- 2019年05月13日 09:15
元マッキンゼー社長"下町工場をクールに"
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【加藤】最年少でアップルのシニアエンジニアになったり、国際情報オリンピックで世界大会に出たようなトップ人材がいたことが大きいですね。トップエンジニアは普通、グーグルやアマゾンに行って製造業の世界に来ない。彼らをいかにこちらの世界に連れてこられるかが勝負でした。
【田原】スーパーエンジニアの小橋さんとはいつ知り合ったのですか?
【加藤】5年前で、私が大学4年生のときです。シリコンバレーで知人を通してアップルでエンジニアをしていた小橋に会いました。彼も自分で事業をやりたいといっていて、その後も連絡を取りつつ、まず板金からやってみようかと。
【田原】キャディの起業はいつですか。
【加藤】2017年11月です。その2年前から技術的に可能かどうか小橋と検討を始め、開発に1年かけて起業に至りました。
【田原】スタートは順調でしたか?
【加藤】じつは初受注は起業の1カ月前でした。某大手メーカーの案件を紹介してもらったのですが、起業前だから、まだ板金屋さんとのネットワークもできていない。納期がすでに決まっている案件で、受注してから慌てて東大阪に飛んで板金屋さんを探すというスタートでした。
【田原】東大阪? 東京じゃなく?
【加藤】その大手メーカーさんの拠点が兵庫県。何かトラブルがあったときには近いほうが対処しやすいと考えて大阪に向かいました。じつは実際にトラブルは起きたんです。いろいろ回って3社の町工場にお願いしたのですが、3分の3で品質不良が発生。最終的には自分でホームセンターで工具を買ってきて、穴のサイズを広げて納品しました。最初にそういう経験をしたので、品質の管理にはすごく気をつかっています。
【田原】品質を良くするって、腕のない町工場と組まないということ?
【加藤】いや、加工の技術の問題で品質不良になることは1割もありません。大多数は認識の問題です。たとえば白という色でも、重工メーカーと家電メーカーでは、求められるトーンやムラの程度が違います。普段、重工メーカーから受注している町工場がいつもと同じように白く塗った部品を家電メーカーに納めると、バツになることもある。逆もまた然りです。そうした基準のズレが数えきれないくらいあるので、いま「このお客様の基準はこうだ」という情報を追加しています。これが溜まってくると、初めて受注する町工場でも齟齬なく作れるようになります。
■下町工場をクールにしたい
【田原】なるほど。最初の受注以降はどうですか?
【加藤】本格的に事業展開を始めたのは18年の5月。そこからは毎月300~400社のペースで新規のお客様が増えています。19年2月の時点で累計のお客様は3000社を超えました。売り上げは月に30%で伸びていて、四半期で倍になってます。
【田原】すごいペースだ。町工場のほうは何社と組んでいるの?
【加藤】全国で100社です。いまは関東関西で、北は秋田、南は鹿児島まで協業先がいますが、今後はさらに地域を広げていきたいです。

【田原】競合はあるんですか。
【加藤】全国の町工場が協業先であると同時に競合になりえます。ただ、他社から案件を奪っているという認識はありません。私たちがやっているのは再配分。丸投げされて得意・不得意なものをぜんぶやるのではなく、それぞれが得意なものだけができる状況にするので、板金屋さんにとってもメリットが大きい。私たちは板金屋さんに黒字保証をして発注していて、協業先の多くは5~10%ほど利益率が改善しています。
【田原】そこがよくわからない。板金屋さんが儲かって、キャディもマージンを取るわけでしょう。発注側にとっては値上げにならないの?
【加藤】お客様のコストは平均25%下がっています。一見矛盾しているように思えますよね。でも、町工場は得意なものほど人件費などの原価を抑えられます。そのためたとえば同じ商品でも、得意な町工場は1万円、不得意な町工場は5万円で受注したりする。そこで最適配分を行えば、町工場に黒字保証しつつお客様のコストも下げられるわけです。
【田原】今後の事業展開はどうする?
【加藤】板金以外もやっていきます。すでにテストで始めているのが切削加工。金属や樹脂の塊を削って部品を作る分野で、日本で4兆~5兆円の市場があります。さらに電子部品など、調達の製品カテゴリーを順次、拡充していく予定です。また、いずれは調達分野だけでなく、町工場の生産管理やファイナンス、物流を支援していくことも考えています。
【田原】町工場は後継者難で悩んでいますね。加藤さんたちのサービスで、何かいい影響はありますか?
【加藤】2つの貢献ができると思っています。まず1つは直接的で、自動化することで、人数が少なくても回せるようになること。そしてもう1つは、製造業のイメージを変えて、人材が来る業界にすることです。アップルは製造業ですが、イケてる印象があるから、その下請けまで含めて人を採用しやすい。同じように、町工場もスマートでかっこいいんだという空気感をつくっていけたらいいなと。
【田原】事業の拡大期待してます。
■田原さんから加藤さんへのメッセージ
東大の松尾豊教授に「日本は人工知能で3周遅れ」という話を聞いたことがあります。なぜ日本が遅れているかというと、スタンフォードやMITで学んだ優秀な研究者が日本に来ないから。トヨタやパナソニックは、その危機感からシリコンバレーに研究所を作りました。
イノベーションが100年起きていないといわれる「調達」で革命を起こそうとしているのが加藤さん。まさにトップエンジニアと組むことで新しい風を吹き込もうとしている。古くて変わらないと思われていた世界こそ、変化を起こしたときのインパクトは大きい。頑張ってもらいたいですね。
田原総一朗の遺言:古いからこそ変える価値がある
(ジャーナリスト 田原 総一朗、キャディ 代表取締役 加藤 勇志郎 構成=村上 敬 撮影=宇佐美雅浩)
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