記事
- 2019年05月12日 17:11
特集:令和元年の日本経済を考える
1/2
今月からいよいよ「令和」が始まりました。と言っても、すぐさま何かが変わるわけではありません。それでも後から振り返ると、「昭和」と「平成」の日本経済はくっきりと別物に見えてしまう。「元号」は人為的な時代の区切りにすぎませんが、日本史という書物における章立てのようなものではないかと思います。おそらく「平成」と「令和」の間にある現在も、後の時代から見れば大きな転機に映るのではないでしょうか。
本号では、①あらためて「令和元年」の日本経済を取り上げ、②平成30年間を振り返り、③令和の日本経済の課題を考えてみようと思います。何年か後になって本号を読み返してみると、意外な発見があるかもしれません。
このデータが意味するところは重い。昨年の10-12月期の指数を平均すると105.1となる。今年1-3月分は平均101.9となるので、単純計算すると前期比▲3.0%となる。本誌3月8日号「日本経済の緊急再点検」でも指摘した通り、日本経済はGDPと鉱工業生産がほぼ連動する。その生産が落ち込んでいるということは、5月20日に公表予定の1-3月期GDP速報値もマイナス成長となる公算が大ということだ。
ちなみに、同時に発表された製造工業生産予測調査では、4月は+2.7%、5月は+3.6%と高い伸びを示すことになっている。この予測が正しければ、5月の指数は108.5という久々の高水準となる。それに伴い、4-6月期GDPは大幅プラス成長ということになるかもしれない。もっとも、それが明らかになるのは8月中旬になってから、ということになる。

芳しくない生産のデータは、そのまま輸出の落ち込みを反映している。その輸出は3月分までが公表済みだが、下記の通り1月の急落からは踏みとどまったものの、今後が「V字回復」となるかどうかは何とも微妙なところである。

しかもここへ来て、米中通商摩擦が再燃している。日本時間で5月10日午後1時、米国は対中輸入品2000億ドル分に対する関税率を10%から25%に引き上げた。同時刻のワシントンでは米中閣僚級協議が行われているが、米国側には対中不信感がくすぶっているようで、いくら「トランプ劇場」でも一気に合意という感じではなさそうだ。
米中貿易戦争が本格化すると、外需依存型の日本経済にとってはいよいよ逆風である。平成の30年間は中国経済が飛躍的な成長を遂げ、アジアにIT産業を中心とするグローバル・バリュー・チェーンが構築された時期であった。そのことによって、日本経済も大いに裨益したわけだが、現在進行中の事態は容易ならざる事態ということになる。
4月18日、萩生田自民党幹事長代行がインターネットTVで増税延期の可能性に言及し、「その場合は国民の信を問う必要がある」、「ただしダブル選挙は日程的に難しい」、と発言した。特に「日銀短観の6月調査を見る必要がある」と言った点に現実味があった。
しかし、その場合は7月1日まで待たねばならず、それから解散→総選挙→特別国会召集→首班指名という手続きを踏んでいたら、10月1日からの増税予定を変更するのはさすがに間に合わないだろう。萩生田発言を「官邸と気脈を通じた観測気球」とみる向きもあったけれども、それはさすがに無理があるのではないか。
それでは、5月20日に公表される1-3月期GDP速報値を見て判断する、という考え方はどうか。前述通りマイナス成長が予想されるところだが、それはかなりの部分まで織り込み済みである。少なくとも「リーマンショック級のことがない限り、方針に変わりはない」というこれまでの政府答弁を変更する理由にはならないだろう。
もうひとつの難点は、民間の「消費税対策」が既に進行中であることだ。昨年秋時点では、中小零細企業の増税対策はあまり進んではいなかった。しかし3月の確定申告、4月の消費税申告、5月の3月決算などが終われば、小売店は嫌でも軽減税率などへの対応に追われることになる。「消費税対応マニュアル」や「新しいレジ」を導入した後で、増税延期だと言われた場合の現場の混乱は容易に想像できるだろう。
実はこの議論、経済情勢ではなくて政治情勢から逆算して「3度目の増税延期説」が浮上している気配がある。
4月1日に新元号「令和」が発表されてから、内閣支持率は軒並み上がっている。3月と4月の世論調査を比較すると、共同+9.5%、時事+4.0%、朝日+3%、読売+3%、毎日+2%、NHK+5%、産経+5.2%という数字が並ぶ。4月は統一地方選挙と統一補欠選挙があり、確かに補選では与党が2連敗した。しかし場所は大阪府と沖縄県なので、いずれも「不思議の負け」という感じではない。さらに野党が勝ったというわけでもなく、現に立憲民主党と国民民主党を合わせた「旧民主」の議席は、統一選挙前に比して減っている。なおかつ、参院選に向けた野党統一候補の擁立は遅々として進んでいない。
そこで永田町の論理として、7月の参院選をダブルにしてしまえ、参院で進まない候補者調整が衆院でできるはずがない、野党をつぶす絶好の機会だ、という声が出てくる理屈である。そして解散の大義名分として、「増税先送り」が持ち出される。動機が不純というか、さすがに本末転倒ではないだろうか。
ちなみに以前には、「日ロ平和条約締結で国民の信を問うために、大阪G20首脳会議後の解散説」もあったが、昨今の日ロ交渉を見るとそれは望み薄のようである。
本号では、①あらためて「令和元年」の日本経済を取り上げ、②平成30年間を振り返り、③令和の日本経済の課題を考えてみようと思います。何年か後になって本号を読み返してみると、意外な発見があるかもしれません。
●輸出と生産はリバウンドするか?
連休前、最後の出勤日であった4月26日(金)は経済統計の集中日であった。朝から鉱工業生産が気になっていたのだが、ついつい間に合わずに家に帰ってからチェックして、数字を見て驚いた。3月の生産指数(季節調整済み)は101.9であり、前月比▲0.9%となっている。先月時点の予測は+1.3%であり、今年1月の急落分を取り戻すはずであった。これに伴い経済産業省は、基調判断を「生産はこのところ弱含み」へと下方修正した。このデータが意味するところは重い。昨年の10-12月期の指数を平均すると105.1となる。今年1-3月分は平均101.9となるので、単純計算すると前期比▲3.0%となる。本誌3月8日号「日本経済の緊急再点検」でも指摘した通り、日本経済はGDPと鉱工業生産がほぼ連動する。その生産が落ち込んでいるということは、5月20日に公表予定の1-3月期GDP速報値もマイナス成長となる公算が大ということだ。
ちなみに、同時に発表された製造工業生産予測調査では、4月は+2.7%、5月は+3.6%と高い伸びを示すことになっている。この予測が正しければ、5月の指数は108.5という久々の高水準となる。それに伴い、4-6月期GDPは大幅プラス成長ということになるかもしれない。もっとも、それが明らかになるのは8月中旬になってから、ということになる。


米中貿易戦争が本格化すると、外需依存型の日本経済にとってはいよいよ逆風である。平成の30年間は中国経済が飛躍的な成長を遂げ、アジアにIT産業を中心とするグローバル・バリュー・チェーンが構築された時期であった。そのことによって、日本経済も大いに裨益したわけだが、現在進行中の事態は容易ならざる事態ということになる。
●「3度目の消費税延期説」の不気味
こんな風に景気の先行きが怪しくなってくると、案の定、聞こえてくるのが「消費税の増税延期とダブル選挙説」である。4月18日、萩生田自民党幹事長代行がインターネットTVで増税延期の可能性に言及し、「その場合は国民の信を問う必要がある」、「ただしダブル選挙は日程的に難しい」、と発言した。特に「日銀短観の6月調査を見る必要がある」と言った点に現実味があった。
しかし、その場合は7月1日まで待たねばならず、それから解散→総選挙→特別国会召集→首班指名という手続きを踏んでいたら、10月1日からの増税予定を変更するのはさすがに間に合わないだろう。萩生田発言を「官邸と気脈を通じた観測気球」とみる向きもあったけれども、それはさすがに無理があるのではないか。
それでは、5月20日に公表される1-3月期GDP速報値を見て判断する、という考え方はどうか。前述通りマイナス成長が予想されるところだが、それはかなりの部分まで織り込み済みである。少なくとも「リーマンショック級のことがない限り、方針に変わりはない」というこれまでの政府答弁を変更する理由にはならないだろう。
もうひとつの難点は、民間の「消費税対策」が既に進行中であることだ。昨年秋時点では、中小零細企業の増税対策はあまり進んではいなかった。しかし3月の確定申告、4月の消費税申告、5月の3月決算などが終われば、小売店は嫌でも軽減税率などへの対応に追われることになる。「消費税対応マニュアル」や「新しいレジ」を導入した後で、増税延期だと言われた場合の現場の混乱は容易に想像できるだろう。
実はこの議論、経済情勢ではなくて政治情勢から逆算して「3度目の増税延期説」が浮上している気配がある。
4月1日に新元号「令和」が発表されてから、内閣支持率は軒並み上がっている。3月と4月の世論調査を比較すると、共同+9.5%、時事+4.0%、朝日+3%、読売+3%、毎日+2%、NHK+5%、産経+5.2%という数字が並ぶ。4月は統一地方選挙と統一補欠選挙があり、確かに補選では与党が2連敗した。しかし場所は大阪府と沖縄県なので、いずれも「不思議の負け」という感じではない。さらに野党が勝ったというわけでもなく、現に立憲民主党と国民民主党を合わせた「旧民主」の議席は、統一選挙前に比して減っている。なおかつ、参院選に向けた野党統一候補の擁立は遅々として進んでいない。
そこで永田町の論理として、7月の参院選をダブルにしてしまえ、参院で進まない候補者調整が衆院でできるはずがない、野党をつぶす絶好の機会だ、という声が出てくる理屈である。そして解散の大義名分として、「増税先送り」が持ち出される。動機が不純というか、さすがに本末転倒ではないだろうか。
ちなみに以前には、「日ロ平和条約締結で国民の信を問うために、大阪G20首脳会議後の解散説」もあったが、昨今の日ロ交渉を見るとそれは望み薄のようである。
- 吉崎達彦(かんべえ)
- 双日総合研究所取締役副所長・同主任エコノミスト。



