッシャーをかけるあまり、サウジの弱さを印象付けるような形で決着すると、アメリカにとっても良くないのではないか、と。アメリカにとっては、強いサウジであった方がいいのではないか、と。それで、サウジにあまりプレッシャーをかけるなと要求している。

――アメリカはハーショクジー事件の真相より、今後のサウジとの投資関係を重視するという姿勢なのでしょうか。

サブラ 答えはタイムスパンで変わってくると思います。短期的には、他に選択肢がないのでサウジとうまくやっていくしかない。報道を見ていても、事件を巡ってサウジを批判する論調でさえ、アメリカとサウジの関係は非常に大事だし今後もパートナーだという前提で、こういう困ったことがあるという書き方をしている。あくまでもサウジとの関係は良好に保つ、というのがアメリカにいま用意されている唯一の選択肢です。

 ただ、長期的にはそんなに楽観的なことは言っていられません。アメリカの中でもいろいろな意見があり、政界にも従来通りのサウジとの関係に疑問を持っている人たちが確実にいる。その一例として、2016年9月、当時のバラク・オバマ大統領が拒否権を発動した「テロ支援者制裁法」(JASTA)を、議会の上院・下院がともに覆して再可決しています。こうした見方をもつ政治家たちが今後、どれほど政策に影響していくかは、注視した方がいいでしょう。そして、言うまでもなく、2020年の米大統領選で現大統領が再選するかどうかは、アメリカと中東との関係を左右する重要なファクターです。

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