記事

拳銃所持に覚せい剤 2度逮捕された映画監督が法廷で語った映画のような本当の話

2/2

薬物常用者の多くが語る「捕まって助かった」


豊田容疑者は2004年に結婚していたんだけど、奥さん子どもとも別居していた。コカインとLSDは20代半ばから使っていた。覚せい剤で逮捕された時は36歳ですから、10年ぐらい使っていたわけです。裁判で覚せい剤を使った理由を聞かれた豊田容疑者は「2002年に作った映画が公開中止になりムシャクシャして覚せい剤を使ってしまった」と話していました。

自分で企画する映画はモチベーションが高く監督を出来るんだけど、「これを撮ってください」と依頼される職業監督としての仕事はモチベーションが低くなるのでイライラすると。仕事ですから難しいですよね。映画は芸術という一面だけではないと。

裁判の時って情状証人として身内がくるんですよ。情状証人というのは、こんなことやりましたけど本当はいいやつなんですよ。とか「今後は私が面倒を見ます」という人のこと。大体身内が来る中で、豊田容疑者の情状証人は映画「空中庭園」のプロデューサー。覚せい剤で捕まった犯人の情状証人ですから、リスクがあるのに来たわけです。すごいですよね。

今回の事件で、2005年11月にクランクイン予定の映画が無くなりましたと。「空中庭園」だけでなく、その次の作品も事件がきっかけで無くなっているわけですから、プロデューサーは被害者でもあるわけです。裁判では、週1回の打ち合わせで豊田容疑者と会っていたけど気が付かなかったと証言しています。

プロデューサーは「才能があるんでいずれちゃんと映画を撮れるように見守っていきます」と話していました。それぐらい周りの人から買われている人物でもあったわけですね。

私が傍聴していて気になったのは被告人質問です。弁護人から「覚せい剤は2004年9月から常用していたようですけど、どう考えていたんですか?」と問われました。これに豊田容疑者は「ユーモアやギャグが無くなっていく」と答えているんです。無くなっていくらしいんですよ。「自分の映画にはギャグやユーモアは必要なんだけど、それが無くなるということでイラついてました」と。

薬物を使って表現活動をすると思いもよらないすごいものが出来るってイメージがあるじゃないですか。豊田容疑者は違うんですよ。ユーモアもギャグも必要なのに無くなっていくと。弁護人から「映画に必要なものが無くなるというのはどういう意味があるんですか?」と聞かれると、豊田容疑者は「自分には映画しかないと思っているので、死を意味すると思いました」と。

映画に必要なギャグやユーモアが無くなる。自分には映画しかない。だから死を意味する。それなのに止められないという自己嫌悪がある。死ぬと分かっているのに止められない。

撮影中に薬物を使ったことはないそうで、今回捕まったことについては「捕まって助かった」と証言しています。私も薬物事件の裁判をいくつも傍聴してきましたけど、常用者の人は言うんですよね。「自分で止められないから逮捕されることで止めるきっかけになる」って。

でも傍聴していて、この人は映画監督だなと思ったのは、逮捕の前日に薬物を買いに行ったらしいんですけど、その時にものすごい雷雨だったそうなんです。雷雨を浴びながら、頭の中で「これはヤバいかもしれない」という不吉な感じがしたと言うんです。雷雨で身の危険を感じるって、映画のワンシーンにありそうじゃないですか。このあたりの感覚は映画監督だなと思いましたね。

薬物を使うと「自己中心的な脚本になる」


そもそもなんで覚せい剤だけじゃなくて、コカインやLSDに手を出したのか疑問じゃないですか。豊田容疑者は「ドラッグカルチャーへの憧れがあった」と。これに対して検察官が「薬物に手を出したきっかけがドラッグカルチャーへの憧れと言っていましたが、これはどういう意味ですか?」と質問しました。豊田容疑者は「外国の作家とかミュージシャンで薬物に依存して作品を作る、想像する人の思考回路に興味があった」と言うんです。

ロックミュージシャンとか音楽系の人でいますよね。どうやってそういう思考回路を開いたのかが気になると。それでやってみたんだけれど、薬物を使用して脚本を書くと「自己中心的な脚本になってしまい幻覚的な効果は得られなかった」ということなんです。多分、尊敬する人がドラッグを使っているとか、あの作品いいなと思っていたのに自分でやってみたら全然ダメだったと。

弁護人が「アナタの逮捕で撮影の予定は無くなったそうですね」と言いました。さっきも話したように2005年11月にクランクインを予定していた映画の予定が無くなったんですが、さらに2006年の春に予定していた話も無くなった。だからこの人、仕事がガンガン来ていて、映画監督として正にこれから…という時だったんです。

初公判が2005年10月20日なので11月の映画は当然、キャストも脚本も決まっていた。2006年春の映画もスタッフとキャストが決まっていた。それが流れてしまった。「このあとどうするんですか?」と聞いたら「映画監督は続けていかなければならない。映画は1人でやれる仕事じゃないので、作れたらやりたい」と。

過去の作品についても「薬物やっていた映画監督の作品と思われるのが非常に悔しい。なのでこれ以上はドラッグをやらない」と。今回の逮捕も薬物はやってないですからね。逮捕容疑は拳銃の所持なので。だから約束は守っています。


検察官は続けます。「アナタにとって映画って何ですか?」これに豊田容疑者は「私は映画のように生きてきた。今回のような事件があって映画監督であることを自覚できた。本当に映画が大切なものだった。薬物で捕まったことで薬物をやったやつの作品というレッテルを貼られてしまうので、それを拭うためにも薬はもうやらない。私には作品という子どもがいるので」と返答。

これを受けて検察官が「アナタは取り調べの時、仕事や家庭の悩みがたくさんあってそれで薬物を続けてしまったと答えていますけど、アナタの携帯電話の画像を見ると、お子さんの写真がたくさんありましたね。薬物なんかじゃなくて、子どもの写真で心を和ませられたんじゃないですか?」このあたりも映画のワンシーンのような話です。

このあと検察官が懲役2年を求刑しまして、判決が懲役2年執行猶予3年。裁判官によって言う人と言わない人がいるんですけど、説諭といってアドバイスをするケースがあります。今回の裁判官は説諭をする人で「映画監督はなりたくてもなれない人がたくさんいます。アナタは選ばれた人だ。さっき情状証人で立ってくれたプロデューサーは『日本映画を背負う逸材』とまで言っていた。だから更生しないともったいないね」と言って裁判を〆ました。豊田被告はこの言葉を受けて、14年間薬物をやっていないわけです。

結局公開となった空中庭園のチラシには「たった1つだけ私は家族に隠していることがある」というキャッチコピーでした。

薬物って芸能人の犯罪ってイメージがありますけどそうじゃない。一般の人の薬物による犯罪は多すぎるからニュースにならないですが、有名な人が薬物による犯罪をすると大きく報道されます。

今日の初公判だけみても、薬物に関する裁判は21件。多いですよね。セックスドラッグといって恋人だったり奥さんだったり、相方が持ってくるケースもあるんですけど、普通に密売人から購入しているケースもあるし、年齢もバラバラですね。

20年ぐらい前に裁判傍聴を始めた時、その日の裁判の予定表を見て「こんなに覚せい剤があるの」と驚いたものです。

取材後記:このあと阿曽山大噴火さんと東京地裁に行き、この日(4月23日)の薬物事件による裁判の数を見てきました。高等裁判所の刑事事件が4件、地裁での刑事事件が20件。ある日の一日だけで、薬物関連の裁判が24件。ピエール瀧被告の薬物事件をメディアは連日報じていましたが、その影で全く報道されない一般人の薬物事件が数多くあるわけです。もちろん誰であろうと薬物を使うことは犯罪ですが、薬物事件が我々の身近で起きているという現実と向き合うことも必要かもしれません。

(取材構成:おおたけまさよし)

あわせて読みたい

「薬物」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    中年男性とJK密会描く漫画が物議

    BLOGOS しらべる部

  2. 2

    現金にこだわるサイゼ社長に呆れ

    永江一石

  3. 3

    維新が森ゆうこ議員の懲罰を要求

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  4. 4

    スタバのモバイル注文は「残念」

    内藤忍

  5. 5

    現代人にADHD的なミスが多い理由

    BLOGOS しらべる部

  6. 6

    韓国国民はGSOMIAを理解せず?

    AbemaTIMES

  7. 7

    GSOMIA騒動 隠れて不買続く韓国

    NEWSポストセブン

  8. 8

    昭和女性描く漫画 閉塞感に愕然

    紙屋高雪

  9. 9

    元セガ社長の暴露に「ムカつく」

    fujipon

  10. 10

    「芸能人逮捕は陰謀」真剣に検証

    AbemaTIMES

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。