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特集
十人十色のはたらく論
私たちは、人生の少なくない時間を仕事に費やしています。昔から、おそらくはこれからも。ただ、昔と比べると「仕事」の持つ意味が広がり、人の数だけ「はたらき方」があるのが今の時代ではないでしょうか。私たちは今後どうはたらくか=どう生きるか、今月のBLOGOSでは、そんなことを考える特集をお届けします。

「日本男性の家事時間は10年で6分しか増えていない」社会学者・筒井淳也氏が語る、共働き社会の現実

  • 2019年05月16日 07:06
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「保育園落ちた、日本死ね!!!」という匿名のブログが日本を騒がせてから早3年。

厚生労働省の発表によると全国の待機児童の数は前年より8235人減の4万7198人(2018年10月時点)となり、4年ぶりに減少しました。

東京などの都市部では土地がないため、公園内に保育園を建設するなど、子育て環境の整備も急ピッチで進めています。

いまや夫婦の形として多数派になりつつある共働き。しかし、たとえ共働きでも、夫の単身赴任などにより、妻が仕事、家事、育児をひとりでこなす「ワンオペ育児」の家庭も多く、時間に追われる日々に夫婦間でケンカに発展することもあるようです。

共働き社会は、私たちの社会を豊かにしたのでしょうか?立命館大学産業社会学部の筒井淳也教授に話を聞きました。【石川奈津美】

100年前は子どもも労働力だった

――100年前は共働き、専業主婦の割合はどのようになっていたのでしょうか。

100年前は、家業・自営業が圧倒的多数を占めていました。つまり、妻だけではなく子どもも働いていました。たとえば、家の掃除をした場合、職場を掃除していることとほぼ同義になります。給料という形でお金が出ていたかどうかは別として、家の構成メンバー=会社の中の従業員という形が成り立っていたのです。

また、勤め上げたあとの退職も今よりもずっとゆるいものでした。「隠居」という意味で息子に仕事の主導権を譲り第一線から退くということはありましたが、会社の定年退職のように、いきなり給与がゼロになるものではなく、引退の時期も自由意志で決められるものでした。

――専業主婦が一般的なものになったのは、やはり戦後の高度経済成長期なのでしょうか。

そうですね。専業主婦の増加は高度経済成長期による工業化が、大きな原動力になりました。日本で最も専業主婦が割合として一番多かったのは1970年代です。

ただ、欧米と比べればあまり専業主婦化が進まなかったのです。ヨーロッパで専業主婦化が進んだときには1〜3割ぐらいしか働く女性がいなかったのに対して、日本では約5割の女性が働いていました。そのため、欧米各国と比べて専業主婦だらけということはありません。

地方は工業化が遅く、自営業や農業がまだ多かったので国全体としてそこまで変化がなかったということが理由に挙げられると思います。

――日本は専業主婦が諸外国よりも多いイメージだったので意外です。

一方、地域でみると、都市部は専業主婦化がかなり進んでいきました。きょうだいもたくさんいた時代、長男以外は田舎を出て都会へ働きに出ていました。次男以下の男の子どもたちが結婚相手を探す際、大抵、田舎に戻ってきてお見合いをして相手を見つけます。

その後、結婚した女性を連れて再び都会に戻り、近郊のニュータウンと呼ばれるところに建てられた団地に住んでいました。

経済の大資本化がさらに進むと、巨大なビルが都心部に建ち、社員たちはそこへ出社して働くようになります。約1時半や2時間ほど自宅から離れていることも当たり前でしたが、通勤するのは夫だけで、妻は専業主婦として家事・育児に専念していました。

しかし、共働き世帯が増えた今、両親ともに片道約1時間半の通勤をこなしながら子育てをするのはほぼ不可能です。できるだけ職場からアクセスの良いところに住もうという流れに変わっていきました。

写真AC

そこで人気が出てきたのが豊洲などのタワーマンションです。郊外の団地がいま、人口減や高齢化で悩んでいるのは、共働き世帯の増加に対応できなくなったという自然な結果とも言えるでしょう。

フルタイムで働く女性は4人に1人という事実

――共働きが増えた背景は具体的にどのようなことがあるのでしょうか。

ふたつあると思います。ひとつは女性の高学歴化です。「高等教育を受けたので、元を取りたい」という動きです。

もうひとつは、男性の給料が思ったほど上がらなくなってしまったことです。

バブル崩壊までいかなくとも、1970年代にはもう高度経済成長の伸びが鈍化してしまい、思ったほど給料が上がらなくなってしまいました。こうした流れは諸外国でも同じ傾向となり、不況などで男性の稼ぎが減り、心もとなくなると女性が働きに出るようになります。

思ったほど給料は上がらないのに、子どもが大学へ行くようになり、学費などの支出はもっとかさんでいく。その結果、家計の足しが必要になり専業主婦だった妻がパートに出て働き、その不足分を補おうとする流れができていきました。

――雇用機会均等法が制定され女性が働きやすくなったからではないのですね。

もちろん均等法による共働き家庭の増加はあると思います。ただ元々、均等法は「フルタイム」で働く女性に向けた取り組みなので、「生活の足し」程度に働くパート女性の働き方の増加には全く関係ありませんでした。

それだけではなく、この均等法は、当初の目的であるフルタイム勤務の女性の増加にもつながりませんでした。厚生労働省の調査によれば、2000年に総合職の採用を行った企業の約半数において、10年後の2010年にはその全員が離職していたという事実が発覚したのです。

その背景には、やはり男性と同じように働く=子育てと両立できないという意識が背景にはありました。

この状況はずっと変わっていません。実は、「フルタイム共働き」の割合は今でも低いままなのです。働き盛りの20代後半から40代の世代のフルタイム共働き率は22〜23%にとどまっています。

つまり、共働きでも4組に1組の夫婦しかフルタイム共働きをしていないのです。M字カーブの落ち込みがゆるくなってきているといっても、あくまでパートで働く女性の増加と言えます。

大学卒業後、フルタイムで仕事をしていても、結婚を機にフルタイムの継続がきついから妻が会社を辞めてパート勤務に切り替えるという、昔ながらのパターンはこの数十年間、ほとんど変わっていないということを示すこの数字は、衝撃的なものだと思います。

「男性の働き方改革」をしないと世の中は変わらない

――今後、共働き世帯の働き方はどのように変わっていくのでしょうか。

やっと最近、変わるきざしが見えてきました。昨今政府主導で進められている、働き方改革です。

先程、長時間の通勤でも触れましたが、朝7時半に家を出て夜10時半に帰宅するという猛烈な働き方をする人が家の中に2人いたら、家庭は成り立ちません。本当は、均等法制定のタイミングでそのことに気づくべきだったのですが、なぜか見過ごされてしまいました。

その原因のひとつに、企業や中央官庁の決定権を持つ人たちは、ほとんどが男性で、かつ妻は専業主婦という人たちが大半だったことにあると思います。徐々に整備されていた育児休業制度で手当をしていれば女性も男性と同じように働けるのではないかという考えを持ってしまったんですね。

しかし、結果的に女性が育児休業から明けて、フルタイムで戻ったとしても時短勤務がほとんどで、その見込みは大きくはずれてしまった。それが、今のような働き方のゆがみを生むようになりました。

今回の働き方改革で、これまでの「男性的」働き方が問題だったことが議論され始めたことには、大きな意味があると思います。

――具体的にはどのような議論が必要なのでしょうか。

外国人労働者が今後増えることが予想され、欧米のように移民が代わりに家事や育児を担うということが制度上可能になるかもしれません。

しかし、日本の家庭は「家の中に他人が入る」ことに抵抗感が強く、一般的なものとしては定着しないでしょう。

そのためにも、いま私たちができることは、男性が定時で自宅に帰るようにするなど、男性の育児や家事の時間を増やすことだと思います。日本男性が家事をする時間は10年間で6分増えたぐらいで、女性の労働時間の増加と比べほとんど変化がないと言っていいぐらいです。


いま、働き方改革に合わせて女性の活躍を推し進めよう、女性の管理職を増やそうという動きも活発ですが、それは結果としてついてくることです。男性の働き方を変えないまま女性管理職だけを増やしても、うまくいかないのは明らかだと思います。

そのためにも、働き方改革の機運が高まっているいま、企業の経営者を含め上層部が、従業員の「共働きのリアル」を正しく認識し、決断するタイミングがきているのではないでしょうか。

※文中、日本男性が家事をする時間を「10年間で6分」に修正しました。合わせて見出し、グラフも変更しました。(2001年と2011年の比較から、2006年と2016年の比較へ変更)5/16編集部

筒井 淳也
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プロフィール
筒井淳也
1970年生まれ。一橋大学社会学部卒業、同大大学院社会学研究科博士課程満期退学。博士(社会学)。現在、立命館大学産業社会学部教授。専門は家族社会学・計量社会学。著書に『仕事と家族』(中公新書、2015)、『結婚と家族のこれから』(光文社新書、2016)、『社会学入門』(共著、有斐閣、2017)などがある。

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