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積極的外出の勧め、室内だけで保たれる安心は人間本来ではない

高齢者のQOL維持のためにも外出支援を(写真/アフロ)

 外に出て体を動かし人と交流することが高齢者には大切であると、最近、盛んに言われるようになった。特に今の季節、すがすがしい空気を胸いっぱいに吸えばリフレッシュできるし、前向きな気分になるのは年齢問わずだが、高齢者にとってはさらに重要な意味があるという。

 介護者の外出支援技術を研究し、提案している浦和大学短期大学部特任講師の鄭春姫さんに、外出がどのように高齢者の心身に影響するのか、その重要性や効果を聞いた。

「あなたの自宅を出たところを思い浮かべてください。まず何が見えますか?」と、唐突に質問する鄭さん。

「自宅マンションの前の道を行くとよく行くコンビニ、その先には子供が通った小学校、その手前を曲がると駐車場と小さな公園もあります」と、私には見慣れた風景が鮮明に浮かび、スラスラ答えた。

「今、あなたの頭に浮かんだ風景を認知地図と呼びます。これが頭の中にしっかりあることで、実際に目的地まで迷わず行ける。また自分のいる場所に確信が持てるのです。では今日初めて来られた浦和大学の外を、同じように思い浮かべられますか?」

 一転して頭の中が真っ白になり自分でも驚く。大学までのバスの車窓から見た畑、鄭さんの研究室までのいくつかのポイントが断片的に浮かぶ以外は、まるで霧の中だ。

「認知症高齢者の頭の中も、おそらくそのようにあいまいな感じです。自分のいる場所がわからない。いつも初めて来たように見える。これはとても不安なことなのです」

 認知症の人が徘徊するのもこういった不安から、自分のいる場所を確認するため、外に出るための出口を探して歩くという説もあるという。

人は誰でもテリトリーを確かめるために外へ出たい

 認知症に限らず、足元がおぼつかなくなると、けがなどが心配で外出を躊躇し、家や施設に閉じこもりがちになる。実はこれも不安のもとなのだという。

「健康な若い人でも1週間、建物の中に閉じ込められると精神的な不調を来すことがわかっています。高齢者が外出を控えて家や施設の中だけで過ごすのも同じような状況。認知機能が衰えていればなおのこと、自分の居場所がわからなくなり、不安で意欲も失せてしまいます」

 普段、屋内外を自由に行き来している私たちは、家や施設の“箱の中”にいることが何よりの安心・安全だと思いがちだが、外出しない・できないことで、むしろ不安が募っているのだ。

「人は誰でも外に出ると、ごく自然にランドマークになるものを探します。周辺を移動しながらいくつもランドマークを作っていくことで、そこに自分のテリトリーが築かれ、初めて安心できる場所になるのです。

 認知症の人が旅行先でBPSD(*1)が悪化したり、高齢になってから転居して抑うつになったりしやすいのは、認知地図が形成されにくいことも原因の1つです」

*1(認知症の行動・心理症状。暴言、暴力、興奮、抑うつ、妄想、徘徊など、本人の性格や環境、人間関係などの影響で発症。対応や環境などの改善で軽減することもある)

 鄭さんは、高齢者の不安を和らげQOLを維持するためにも、積極的に外出支援することを提案している。

「人の生活は家の中のような狭い範囲だけで行われるものではありませんね。室内だけで保たれる安心は、人間本来の安心とはいえません。車や電車での遠出より、家のご近所散歩がよいのです。身近な場所のランドマークを増やし、認知地図の密度を上げることで安心感が増します。歩行に不自由があれば車いすでもOK。ゆっくり風景をながめながら歩きましょう」

語感を使って歩きながら認知地図の充実を

 老親を散歩に誘い、ランドマークを増やして認知地図の密度を上げるコツを聞いた。

「ただ黙々と歩いてポイントを通過するのではなく、たとえば生花店があれば『チューリップの季節だね、きれいだね』などと近寄って愛でたり、懐かしい場所を見つけたら『昔から変わらないね』と、思い出を話してみたり。だんごを焼くいいにおいがしてきたら一緒に味わってみたり。五感を使ってその場所を“体験”するといい。

 認知症で少しずつ忘れても、覚えているポイントを確認するだけでもいい。ランドマークを覚えることに固執せず、繰り返し歩けばよいのです。建物の中に比べて、外は膨大な情報量がある。認知症でなくても意識的に見ないと記憶に留まりません。それでも留まるものは、個人的な体験や、うれしい・悲しいなどの感情を伴う体験があるからです」

 また外に出ることで得られるメリットがもう1つ。

「外に出ると自ずと主体的になります。誰に言われるまでもなく、自分の見たいもの、興味のあるものを選んで目を向ける。同じ風景を複数人で見ても、選ぶランドマークはそれぞれ違ったりします。

 人は受け身でいるより、主体的・能動的でいる方が意欲が湧き、全身の機能も高まります。『外に出て誰かに会うかもしれないから身なりを整えよう』『おしゃれをしよう』と、張り合いを持てるのも外に出る効果でしょう」

 老親と並んで歩きながら、親の視線の先にあるものを探って話そう。何度も歩いた道にも、新たな発見があるかもしれない。

【Profile】鄭春姫さん/浦和大学短期大学部介護福祉学科特任講師
社会福祉学博士。介護福祉士。介護支援相談員。中国の延辺大学医学院、日本社会事業大学で高齢者福祉を学び、高齢者の外出支援、外出の効果、要介護高齢者の生活を支える介護福祉士の支援技術などについて研究。

※女性セブン2019年5月23日号

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